「仕事!』とは?
19 活版印刷職人 上小阿仁新聞社 加藤隆男さん 加藤隆男さんのプロフィールはこちら
第1回 創業47年の「ひとり新聞社」。
── 僕らも、一応「新聞」を名乗っておりまして‥‥。
加藤 じゃあ、同業だ(笑)。
── はい、ありがとうございます。

ただ、僕らの場合は「紙の新聞」じゃなくて
「創刊15年の、
 インターネットの中にある新聞」なんです。
加藤 はあ、パソコンの。
── だから、もう「47年」も
活版印刷の新聞を発行してきた加藤さんに、
同業だなんて言ってもらえると、
なんだかちょっと、うれしくなります。
加藤 ははは、そう?
── いまは、
おひとりでやってらっしゃるんですよね。
加藤 はい、ひとりです。
── このことを聞いて、ものすごく驚いたんですが
取材・原稿執筆・レイアウト・
校正・活字を拾うこと・組版・印刷‥‥という
新聞制作の工程を、すべて加藤さんひとりで。
加藤 昔、いいときには従業員が6人いて
他のいろんな印刷物も引き受けてたんだけど、
いまはもう新聞だけ、俺ひとりでさ。
── 記事の扱いの大小を決めたり、
見出しを考えたりしてるのも加藤さん‥‥ですよね?
加藤 そうですよ、もちろん。
── ようするに
取材記者、整理記者、デスク、活字を拾う職人、
組版の職人、印刷職人、校正係‥‥と、
ひとり何役もこなして。
加藤 はい。
── 創刊47年の「上小阿仁新聞」を発行してらっしゃる。
加藤 そうです。
── まさしく「ひとり新聞社」ですね。
加藤 まあねえ。
── 上小阿仁新聞社の社長業というお仕事だって
あるわけですし。その、経営的な。
加藤 まあ‥‥社長ったって(笑)。
── いま、上小阿仁新聞の発行部数は‥‥?
加藤 週に1回、400部。年中無休。
── どんな記事を掲載しているんですか?
加藤 それがさ、結局、たとえばよ、
村で品評会やら駅伝大会やら生涯学習やらが、
あるわけだな、毎年毎年。
── ええ。
加藤 でも、俺もいろいろいそがしいからさ、
役場の係に電話して、
ことしの日程はどうなってんだとか‥‥。
── 取材して。
加藤 そう。

すると係が「こうこうこうですよ」と。
そしたら俺が
「はい、じゃあ、ありがとう」と。

で、聞いたその晩に書くわけ。原稿を。
── つまり、
上小阿仁村にとって大切なお知らせなどを
取材して記事にし、掲載されていると。
加藤 取材時間は、せいぜい10分か15分だな。
いそがしいからねえ、俺も。
── 取材記者さんて、多忙ですもんね。
加藤 だからさ、
新聞づくりでいちばん容易じゃないのはさ、
やっぱり「刷るまで」なんだよね。
── 取材して、原稿を書いて、活字を拾って、
版を組むまでが、たいへんだと。
加藤 そうだと思うよ。
── ちなみに「いそがしい」というのは
「活字を拾ったりするのに、時間がかかる」
という意味でしょうか?
加藤 そうだねえ。

だって、結局さ、
上小阿仁新聞というのは「A3」の両面印刷だけど、
このあいだ、数えたんだよ。

そしたら片面で「6600文字」くらい、あったんだ。
── 文字数が。
加藤 それが両面あるから、時間はかかるよ。

いつもは、だいたい「火・水・木」あたりで
活字を拾って、組み付けるわけです。
── 活字を拾うのに、まず3日。
加藤 で、金曜日いっぱいかけて
ガチャコンガチャコン印刷してるでしょう。
── 印刷に、丸1日。
加藤 で、拾った活字を棚に戻すのに、また3日。
── ‥‥そうか。

拾った活字を元あったところに戻す作業に
同じだけの時間がかかるんですね。
加藤 そりゃ、そうだよ。
── で、その合間にも
電話取材とか原稿書きをやってらっしゃる。
加藤 うん。

いつも「金・土・日」の夜に原稿を書いて、
これくらいで
だいたい紙面に間に合うかなあと思ったら、
こんど「線引き」するわけ。
── 線引というのは、紙面レイアウトのことですね。
そこは「整理記者の加藤さん」の出番。
加藤 そうそう、この記事はここに置きたい、とかね。

で、いろいろ考えながら
「トップはやっぱりこれだな」‥‥とか。
── そのときの加藤さんは「デスク」ですね。
加藤 「じゃあ、トップ記事は何枚あるかな」って
原稿を数えて、線を引いて
拾いに入るのが‥‥まあ、火曜の午後くらい。

で、それを両面となると木曜日、
いや‥‥金曜日のお昼過ぎまでかかるか。

ともかく、金曜夕方くらいから
機械でガチャコンガチャコンやりはじめて‥‥。
── 本当に「休みなし」なんですね。
加藤 まあ、ないですね。
── 「活字拾い、印刷、活字戻し」だけで
「7日間」かかるわけですものね。
加藤 うん。だから「週一回」が限度なんですよ。
おかげさまで、風邪もひかれない。
── そんなヒマないと(笑)。
加藤 ない、ない。寝てるヒマなんてないです。
── ちなみに、下に広告の枠がありますけど
ここは募集しているんですか?
加藤 ああ‥‥それね。

役場の広告なんかは
年に1回は必ずいただいてるんですけど、
それ以外は無料。
── 無料? この「リフォーム工事」も?
加藤 無料、無料。

それは5年以上、同じもの入れてますから。
版をそのまんまにしておいて。
── はあ。
加藤 まあ、いちばんはじめに載せたときには
たしかに4000円もらったけど。
── ははあ。
加藤 そのあと、もう1回くらいもらったかなあ。
あとはいいよって言って。

まあ、別に知らないやつじゃないから、ね。
── つまり、お知り合いだからタダで?
加藤 いやいや、そうじゃなくて‥‥
ほれ、こっちも同じ加藤で、うちの親戚だ。
── 加藤水道設備さんの広告。

「お宅の水道(水まわり)はいかが?」と。
加藤 これもね、
最初の2回は、8000円もらって載せたの。
── 4000円のときの倍の大きさだから、8000円。
ちなみに、
この売り文句というか、コピーも加藤さんが?
加藤 そうだよ。
── つまりは加藤さん、
「コピーライター」でもあるってことですね‥‥。
加藤 あのね、まあ自慢じゃないけど、
昔から標語とかさ、そんなのは好きだったの。

魁の募集で、入選したりとかして。
── サキガケ、というと。
加藤 秋田魁新報って、秋田でいちばん大きい新聞。

あるいはね、
男鹿半島に新しく旅館を開くんだというんで
名付け親を募集ってのがあって。

そこで、あのへんは日本海に面しているから、
いっちょう「ホテル日本海」と。
── それが、採用されたんですか?
加藤 うん。
── ホテル日本海‥‥なんと堂々たるお名前。
加藤 1年ちょっとで潰れちゃったんだけどさ。
── はー‥‥。

すみません、話を元に戻しますと、
こちら親戚の加藤水道設備さんの広告も、
はじめの2回だけお代をもらって‥‥。
加藤 あとはタダ。もう10年以上、ずーっとタダ。
── どうして、タダにしてまで入れるんですか?
加藤 そりゃあだって、あんた、新聞としてはさ。
── ええ。
加藤 まさか「全面記事」ってわけにはいかない。
そんなの、格好悪くて。
── 格好悪い。
加藤 つまり、新聞ってのはさ、
下に広告の入るスペースをとっとかないと、
「締まらない」んですよ。
── 紙面的に。
加藤 うん。
── だから、タダでも入れている?
加藤 そうです。
<つづきます>
2014-01-09-THU
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動画編集:山口靖雄
この動画は、現在、梅田ロフトで開催中の
「はたらきたい展。OSAKA」内でも上映しています。
会場では、動画のなかに出てくる「活版」自体も
あわせて展示していますので、
ぜひ会場に足を運んで、実物をごらんください。
よく見ると、シルバーの活字がちらほら。
これは、今回の版を組むために
新しくおろしてくださった活字なのですが‥‥。
なんと「創業当初に買ったもの」だったとか。
つまり「47年のデッドストック」です。
もう、いろいろズッシリ‥‥という感じがします。

もくじ
第1回 創業47年の「ひとり新聞社」。 2014-01-09-THU
第2回 「也」事件。 2014-01-10-FRI
第3回 俺の命は活字とともに終わるよ。 2014-01-13-MON

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