── |
僕らも、一応「新聞」を名乗っておりまして‥‥。
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加藤 |
じゃあ、同業だ(笑)。
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── |
はい、ありがとうございます。
ただ、僕らの場合は「紙の新聞」じゃなくて
「創刊15年の、
インターネットの中にある新聞」なんです。
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加藤 |
はあ、パソコンの。
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── |
だから、もう「47年」も
活版印刷の新聞を発行してきた加藤さんに、
同業だなんて言ってもらえると、
なんだかちょっと、うれしくなります。
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加藤 |
ははは、そう?
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── |
いまは、
おひとりでやってらっしゃるんですよね。
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加藤 |
はい、ひとりです。
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── |
このことを聞いて、ものすごく驚いたんですが
取材・原稿執筆・レイアウト・
校正・活字を拾うこと・組版・印刷‥‥という
新聞制作の工程を、すべて加藤さんひとりで。
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加藤 |
昔、いいときには従業員が6人いて
他のいろんな印刷物も引き受けてたんだけど、
いまはもう新聞だけ、俺ひとりでさ。
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── |
記事の扱いの大小を決めたり、
見出しを考えたりしてるのも加藤さん‥‥ですよね?
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加藤 |
そうですよ、もちろん。
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── |
ようするに
取材記者、整理記者、デスク、活字を拾う職人、
組版の職人、印刷職人、校正係‥‥と、
ひとり何役もこなして。
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加藤 |
はい。
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── |
創刊47年の「上小阿仁新聞」を発行してらっしゃる。
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加藤 |
そうです。
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── |
まさしく「ひとり新聞社」ですね。
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加藤 |
まあねえ。
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── |
上小阿仁新聞社の社長業というお仕事だって
あるわけですし。その、経営的な。
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加藤 |
まあ‥‥社長ったって(笑)。
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── |
いま、上小阿仁新聞の発行部数は‥‥?
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加藤 |
週に1回、400部。年中無休。
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── |
どんな記事を掲載しているんですか?
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加藤 |
それがさ、結局、たとえばよ、
村で品評会やら駅伝大会やら生涯学習やらが、
あるわけだな、毎年毎年。
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── |
ええ。
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加藤 |
でも、俺もいろいろいそがしいからさ、
役場の係に電話して、
ことしの日程はどうなってんだとか‥‥。
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── |
取材して。
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加藤 |
そう。
すると係が「こうこうこうですよ」と。
そしたら俺が
「はい、じゃあ、ありがとう」と。
で、聞いたその晩に書くわけ。原稿を。
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── |
つまり、
上小阿仁村にとって大切なお知らせなどを
取材して記事にし、掲載されていると。
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加藤 |
取材時間は、せいぜい10分か15分だな。
いそがしいからねえ、俺も。
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── |
取材記者さんて、多忙ですもんね。 |
加藤 |
だからさ、
新聞づくりでいちばん容易じゃないのはさ、
やっぱり「刷るまで」なんだよね。
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── |
取材して、原稿を書いて、活字を拾って、
版を組むまでが、たいへんだと。
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加藤 |
そうだと思うよ。
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── |
ちなみに「いそがしい」というのは
「活字を拾ったりするのに、時間がかかる」
という意味でしょうか?
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加藤 |
そうだねえ。
だって、結局さ、
上小阿仁新聞というのは「A3」の両面印刷だけど、
このあいだ、数えたんだよ。
そしたら片面で「6600文字」くらい、あったんだ。
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── |
文字数が。
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加藤 |
それが両面あるから、時間はかかるよ。
いつもは、だいたい「火・水・木」あたりで
活字を拾って、組み付けるわけです。
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── |
活字を拾うのに、まず3日。
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加藤 |
で、金曜日いっぱいかけて
ガチャコンガチャコン印刷してるでしょう。
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── |
印刷に、丸1日。
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加藤 |
で、拾った活字を棚に戻すのに、また3日。
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── |
‥‥そうか。
拾った活字を元あったところに戻す作業に
同じだけの時間がかかるんですね。
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加藤 |
そりゃ、そうだよ。
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── |
で、その合間にも
電話取材とか原稿書きをやってらっしゃる。
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加藤 |
うん。
いつも「金・土・日」の夜に原稿を書いて、
これくらいで
だいたい紙面に間に合うかなあと思ったら、
こんど「線引き」するわけ。
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── |
線引というのは、紙面レイアウトのことですね。
そこは「整理記者の加藤さん」の出番。
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加藤 |
そうそう、この記事はここに置きたい、とかね。
で、いろいろ考えながら
「トップはやっぱりこれだな」‥‥とか。
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── |
そのときの加藤さんは「デスク」ですね。
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加藤 |
「じゃあ、トップ記事は何枚あるかな」って
原稿を数えて、線を引いて
拾いに入るのが‥‥まあ、火曜の午後くらい。
で、それを両面となると木曜日、
いや‥‥金曜日のお昼過ぎまでかかるか。
ともかく、金曜夕方くらいから
機械でガチャコンガチャコンやりはじめて‥‥。
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|
── |
本当に「休みなし」なんですね。
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加藤 |
まあ、ないですね。
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── |
「活字拾い、印刷、活字戻し」だけで
「7日間」かかるわけですものね。
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加藤 |
うん。だから「週一回」が限度なんですよ。
おかげさまで、風邪もひかれない。
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── |
そんなヒマないと(笑)。
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加藤 |
ない、ない。寝てるヒマなんてないです。
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── |
ちなみに、下に広告の枠がありますけど
ここは募集しているんですか?
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加藤 |
ああ‥‥それね。
役場の広告なんかは
年に1回は必ずいただいてるんですけど、
それ以外は無料。
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── |
無料? この「リフォーム工事」も?
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加藤 |
無料、無料。
それは5年以上、同じもの入れてますから。
版をそのまんまにしておいて。
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── |
はあ。
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加藤 |
まあ、いちばんはじめに載せたときには
たしかに4000円もらったけど。
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── |
ははあ。
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加藤 |
そのあと、もう1回くらいもらったかなあ。
あとはいいよって言って。
まあ、別に知らないやつじゃないから、ね。
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── |
つまり、お知り合いだからタダで?
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加藤 |
いやいや、そうじゃなくて‥‥
ほれ、こっちも同じ加藤で、うちの親戚だ。
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── |
加藤水道設備さんの広告。
「お宅の水道(水まわり)はいかが?」と。
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加藤 |
これもね、
最初の2回は、8000円もらって載せたの。
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── |
4000円のときの倍の大きさだから、8000円。
ちなみに、
この売り文句というか、コピーも加藤さんが?
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加藤 |
そうだよ。
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── |
つまりは加藤さん、
「コピーライター」でもあるってことですね‥‥。
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加藤 |
あのね、まあ自慢じゃないけど、
昔から標語とかさ、そんなのは好きだったの。
魁の募集で、入選したりとかして。
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── |
サキガケ、というと。
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加藤 |
秋田魁新報って、秋田でいちばん大きい新聞。
あるいはね、
男鹿半島に新しく旅館を開くんだというんで
名付け親を募集ってのがあって。
そこで、あのへんは日本海に面しているから、
いっちょう「ホテル日本海」と。
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── |
それが、採用されたんですか?
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加藤 |
うん。
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── |
ホテル日本海‥‥なんと堂々たるお名前。
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加藤 |
1年ちょっとで潰れちゃったんだけどさ。
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── |
はー‥‥。
すみません、話を元に戻しますと、
こちら親戚の加藤水道設備さんの広告も、
はじめの2回だけお代をもらって‥‥。
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加藤 |
あとはタダ。もう10年以上、ずーっとタダ。
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── |
どうして、タダにしてまで入れるんですか?
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加藤 |
そりゃあだって、あんた、新聞としてはさ。
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── |
ええ。
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加藤 |
まさか「全面記事」ってわけにはいかない。
そんなの、格好悪くて。
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── |
格好悪い。
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加藤 |
つまり、新聞ってのはさ、
下に広告の入るスペースをとっとかないと、
「締まらない」んですよ。
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── |
紙面的に。
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加藤 |
うん。
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── |
だから、タダでも入れている?
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加藤 |
そうです。 |
|
<つづきます> |