── |
荒木さんは、2010年に映画化もされた作品
『ちょんまげぷりん』をはじめ、
小説家として活躍されているわけですが‥‥。
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荒木 |
ええ。
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── |
本日は、あえて「小説家・荒木源」ではなく、
「主夫・荒木源」に
フォーカスさせていただければと思いまして。
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荒木 |
ええ、「そっちの取材」だということは
聞いております。
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── |
恐れ入ります。
当然、小説のお話にもなるとは思うんですが
「主夫」とは、
いったい、どのような毎日を送っているのか、
以前から、すごく興味がありまして。
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荒木 |
やっていることは、一般の主婦のみなさんと
変わらないと思いますが‥‥なぜですか?
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── |
僕の家庭は、いわゆる「共働き」なのですが
ひとつの「あこがれ」といいますか、
「奥さんがはたらき、
自分が炊事洗濯や子育てをする」
という形態が
やってみたいなと思う家族のカタチとして
ずっと、頭にあったんです。
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荒木 |
ああ、そうなんですか。
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── |
荒木さんのお宅では
ようするに、奥様がお勤めに出ていらして
荒木さんが
ハウスキーピングをされている、と。
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荒木 |
そうです。
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── |
でも、僕などが「やってみたいな」と思うのと、
「一生やる」のとでは
心がまえからして、ぜんぜん違うと思うんです。
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荒木 |
まあ‥‥そうでしょうね。
ためしに「1週間やってみる」というのと、
永久かどうかはともかく
基本的には
「自分の領分だ」と思って、やるのとでは。
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── |
荒木さんの場合、
基本的に、職業は主夫ということで
よろしいのでしょうか。
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荒木 |
厳密には、微妙な問題ですね。
現に、小説家としてものを書いてますから。
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── |
そうですよね。
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荒木 |
ただ、兼業主夫であることはたしかですし
それに、こんなことを言ったら
編集者さんに怒られてしまいそうですけど
消費エネルギーで言えば
ずっと多くを家事に費やしています。
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── |
ははー‥‥。
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荒木 |
かつ、2010年に『ちょんまげぷりん』が
売れるまでは、
それまで14年やっていたとはいえ、
文筆業のほうでは、さほどの収入もなく、
はっきり言って
自分ひとりでさえ、食えないようなレベルでした。
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── |
そうでしたか。
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荒木 |
ですから、経済的存在としては絶対的に、
完全なる主夫だなと思っていました。
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── |
なるほど。
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荒木 |
ただ将来、子どもが大学に入ったタイミングで
主夫業には区切りをつけ、
文筆業に専念したいなとは思っていますが。
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── |
では「今後、変わっていくかもしれない」
という前提で、本日は
10年以上続けてこられた「主夫」のお話を
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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荒木 |
それでよければ、承知しました。
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── |
さっそくですが「主夫歴」と言いますと?
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荒木 |
勤めていた会社を辞めてからだから‥‥
16年になりますね。
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── |
ベテラン主夫ですね。
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荒木 |
長いっちゃ長いです。子どもも育てましたし。
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── |
でも、もともとは、新聞社にお勤めだったと。
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荒木 |
ええ。
むかしから作家になりたかったんですが
いざ、本気で目指そうというとき、
新聞記者とのかけもちは、難しかったんです。
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── |
忙しい人の代名詞みたいな感じですものね。
新聞記者さんって。
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荒木 |
さいわい、かみさんが同じ会社にいまして、
私が仕事を辞めたとしても
経済的には
すぐに困ってしまうわけでなかったんです。
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── |
それで、記者をお辞めになり、主夫の道へ。
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荒木 |
それは、ある種の責任感でもありました。
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── |
とおっしゃいますと?
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荒木 |
かみさんがお金を稼いできてくれるなら
私が、家事や育児を担当するのがスジ
ですから。
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── |
なるほど。
そう思って主夫業を担当されはじめたのが、
16年ほど前であると。
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荒木 |
そうですね。
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── |
今でこそ「イクメン」とかっていう言葉も
ありますけれど、
そのころは「主夫」という存在じたい‥‥。
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荒木 |
聞いたことないですね。
まわりで、見たこともないし。
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── |
それでは、主夫・荒木さんの
1日のスケジュールを、教えてください。
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荒木 |
朝は、とにかく
子どもを学校に出す。それで終わります。
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── |
慌ただしい、日本の朝の家庭の風景ですね。
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荒木 |
まあ、出してしまえば
基本的には、帰ってくるまで原稿を書くんですが、
その合間合間に、
炊事洗濯したり、掃除機をかけたり、
庭の手入れをしたり、
風呂を洗ったり、買い物に出たり‥‥。
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── |
ハウスをキープされている。
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荒木 |
そう。
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── |
で、お子さんが学校から帰ってきたら
また、お世話がはじまる、と。
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荒木 |
そうですね。
基本的には、晩メシをつくって、食って、
私、夜は酒を飲むので、
酒を飲んだら原稿を書けませんから、
そのあとは
本を読んだり、テレビを見たりしながら
ま‥‥風呂に入って寝ると。
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── |
はい。
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荒木 |
‥‥こういう取材でいいんですかね?(笑)
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── |
はい、大丈夫です。
それでは、荒木さんの「得意メニュー」を
教えてください。
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荒木 |
得意メニュー、得意メニュー‥‥。
評判いいのは、しめサバとかかな。
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── |
おお、すごい!
何と言ったらいいんでしょう、
カレーとかハンバーグじゃないところが。
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荒木 |
材料さえあれば、何でもつくりますよ。
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── |
はぁー、さすがに本格的ですね。
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荒木 |
いや‥‥それが「主夫」のふつうの仕事だから。
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── |
そうか、そうですよね。失礼しました。
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荒木 |
でもまあ、基本的に飲み食いは好きなんです。
居酒屋なんかに行っても、
オヤジさんが
カウンターの向こうで何かつくってると
あれは何だろう、
どうやってつくってるんだろうって、
よく観察してますし、
馴染みの店だったらレシピを聞いたりとかね。
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── |
向いてらっしゃった、というわけですか。
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荒木 |
かみさんなんかは、
私の料理を「おいしい、おいしい」と言って
食べてくれるけど、
「どうやって、つくるんだろう」
ということは
考えもしないって言うんですよ。
だから、私はやっぱり、
もともと興味があったんでしょうね。
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── |
ちなみに、新聞社にお勤めだったころは
どのようなお仕事だったんですか。
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荒木 |
新聞社のなかでも
もっともキツい部署のひとつと言われる
司法記者クラブに属していました。
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── |
へぇー‥‥それじゃあ、
いわゆる夜討ち朝駆け的な人として。
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荒木 |
まさに、そうですね。
事件が起きれば、東京地検特捜部の官舎前で
午前2時くらいに帰ってくる検事を待って。
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── |
はー‥‥。
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荒木 |
次の日の朝、
午前6時には出かけていく検事をまた待って。
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── |
聞くだに、たいへんなお仕事です。
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荒木 |
事件というのは、選挙などと違いまして
いったん起きたら、終わりが見えないんです。
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── |
そうですよね。
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荒木 |
記者は、その間ずっと
「いつ、終息するのか」と思いながら
「他の新聞社に抜かれやしないか」と
戦々恐々としているんです。
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── |
抜かれる、というのは
特ダネをすっぱ抜かれるという意味ですね。
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荒木 |
数時間、ソファで仮眠をとるくらいで
ろくに寝れない夜が続いたり‥‥。
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── |
体力的にも、つらいですね。
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荒木 |
そのようなハードな経験をしたのちに
主夫となり、育児をしてみると
乳幼児を抱えるお母さんというのは
特捜部まわりと同じくらい大変だと。
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── |
はー‥‥。
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荒木 |
身を持って知りました。
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── |
そうですか!
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荒木 |
まず、自分の時間が、まったくない。
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── |
ええ、ええ。
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荒木 |
事件や同業他社同様、
子どもは、
こっちの都合をかまってくれない。
他社は、こっちが嫌がるように嫌がるように
特ダネ抜いてくるわけで、
それに振り回されっぱなしになるところも、
子どもの世話と、おなじ。
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── |
なるほど。
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荒木 |
事件や特ダネ競争に付き合わざるを得ないように
子どもの起きている間は
子どもに付き合わざるを得ない。
事件の終わりが見えないのと同様、
この子が
いつ寝てくれるかは、わからない。
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── |
荒木さん‥‥。
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荒木 |
はい。
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── |
‥‥ものすごい説得力です。
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荒木 |
そうですかね?
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── |
だってそれ、両方を経験した人じゃないと
言えないことじゃないですか。
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荒木 |
ま、わたしなどは、
保育園に子どもを預けることができましたから
まだマシだったと思います。
都市部では
保育園の数が足りないなどの問題をはじめ
お子さんを預けたくても預けれらない
お母さんが、たくさんいますよね。
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── |
ええ。
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荒木 |
ですから、そういったお母さんに対しては
本当にすごい、
本当に偉いなと尊敬しているんです。 |
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<つづきます> |