── |
こんなに小柄な女性が‥‥といったら
失礼とは思うんですけど、
でも、あんなに大きな航空機の整備を。
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加古 |
はい。
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── |
何となくですが、航空機の整備士さんって
腕っぷしの強い男の世界、
みたいな、勝手なイメージがあったので。
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加古 |
でも、そうですよね。
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── |
今日みたいな大雨の日なんか、ずぶ濡れで。
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加古 |
はい、それは。
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── |
成田の整備士さん全体で
女性は、どれくらいいらっしゃるんですか?
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加古 |
私の所属している部署では
1000人中20数名なので、
割合でいうと「2%ちょっと」ですね。
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── |
やはり圧倒的に「男の世界」であると。
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加古 |
でも、整備士になるために入ったので
男とか女とかっていうのは
ぜんぜん、気にしていないんです。
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── |
ええ、そうですよね。
ちなみに
航空整備士には「種類」があるんですか?
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加古 |
はい、あります。
機体整備、ショップ整備、ライン整備。
そのうち私は、
ライン整備士として、勤務しています。
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── |
それぞれ、どのような‥‥。
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加古 |
まず「機体整備」というのは、
機体を「ハンガー」と呼ばれる格納庫に入れ
定期点検する仕事です。
300時間なり500時間なり飛んだ機体を
格納庫に入れて、
時間をかけて、じっくり整備しています。
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── |
つまり「車検」みたいな感じで。
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加古 |
まさに、そうです。
そして「ショップ整備」というのは
機体から下ろした部品を
メンテナンス、修理点検する仕事です。
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── |
で、加古さんの「ライン整備」は‥‥。
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加古 |
アライバル(到着)から
デパーチャー(出発)までの間の、
すぐにでも飛べる状態にある機体を整備します。
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── |
なるほど。
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加古 |
飛行機というのは
到着後「1時間半から2時間」くらいで
飛んでいってしまうんです。
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── |
次の目的地へ向けて。
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加古 |
ですから、その1時間半なり2時間の間に
フライト中の不具合を修理したり、
持ち越し可能なアイテムを判断したり‥‥。
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── |
「持ち越し可能なアイテム」というのは?
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加古 |
不具合の種類によっては
時間との兼ね合いで
次の空港まで「持ち越してもOK」なものがあり、
その判断をくだす、ということです。
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── |
それって具体的には、どんなものですか?
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加古 |
お客さまの安全に、問題ない範囲の不具合です。
たとえば「テーブルが少し傾いていたり」など。
時間が足りず、
そのテーブルの席を使わなくて済むならば、
「持ち越し」にすることがあるんです。
ただ、何でもかんでも
「持ち越し」できるわけではなくて
きちんとしたルールが、あるんですけれど。
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── |
その判断を、加古さんがされている、と。
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加古 |
はい。パイロットと
「ここについては持ち越せますね。
こっちは直しましょう」
という話をして
時間までに、
安全に飛行機を出すのが私の仕事。
機体整備が「車検」なら
ライン整備は「F1のピットイン」みたいな
感じでしょうか。
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── |
‥‥か、かっこいい。
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加古 |
そして、その過程で見つかった
不具合のあるエンジンやギアボックスなどを
修理するのが「ショップ整備」なんです。
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── |
なるほど‥‥よーく、わかりました。
ちなみに
機体一機を、何人くらいで見てるんですか?
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加古 |
私たちライン整備の場合は、だいたい2人。
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── |
たった2人で? あの大きな機体を?
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加古 |
はい。
2人で分担してきちんとチェックしています。
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── |
では、飛行機が到着したら、まず何を?
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加古 |
第一には
アライバル自体に問題がないか、ですね。
つまり、エンジンから煙が出ていないか、
タイヤに異常はないか、
オイルが漏れてはいないか‥‥。
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── |
それを遠目から見る、と
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加古 |
機体がスポットに着いたら、外観チェック。
ウォークアラウンド、
つまり飛行機のまわりをぐるっとまわって
目視で点検します。
ランディングギアやオイルのコンディション、
ディープカットつまり
タイヤに深い亀裂が入っていないか、
プレッシャーが低かったらサービスしてもらって‥‥。
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── |
プレッシャーというのは、タイヤの空気圧。
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加古 |
はい。それから、キャビンのなかに入って
お客さまのシートに、不具合がないか。
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── |
お聞きしていると「時間との戦い」ですね。
最短で「1時間半」くらいの間に
いかに修理を進めつつ
時間通りに飛行機を出せるか‥‥という。
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加古 |
そうなんです。
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── |
チェックポイントの数って‥‥。
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加古 |
数えたことないです(笑)。
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── |
じゃあ「ここは、特にすごい重要」みたいな
チェックポイントは、あるんでしょうか。
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加古 |
んー‥‥‥‥ぜんぶ大事。
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── |
ですよね‥‥。失礼しました。
いや、どうしてこんなこと聞くかというと
加古さんのお仕事って
具体的に言ったら「ネジが緩んでいる」とか
そういうレベルからの話じゃないですか。
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加古 |
そうですね。
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── |
現代の航空機が
いかに「コンピュータ管理」といえども
さすがに「ネジの緩み」までは‥‥。
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加古 |
感知してくれないです。
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── |
その場合は、つまり「見て」ですよね?
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加古 |
自分の目で見て、判断するしかないです。
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── |
機体一機に、ネジが何千個のあるか
わからないですけど、
本当に、すごいお仕事だなあと思います。
だって、限られた時間のなかで
1本1本、緩んだネジを見つけて締め直す、
その積み重ねのうえに「乗客の安全」が
かかっているわけですもの。
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加古 |
もちろん、どうしたって2時間、3時間かかる
修理箇所だってありますし、
それが持ち越し制限にかかっていれば
時間をかけてでも、絶対に直さなきゃダメです。
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── |
飛行機を遅らせてでも。
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加古 |
直さなければ、パイロットに機体を渡せません。
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── |
あ、なるほど、
整備士さんが、パイロットに「渡す」んですね。
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加古 |
飛行機には「ログブック」つまり
「航空日誌」というノートが、乗ってるんです。
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── |
はい。航空日誌。
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加古 |
まず、整備した私たちが
「この飛行機は大丈夫だ」というサインをして
パイロットに渡します。
そして、パイロットがそれを見て
「なるほど、
たしかにこの機は大丈夫だ」と確認できたら
彼らも、サインをする。
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── |
ええ。
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加古 |
そうすることで、飛行機は飛んでいく。
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── |
なるほど。
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加古 |
そうすることで、飛行機は、
私たちの責任で飛んでいくんです。 |
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<つづきます> |