── |
あらためて、なんですが
もし「団地の定義」みたいなものがあったら
教えてください。
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千葉 |
不動産業者的な文脈に限定して言うと
「ひとかたまりの敷地に
複数の集合住宅の棟が建っている」ものを
「団地」と呼んでます。
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── |
へぇー‥‥。
ぼくは「エレベーターがない」のが「団地」だと
ずっと思っていました。
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千葉 |
いえいえ、定義の上では
「一戸建ての団地」も存在しますから。
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── |
なるほどそうか、
単一の敷地内に、複数の一戸建てが建ってれば。
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千葉 |
民間のディベロッパーが売り出している
大規模な集合住宅も、
ひとかたまりの敷地に何棟も建っていれば
「団地」なんですよ。
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── |
アーバンライフなんとか、みたいなのも。
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千葉 |
はい。
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── |
誰も「団地」と呼ばないだけで。
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千葉 |
そう。
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── |
つまり、団地というのは
かならずしも「ふるい」というわけじゃなく、
「新築の団地」が
今も建設されているということですね。
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千葉 |
そうです。
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── |
千葉さんは、そうやって新旧数ある団地から
物件をセレクトしているわけですが
そこに「傾向」とか「基準」みたいなものは、
あるんでしょうか?
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千葉 |
新築の建物にもいいところはあるんですが
やはり、先ほど話した
「団地がいろいろ実験されていた時代」の物件は
魅力的なので、紹介したくなりますね。
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── |
ざっくりいうと「ふるい物件」ですか。
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千葉 |
そうですね、新しいかふるいかで言えば
そうなんですけど、
やはり存在感‥‥ということかなぁ。
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── |
その「存在感」の正体って、何なんでしょう。
ただ単に
「建物がふるければいい」というわけでも
ない‥‥ということですか。
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千葉 |
んー‥‥それじゃあ、具体的な団地物件を
いくつかご紹介してみましょうか。
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── |
ぜひ、お願いします!
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千葉 |
それでは、そうですね‥‥まずはこれとか。
芦屋浜シーサイドタウンという物件。
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── |
芦屋浜?
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千葉 |
1979年、神戸の埋立地に竣工した
メガストラクチャー(超巨大な建造物)
なんですけど‥‥。
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── |
うわ、めちゃくちゃかっこいい!
‥‥これ、団地なんですか?
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千葉 |
はい。
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── |
なんでしょう、団地という言葉が醸し出す
のんびりとしたイメージとは、
まったくかけ離れた、このソリッド感。
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千葉 |
ええ。
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── |
ふるいどころか、
なんか近未来的で‥‥SFアニメの世界みたい。
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千葉 |
モビルスーツっぽいんですよね。
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── |
なるほど! つまり‥‥。
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千葉 |
ガンダムっぽい。
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── |
ものすごい形容ですね‥‥ピッタリです。
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千葉 |
ただ、「新しい感じ」もしないんですけど。
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── |
そうですね、たしかに。
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千葉 |
ちなみに、芦屋浜シーサイドタウンが特別なのは
この「見た目」だけじゃないんです。
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── |
というと?
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千葉 |
家具や設備だけでなく、この巨大な建築物全体を
「プレハブ」で造ってしまおうという
まさに「高度成長時代の一大実験」を、やってる。
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── |
‥‥プレハブ。
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千葉 |
ようするに、この建物に使われているパーツ、
床とか壁とか柱とかを
あるていど先に工場で生産してしまい、
現地では、それらを組み立ててるだけなんです。
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── |
でっかいプラモみたいな?
それこそ「ガンダム」じゃないですか。
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千葉 |
ま、今ではふつうの工法ですけど。
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── |
当時は、新しかったと。
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千葉 |
そうですね、2階建てのテラスハウスなんかは
プレハブでつくってましたけど
当時はまだ、いろいろ試行錯誤していたんです。
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── |
ええ、ええ。
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千葉 |
プレハブ工法には
現場作業の比率を抑えて効率化し
コストダウンや
工期短縮を図ろうという意図があるんですけど、
それを、ここまで巨大な建造物で
やってしまったのは、かなりの衝撃でした。
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── |
ははー‥‥。
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千葉 |
田中角栄さんの『日本列島改造論』という本が
ベストセラーになった、
そういう「工業化まっしぐら時代」の最先端に
そびえたっていた団地です。
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── |
なんだか、すごいです。
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千葉 |
各住戸には、敷地内にある巨大ボイラーから
温風やお湯が届けられ、
近くの焼却施設まで自動的にゴミを運んでくれる
真空のダストシュートが備わっていたり、
当時の渾身のテクノロジーが投入されています。
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ここから近隣の焼却施設へゴミが運ばれてゆく。 |
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── |
今の感覚からしても未来感高いですね。
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千葉 |
それと、ふつうの建物の場合、
各階ごとに「柱と梁で支える」構造なんですが、
この建物は、ちょっと違ってて。
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── |
‥‥というと?
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千葉 |
5層ごとに「区切り」みたいな部分が
見えると思うんですが‥‥。
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── |
団地の表面に、はい。
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千葉 |
どうして、ああなっているかと言うと
この建物は
「何本かの高強度なスーパー柱」と
「5層毎の高強度なスーパー梁」で
巨大フレームを組み立て、
それで建物を「5階づつ」支えてるんですね。
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── |
‥‥はぁ。
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千葉 |
そして各部屋は、その5層分のフレームの間に
「ユニット」みたいにして
はめ込む感じで、作られているんです。
これを「スーパー・ストラクチャー」
というんですが。
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── |
そうすることで、どんな意味が?
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千葉 |
いくつかポイントがあると思うんですが、
いちばん大きいのは
「平面計画の自由度」「居住性」です。
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── |
ははぁ。
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千葉 |
たとえば「20階建の建物」をふつうに建てたら
その「20階」を支えるだけの数、大きさの
「柱」や「梁」が必要になるんですが、
この構造にすると
「5階ぶんだけの荷重を支える部材」があれば
構造を支えられるんです。
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── |
柱や梁が、小さくていいし、少なくていいと。
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千葉 |
そうです。だから、そのぶん、
建物内に「居住性の高い大空間」を作れるんです。
芦屋浜の、あの「5層ごとの区切り」の部分って
広々とした共有部分になってるんですよ。
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── |
へぇー‥‥庭みたいに。
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千葉 |
あと、これは建築思想的な話になるんですが、
メタボリズムの系譜を引いてるとも言えます。
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── |
ああ、あの、黒川紀章さんが設計した
個性的なマンション‥‥
「中銀カプセルタワー」とかでしたっけ?
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(c)2008 Wiiii |
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千葉 |
そう、メタボリズムというのは
「新陳代謝」ということを意味しますけど、
つまり、大きな構造物に
各住戸を「ユニット」として差し込んで、
ダメになったら引っこ抜いて
その部屋だけ取り替えよう‥‥というような思想。
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── |
ええ。
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千葉 |
社会や都市を「生き物」みたいに捉えて
その動きや成長に合わせて
建物も柔軟に変化させていこうという
思想なんですけど、
実際は「部屋を入れ替える」なんてことは
難しいですし、
そんなコストのかかることは、
事実、一度もなされませんでした。
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── |
はい。
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中銀カプセルタワービルの室内。 |
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千葉 |
芦屋浜シーサイドタウンの場合は、
竹中工務店、新日本製鉄、
高砂熱学工業、松下電工、松下興産という民間企業と
国・県・市、公団・公社が手を組んで
建ててますから、
技術的な側面の強い団地だとは思いますが。
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── |
なるほど、建築思想と言うよりも。
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千葉 |
構造だけを取り出して見れば
メタボリズムの考え方と親和性があると思います。
その他には‥‥そうだ、
スターハウスって、ご存知ですか?
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── |
いえ、知らないです。
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千葉 |
団地マニアの人には有名なんですけど
Y字型になってるんです、真上から見ると。
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── |
わ、なんだこの形? おもしろーい!
‥‥「星型」だから、スターハウス?
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千葉 |
そうです。
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── |
どんな理由で、こんな形なんですか?
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千葉 |
一時期、けっこう建設されてたんですけど、
実験住宅的な意味もあったと思います。
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── |
実験住宅。
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千葉 |
まず「となり部屋」がないし‥‥。
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── |
はい?
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千葉 |
ようするに、集合住宅なのに、
構造上、となりの部屋と接していないんです。
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── |
あ、本当だ。
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千葉 |
そして3方向に、外へ向く窓がついていて
風通しは抜群だし、
どこかしら南に向くように建てられる。
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── |
‥‥いいことづくめですね。
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千葉 |
ある意味、とてもぜいたくな造りなんですが
その代わり、部屋のなかが
同じ階の別の部屋から「丸見え」だったりします。
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── |
あー‥‥本当ですね。
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千葉 |
今、どんどん解体されてますけど、
このスターハウスって
ハコ型の巨大団地が整然と並ぶ敷地のなかで
飾り的、
アクセント的に建てられることが多いんです。
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── |
団地のなかでも
「ちょっと変わった人たち」だったと。
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千葉 |
そうです。
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── |
他の「真面目な人たち」が、ビシッと、
背すじを伸ばして「前へならえ」してるなか。
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※画像をクリックすると写真が拡大します。
千葉県松戸市の常盤平団地。ハイライト部分に、10棟ほどのスターハウスが。 |
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千葉 |
そう、ふた駅にまたがるような巨大な団地群に
たったの10棟くらいとかの数。
実際、スターハウスだけで構成された
団地というのは
日本で一箇所しかありませんでした。
大阪の帝塚山住宅といって、
もう、取り壊されちゃいましたけど。
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── |
それはつまり、あくまで「実験住宅」だから?
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千葉 |
それもあるでしょう。
URさんは、ひとつの敷地全体にたいして
基本「2割、実験してる」らしいので。
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── |
へー‥‥、そうなんですか。
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千葉 |
でもたぶん、思うんですけど、もうひとつには
「巨大団地」という
徹底して合理性を求められる集合住宅に
四角四面な建物だけだと
息が詰まっちゃうからだと思うんですよね。
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── |
はー‥‥。
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千葉 |
スターハウスみたいな
「ちょっとおかしな建物」を混ぜておくことで
「人間らしさ」を
醸し出そうとしてるんじゃないかと思うんです。
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── |
巨大団地という人工的な環境に。
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千葉 |
ええ。
整然とした全体性のなかに「特異な点」を、
わざとつくってるんですよ。
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── |
以前、養老孟司さんが
人体が「無菌状態」でいられないのと同じように、
都市にも「下町」的な
ある意味で「ウィルス的な場所」がないとダメで、
官公庁しかないような
人工的につくった都市がうまくいかないのは、
そのせいだっておっしゃってたことがあって。
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千葉 |
へぇー‥‥。
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── |
その話に似てるな、と思いました。
さっきの「メタボリズム」とは別の意味で
人体的というか、有機的な考え方というか。
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千葉 |
なるほど、わかります。
ぼくたちが紹介したいなと思う団地物件も、
棟と棟の間隔が妙に開いてたり、
樹齢何十年みたいな巨木が生えていたり、
おかしな遊具があったり、
商店街が、なんかあじわい深かったり‥‥
環境そのものとして、魅力的な団地
ですから。
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── |
建物だけ、ではなくて。
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千葉 |
はい。 |
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<つづきます> |
中銀カプセルタワービルの写真の著作権に関する情報
撮影者 Wiiii
タイトル 中銀カプセルタワー、東京都中央区、黒川紀章設計、1972年。
出典 wikipedia
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