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社長さんとしての加藤さんに質問なのですが、
上小阿仁新聞社の「経営」については
だいたい、どんな感じになってるんでしょうか。
というのも「1部100円」て
今どき、ものすごく安いような気がして。
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加藤 |
料金は、もう40年ちかく動いてないの。
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── |
あ、そうなんですか。
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加藤 |
うん。ずーっと昔から「1部100円」。
で、週1回の発行だから、月に4回でしょ。
つまり、購読料は「月400円」だな。
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── |
ええ。‥‥安いですよね。
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加藤 |
いいときは「1500部」くらい刷ってたけど
時代とともに減り減り減りして、
今はまあ、いいとこ「400部」くらいだ。
役場とかに無料で置いてるぶんもあるから
実際に料金もらってるのは
たぶん「300軒ちょっと」だと思います。
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── |
はい。
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加藤 |
そんなわけで、売上は月に13万円くらいです。
ただし、配達してくれている人たちにも
手数料を払ってますから
ま、手元に残るのはほんの何万円かです。
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── |
なるほど‥‥。
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加藤 |
お恥ずかしい限り。
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── |
いやいや、
辞めずに、続けてらっしゃること自体が
素晴らしいと思います。
でも、配達してくれる人がいるんですか。
‥‥そりゃあ、そうですよね。
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加藤 |
もちろん、他に仕事をやっているんだけど
その合間に、配ってくれるんだ。
いくら部数が少なくても、
各集落に、かならずひとりはいるんですよ。
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── |
以前、この近所にある
「7家族・20人」くらいしか住んでないという
八木沢という集落に
取材に行ったことがあるんですが‥‥。
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加藤 |
配ってますよ、八木沢にも。有料3部。
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── |
3部‥‥だけ配る配達員さんがいる。
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加藤 |
うん、いる。
うちのかかあ(奥さま)も、配ってるよ。
となりの大林って集落まで
距離にしたら2、3キロはあると思うけど
75歳になるばあちゃんが、
テクテク歩いて、届けて、往復してるよ。
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── |
はー‥‥。
届けるのも容易じゃなさそうですけど、
加藤さんの新聞を
みんな、待ってくれてるんですもんね。
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加藤 |
まあ、いちおうはね。
はじめたころ、購読してくれてたのは
俺と同じくらいの歳の、
村の連中だったわけですよね、まずは。
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── |
ええ。
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加藤 |
俺が32歳のころに、ここをはじめたんだけど
当時の連中が「やあ、おい」ってわけで、
「俺も取る、じゃあ俺も取る」って。
でも、それから40年以上も経った今では
逝っちゃってる人もいれば
「最近、目が見えなくなってきたで、
やめらせてけれじゃ」って人もいるし。
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── |
なるほど。読めなくなってしまって。
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加藤 |
それで、だいぶ減りました。
だけど
ひとりでも読んでくれている人がいると思えば、
やっています。
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── |
そうですか。
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加藤 |
あの、ここの近所のおばあちゃんがさ、
ぜひともということで、
月に1回、寄稿してくれてるんだ。
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── |
おお、それは、どのような?
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加藤 |
はじめてからもう、ずいぶん経つと思うけど
最初はね、
自分の思ったことを「俳句調」で綴りたいと。
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── |
ええ、ええ。俳句調で。
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加藤 |
俺も、だったらぜひともやってよって。
ボケ防止にもなるって言うし。
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── |
いや、うれしいですよ。
自分の俳句が新聞に載るんですから。
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加藤 |
はじめのころはたしかに俳句調だったけど
なんだか最近では、
単なる思いの連なりになってきてますよね。
まあ、それでもいいかと。
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── |
なるほど(笑)。
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加藤 |
あんたもがんばれ、俺もがんばるからと。
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── |
地元紙と呼ばれる新聞は数あれど
「近所のおばあちゃんの自由な連載」とは
まさしく
上小阿仁新聞ならではの展開だと思います。
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加藤 |
もう83歳の、おばあちゃんね。
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── |
中学校を出てから活版印刷の世界に入り、
それから60年、
活版印刷に関わっている加藤さんは、
新聞って、
どういうものだと思っていますか?
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加藤 |
やっぱり、ふつうの新聞っていうのは、
そのときどきのニュースを
いちばんにね、載せるようなものだよ。
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── |
ええ。
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加藤 |
でも、われわれの新聞はそうじゃない。
1週間にいっぺんだもの。
時間を争うようなものにしたくたって、
そんなの俺には、どうもならね。
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── |
はい。
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加藤 |
だからまあ、なんだろなあ、
このへんに住んでいる人たちへのお知らせ、
何日に何それがあります、
その内容は、だいたいこうですという、
そういうお知らせを、
俺は、ずうっと、してきたんだよな。
まあ、それだけ、もう何十年も。
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── |
そんなに長くやってきて、
このお仕事の
どういうところが、おもしろいですか?
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加藤 |
おもしろいところ?
特段おもしろいところなんかねえよ、別にさ。
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── |
でも、毎日やってらっしゃるじゃないですか。
しかも、人よりぜんぜん「休みなし」で。
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加藤 |
だって、飯を食うためにやってきたんだもの。
中学を出て、この仕事を覚えて、
辞めなかったってことは
まあ、きっと向いてんだろうとは思うけどさ、
まずは食うために、だよ。
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── |
なるほど。
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加藤 |
もちろん、年金ももらってるけどね。
それだけじゃ、足りないこともあるからね。
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── |
ええ。
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加藤 |
昔は、ちょこっと役場へにでも走って行けば、
5万から10万くらいの仕事をもらえたんだ。
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── |
そうですか。
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加藤 |
今はもう、
われわれがやるような仕事は残ってないけど、
昔は、ほとんどの印刷物を俺が刷ってた。
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── |
活版で。
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加藤 |
そう。
ここをはじめたころは
「ガリ版印刷」なんかが関の山だったからさ、
活版印刷だって言ったら
「すごいもんだ」と、「綺麗なもんだ」と。
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── |
モテモテで。
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加藤 |
そうそう(笑)。いろいろ、やったよ。
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── |
たとえば‥‥?
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加藤 |
ええとね‥‥こんなやつとかね。
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── |
結核検診のお知らせ。
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加藤 |
こんなのとか、何だかの利用券だとか。
いろんなものを、俺が印刷してたから。
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── |
さまざまな依頼に、応えてきたと。
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加藤 |
ありとあらゆるものを、刷りましたね。
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── |
上小阿仁村の。
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加藤 |
うん。
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── |
加藤さんと上小阿仁村の印刷物の歴史が
この作業場の中に、
地層みたいに積み重なっているんですね。
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加藤 |
まあ、ねえ。
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── |
あと、「うわあ」と思ったのは、
加藤さんの手が、すごく綺麗なことです。
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加藤 |
綺麗? 俺の手?
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── |
細くて透きとおるようで、若々しくて。
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加藤 |
活字を拾える手になってるのかなあ。
あんまりごつけりゃ、容易じゃないもの。
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── |
以前、キャリア「80年」にもなる
「93歳のパンク直し」のかたに
インタビューしたことがあるんですが
そのかたの手も、
すごく綺麗で、若々しかったんです。
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加藤 |
ああ、そうなの? へぇ。
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── |
何十年もの歴史を積み重ねてきた
「はたらく手」って、
どんどん綺麗になるんじゃないかなあって
加藤さんの手を見て、思いました。
まだまだ現役でやってらっしゃるから
すごく若々しいですし。
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加藤 |
ま、辞めたって飯が食えなくなっちゃうし、
俺の性分からいくと、
朝から晩まで
ゴロシャラゴロシャラしてるのも嫌だしね。
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── |
はたらきたい、と。
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加藤 |
うん。動ける限りは、はたらきたいよ。
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── |
これからも、続けてほしいです。
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加藤 |
わかんない(笑)。
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── |
そう言わずに(笑)。
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加藤 |
じゃ、活字があるかぎり、がんばります。
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── |
おお。
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加藤 |
今ある活字がすり減って
ダメになるのと同時に、俺の命も終わるよ。
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── |
え‥‥。
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加藤 |
そう思うんだよ、ほんとに。
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── |
そうですか。
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加藤 |
でもさ、それまではね、がんばりますよ。
はたらきますよ。食ってくためにね。 |
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<おわります> |