── |
北海道のおやつ屋さんである
六花亭さんを取材させていただいたときに
思ったんですけど、
お菓子屋さん、とくに和菓子の世界って
「おたがいに尊敬しあっている」
みたいなところが素敵だなあと思いました。 |
杉山 |
あ、そういうところ、あるかもしれません。 |
── |
小田豊社長がおっしゃっていましたが
「信州の竹風堂さんに
六花亭のどら焼きをお教えしたかわりに
おこわについてのアドバイスいただいた」
とか、
四国・松山の一六タルトのご子息が
六花亭ではたらいていたり、
それこそ当の小田社長ご自身は
若いころ、
京都の鶴屋吉信で修行を積んでいたり。 |
内田 |
あ、そうなんですか。 |
── |
そういう意味で言うと
ふたりが尊敬するお菓子屋さんというのは? |
内田 |
‥‥やはり「とらや」さんですね。 |
|
── |
わあ、ここでも「とらや」さんですか。
ぜひ、理由をお聞かせください。 |
内田 |
たぶん、みなさんと同じだと思いますけど、
まずはやはり、あの「歴史」ですよね。
どんなことをしても、
もう絶対、追いつくことができませんから。 |
── |
なにしろ「500年」ですものね。 |
杉山 |
資料や木型なんかも
たくさんたくさん、お持ちでらっしゃいます。
それでいて
歴史や伝統などに「あぐら」をかくことなく、
つねに新しい試みをされているところも。 |
── |
とらやさんの「ホールインワン」という
ゴルフボールの最中、
あれ、ゴルフがまったく一般的じゃなかった
大正時代に作られたらしいですね。 |
杉山 |
そういう進取の精神を持ち続けているところ、
本当にかっこいいなあと思います。 |
内田 |
もちろん他にも
いろいろと、大好きなお店はあります。
作り手の、和菓子に対する姿勢や信念が
お菓子のなかに見えてくるようなお店には、
やっぱり、惹かれますね。 |
── |
なるほど。 |
内田 |
‥‥私が勤めていたお店には
もう90歳にもなる、
大正13年生まれの和菓子職人がいるんです。 |
── |
そのかたは「お師匠さん」ですか? |
内田 |
はい、師匠です。
ご本人は「弟子なんかとった覚えはない」と
おっしゃっているんですが‥‥。 |
|
── |
どういうことを、教えてくれたんですか? |
内田 |
たとえば‥‥ウサギの「お干菓子」があって、
それには「目」をつけたりするんですけど、
「お客さまが箱をパッと開けたときに
ウサギの目が大きかったら怖いやろ」
とか、そういうことを教えていただきました。 |
── |
お菓子の作り方というよりも
もっと全体的な「印象、イメージ」についての
アドバイスなんですね。 |
内田 |
目の大きさひとつで表情は変わってしまう、とか
つける場所によっては
鮎じゃなくてサメに見えたりするんだ、とか。 |
── |
そこだけ聞くと、
なんだか、お菓子の話じゃないみたい。 |
杉山 |
上座とか下座とか、和菓子の世界というのは、
上下関係をきちんとするようなところが
他の世界より、まだ残っていると思うんです。 |
── |
そうなんですか。 |
杉山 |
「何でだろう?」って、ずっと思ってました。
でも、単純な事実として
和菓子に携わってる年数が長い職人のほうが
やっぱり「すごい」んです。
そのことがわかってからは
目上のかたを敬うということの本当の意味が
理解できるようになったというか。 |
|
── |
すごいというのは、具体的には? |
杉山 |
やっぱり、
1日でも長く和菓子に触れてる人のほうが、
「手」が、きちんと「道具」になってる。 |
── |
道具、ですか。 |
杉山 |
ふだん、私がはたらいているところの工場長は
いま「40歳」なんですね。 |
── |
40歳‥‥というのは、
比較的「若手」なんじゃないですか? |
杉山 |
はい、けっこう若いと思います。
でも、その工場長にくらべると、
私なんてやっぱり
素材の触り方とか、形を作ることに関しても
ぜんぜん追いつかないんです。 |
内田 |
そういう意味では、
もう、その道「70年以上」の職人なんて‥‥。 |
── |
追いつかないですね、どんなに生きても。 |
杉山 |
はい(笑)。 |
── |
年を取れば取るほど敵わなくなるというのは、
ものすごいことですね‥‥。 |
内田 |
お師匠さんにしても、
「ここまででいい」というのはないと思いますし。 |
── |
もっとできるはず、みたいな? |
杉山 |
そう思えないと、駄目だろうなと思います。 |
|
── |
お仕事に対する「モチベーション」というのは
どういうところにありますか。 |
内田 |
和菓子のことを、
もっと身近に感じてほしいなと、思っています。
たとえば「和菓子離れ」みたいなことが
ずっと言われてますけど‥‥。 |
── |
そうなんですか。 |
内田 |
私が通っていた製菓学校には
パンと洋菓子と和菓子の授業があったんですが
和菓子に行く人は、少なくて。 |
── |
へぇー‥‥。 |
内田 |
40人いたクラスで
その後、和菓子屋さんに就職した人って
自分を含めて、2人か3人。
そのおかげで
私、あだ名が「和菓子」だったほどです。 |
── |
すごい(笑)。
つまり、それほど和菓子は少なかったと。
でも、日菓さんの作品を見ていると
和菓子って、
もっともっと「たのしい」ものに
なっていきそうな気がしました。 |
|
内田 |
和菓子って、本当に、おもしろいんです。 |
── |
おふたりのお話をうかがっていると
すごく伝わってきます(笑)。 |
内田 |
あの、私たちの大好きなお菓子で、
真っ白なおまんじゅうの真ん中にポツンと
紅い点がついているものがあって。 |
杉山 |
「笑顔薯蕷」(えがおじょうよ)といって
ごつごつした
自然薯のおイモのちからで膨らませている
おまんじゅうなんですけど。 |
── |
ええ。 |
内田 |
おめでたい席で振る舞われるお菓子ですが
はじめて知ったとき、衝撃的でした。
だって、ただの白いおまんじゅうに
紅い点をポツンとつけただけなのに、
何かこう‥‥
緊張した雰囲気が、一気にほぐれるんです。 |
── |
へぇー‥‥。 |
杉山 |
その紅い点ひとつで、
その場を和ませてしまうような、お菓子なんです。
たとえば、
そういうことを伝えられたらいいなって思います。 |
── |
たしか、日菓さんの作品のなかにも
そんなようなおまんじゅう、ありましたよね。 |
杉山 |
はい、私たちは、紅い点をすこしずらして
「増笑顔」という名前をつけました。 |
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増笑顔(薯蕷製) 撮影:新津保建秀 |
|
── |
ますえがお‥‥笑顔が、増す? |
内田 |
そう、紅い点を真ん中からずらすことで、
ちょっと不格好なぶん、
愛らしさが増して、笑顔も増えるかなと。 |
── |
その発想も、すごく素敵ですね。
ちなみに‥‥
取材の冒頭からずっと疑問に思っていたこと、
お聞きしてもいいですか?
ネタ帳のこの絵は、何でしょうか? |
|
杉山 |
あ。‥‥こっ、これは夢の断片ですね‥‥。 |
── |
何か、米俵の上に‥‥力士が。 |
杉山 |
ぜんぜんお菓子と関係ないんですけど‥‥。
川上から米俵が流れて来て、
そこに、力士が乗っかれるかどうかという
選手権が行われていたんです。 |
── |
夢のなかで。 |
杉山 |
うまく乗れず、川に落ちる力士もいました。 |
── |
それって「技術点」というか、
ようするに
美しく乗れたら「いい点」になるんですかね? |
杉山 |
そう。‥‥だと思う。 |
── |
‥‥作らないんですか、これ。 |
杉山 |
たぶん‥‥つくりません(笑)。 |
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和菓子屋さん(錦玉製) 撮影:新津保建秀 |
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<終わります> |