── 加古さんが、整備士になろうとしたきっかけは
何だったんでしょう。

飛行機がお好きだった‥‥とか?
加古 そうですね、空への憧れはありました。
もともと整備士になりたかったんです。

で、高校卒業後に
整備の専門学校へ進もうとしたんですが‥‥。
── はい。
加古 高校の先生が
「飛行機整備の専門学校に行ったって
 自動車の
 修理工場に就職するのがオチだから
 やめとけ」
って。
── え。
加古 まあ、そんなこともあったし、
何よりも
パイロットになりたくなっちゃったんです。
── おお。
加古 そこで、アメリカへ渡って
フライトトレーニングを積みました。

── ‥‥さらにシビアそうな道じゃないですか。
飛行機整備の専門学校に行くとかより。
加古 そうですね、思えば(笑)。
── そういうケースって、よくあるんですか?
加古 いや、よくあるかどうかは‥‥。
あったとしても、ふつうは趣味の範囲ですね。

飛行機の自家用操縦士の免許を取りに行く人なら
そこそこいるのですが
私は事業用の、
つまり「タクシーの運転手」みたいな資格を
取得しに行ったので。
── つまり、
「アメリカに二種免を取りに行った」と。
加古 で、取ったはいいものの‥‥。
── 取ったんですか!
加古 はい、取りました。
でも、当時は就職口がなかったんです。

アメリカで取得した資格だったので
日本の会社には、就職できなかったんです。
── へぇ、そういうものなんですか‥‥。
ちなみに
何が操縦できるんですか、その資格で。
加古 飛行機の単発機、多発機の
「陸上」であれば何でも。

── 「陸上」というのは?
加古 飛行機の資格というのは
「水上」と「陸上」に分かれるんです。

つまり、離陸と着陸が
「陸上か、水上か」ということですね。
── その資格は、いまでも‥‥。
加古 有効ですよ。飛んではいませんけど。
── でも、就職口がなかったおかげで、
と言ったらアレですが
もともと、なりたかった整備士の道へ。
加古 はい、専門学校に進みました。
── なぜ、整備士だったんでしょうか。
加古 理数系の強い高校に行っていたので
そっちでの進学も考えたんですけど
大学で勉強するというのが、
自分としては、ちょっとどうかなあと思って。

そのとき、ずっと空への憧れがあったことを
真剣に受け止めて
「私、整備したいな」と。
── その当時、女性で整備士というのは‥‥。
加古 どうでしょう。

専門学校の同級生には、3人くらいいました。
私はヘリ科だったんですけど‥‥。
── ヘリ科?
加古 はい、ヘリコプターコース。

飛行機のコースと、
ヘリコプターのコースがあったんです。
── へー‥‥。
加古 ‥‥そうなんです、すいません。
私、実はヘリコプター出身なんです‥‥。
── いえ、そんな、謝ることでは(笑)。

でも、ヘリコプター科に入った理由って
なにか、あったんですか?
加古 その専門学校、
レシプロエンジンを積んだ飛行機しか
なかった
んですよ。
── すみません、何エンジンですか?
加古 レシプロエンジン。
── レシ‥‥。
加古 つまり、車のエンジンと同じ構造のエンジン。
シリンダーとピストンで動くような。
── それが‥‥何か?
加古 将来的に考えれば
ジェットエンジンが主流になるのは
目に見えていましたから。


そして、その専門学校には
ジェットエンジンを積んだヘリコプターが
あったんです。
── つまり、エンジンで進路を選んだと。
加古 ええ。
── はー‥‥ともあれ、
そのような経緯で「ヘリ科」をお出になり、
念願の飛行機の整備士に。
加古 そうですね。飛行機用の勉強をして。
── 整備士のお仕事をやっていて
どういうときが、楽しいと思いますか?

すごくピンポイントでもオッケーです。
加古 ピンポイント?
── たとえば「ネジを締めてるとき」とか。
加古 いや、ネジもいいんですけど(笑)、
そうですね‥‥
飛行機という乗り物は、
いろいろな不具合が、出るんですね。

そして、原因がどこにあるのか、
ひと目では、分からない場合が多い。
── 単純に機体、でっかいですもんね。
加古 お医者さんもそうだと思うんですけど、
どんな原因が作用した結果、
いま、こういった症状が出ているのか。
── はい。
加古 機体の状況から、いろいろと推察して
短い時間のなかで
「ここが原因のはずだ」と突き止めるのが、
私たち整備士の仕事ですが、
それには
経験も必要ですし、勉強も必要です。

そういった日ごろの「積み重ね」が
日々、試されてくるんです。
── なるほど。
加古 たとえば、
飛行機というのは、すべて油圧で動いていますが
その作動油が漏れてしまった、という場合。
── はい。
加古 まずは、培った経験や知識を動員して
いろいろな可能性を想定し、
すみずみまで、くまなく調べますね。
── ええ。
加古 そうやって調べても
どこからリーク(漏れ)が生じているのか
わからずに、
結局、飛行機の外装パネルを
ぜんぶ剥がさなければ
不具合を見つけられなかったりもします。
── そこまで大掛かりな外科的手術をして
結局、ちっちゃな穴だったり‥‥とか?
加古 そう、そうなんです。

以前、私が修理した機体の場合で言うと
問題があったのは
ほんのちいさな「Oリング」でした。
── Oリング。
加古 オイル漏れを防止する、いわゆるパッキン。
── ははー‥‥。
加古 小さなゴム製の部品が、破れていたんです。
── あんなに大きな飛行機のなかの、パッキン一個。
加古 ええ、そんなものが破れただけで、
飛行機は動かない。

でも、それを見つけ出して修理し、
もういちど飛べるようになった機体を見るのが
整備士として
やっぱり、いちばん嬉しいですね。
<つづきます>
2012-10-24-WED
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