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おふたりの作品を拝見して
「和菓子って、こんなにも自由なんだ!」
と思いました。
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内田 |
ありがとうございます(笑)。
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杉山 |
たしかに、和菓子の世界って
ちょっとかたくるしいようなイメージが
ありますものね。
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とくに心に残った作品を挙げますと
まず、月面に人類の偉大な一歩が刻まれた
「アポロ」という黄色いお菓子。
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アポロ(こなし製) 撮影:新津保建秀 |
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内田 |
はい。
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── |
あと、黄緑色した、オニのツノのやつ。
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杉山 |
「鬼のあたま」ですね。
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鬼のあたま(きんとん製) 撮影:新津保建秀 |
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それと、白い透明な寒天の上に
真っ赤な丸い玉がポッカリ浮かんでる‥‥。
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内田 |
はい、「初日の出」。
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初日の出(こなし、錦玉製) 撮影:新津保建秀 |
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── |
とかとか、それ以外にもたくさん、
「まじまじと見ちゃう」お菓子ばかりで、
かわいいな、おもしろいなあと。
ああいうデザインって
どういうふうに、考えてるんですか?
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杉山 |
いつも「ネタ帳」を持ち歩いてるんです。
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── |
あ、見たいです。
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杉山 |
ええと、これなんですけど‥‥。
よさそうなイメージが思い浮かんだら、
書き留めたりとかしています。
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── |
へぇー‥‥おもしろーい。
あと、日菓さんのお菓子をはじめて見たとき、
かたちだけじゃなくて
「色づかい」も素敵だなって思ったんですが、
この時点では「線画」なんですね。
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杉山 |
はい、でも、自分のなかでは決まっています。
他の人にイメージを伝えたりするときは、
絵に色をつけることもあります。
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── |
和菓子全般に言えることかもしれませんが
日菓さんの作品には
あまり濃い色って、使われてないんですね。
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杉山 |
そうですね。
外国のキャンディみたいに濃い色は、あまり。
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── |
それはやはり「和菓子」だから?
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内田 |
ええ、やっぱり伝統的な「和菓子」の範疇に
収まるものでないと。
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杉山 |
そうですね。
これまで、先輩がたに教わってきたことから
逸脱しないようには気をつけています。
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── |
それは、なぜですか?
日菓さんのデザインには新鮮味がありますし、
従来の和菓子の概念をくつがえす、
思い切った色づかいもできると思うのですが。
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内田 |
たぶん、それだと「安直」だと思います。
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── |
ああ‥‥なるほど。
見た目は「新しい」んだけれど、
お菓子の製法や素材、色の染め方については
伝統に基礎を置いているからこそ、
おもしろいなって思うのかもしれないですね。
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杉山 |
それに、和菓子づくりに関しては
私たち、まだまだ修行中の身ですので。
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内田 |
ご存知かもしれませんが、
和菓子には
「定番の意匠」というのが、あるんです。
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── |
つまり、どの和菓子屋さんもつくるような?
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内田 |
そうです。
そういう「伝統的な意匠」って
昔の人の「日常の風景」だったりするんです。
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杉山 |
たとえば「つつじのお菓子」が出てきたら
「ああ、岩根山のつつじだ」みたいな、
当時の人にとっては
言わなくてもわかるモチーフだったんです。
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── |
へー‥‥。
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杉山 |
つまり、その時代その時代の人びとが
「ふだん目にするもの」を
お菓子のデザインに落としてきたんですね。
だから、そういう意味では、
私たちも、やっていることは同じなんです。
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── |
そうか、なるほど。
たとえば「シュノーケルのお菓子」というのは
現代の日菓が目にしたものを、かたちにしてる。
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杉山 |
ですから、方法論としては
とくに変わったことをしているってわけでは
ないのかなあと思ってます。
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── |
定番の意匠があるということは
和菓子には
あるていどの「型」が、あるんですか?
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杉山 |
はい、個々のお菓子について言えば
「木型」があるものも、当然ありますし‥‥。
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── |
ええ、ええ。
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杉山 |
先ほどお話に出た「岩根つつじ」なんかは
季節になると、
どこのお菓子屋さんも作るお菓子です。
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── |
あ、つまり「時期的な型」が。
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内田 |
形は店によって微妙にちがいますし、
「きんとん」の種類もそれぞれなんですけど、
菓銘つまりお菓子の名前については
どこでも同じ「岩根つつじ」で、並ぶんです。
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── |
「味」については、どう考えていますか?
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杉山 |
色についての考えかたと同じです。
これまで学んできた素材の中から
このデザインには
何がふさわしいだろうと選びます。
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── |
ここでも「新しい味」というより‥‥。
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杉山 |
昔からある和菓子の素材や味、ですね。
そのおいしさを
知っていただきたいなあと、思うので。
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内田 |
洋の素材を用いて、
新しい和菓子の味を追求してるお店もあって、
それはそれで
おいしいなとも思うんですけど、
自分たちは
昔ながらの和菓子でやってきましたから。
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杉山 |
ですから、デザインを考えたあとには、
このお菓子には寒天が合うのか、
おまんじゅうみたいなものがふさわしいのか、
そういうふうに考えていきます。
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── |
じゃあ、日菓さんの和菓子って、
食べてみると「スタンダード」というか、
昔ながらの味がするわけですね。
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内田 |
はい、します(笑)。
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── |
ちなみに「初日の出」の
上に乗っている赤い玉って何なんですか?
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杉山 |
「こなし」です。
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── |
こなし。
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内田 |
白あんに小麦粉などを混ぜたあとに
蒸し上げて練ったもの、です。
そこに、赤い色をつけているんです。
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── |
あんなに、綺麗な色になるんですか。
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杉山 |
なるんです。
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── |
オニのモジャモジャ頭も
すごく綺麗なミントグリーンだったし、
和菓子の色って
こんなにも美しかったんだってことに、
はずかしながら
日菓さんの作品を見て初めて気づきました。
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杉山 |
あのグリーンも
変わったことをしているわけじゃなくって、
どこの和菓子屋さんでもやってる
伝統的な染色法。
ただ昔は、
もっと色を濃くつけていた、という話も
聞いたことがあります。
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── |
あ、そうなんですか。
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杉山 |
昔は、電気がなかったり、
部屋の日当たりも、今より悪かったようで。
ですから、現代よりも「暗い風景」の中に
置くことになるので、
お菓子の色も、濃くつけていたとかいないとか。
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── |
おもしろいですね。
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杉山 |
時代を経て、生活の中に光があふれてくると
和菓子の色も
だんだん薄くなっていった‥‥というような。
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── |
はー‥‥、和菓子というのは
風景のなかに置かれたときの「見栄え」にも
配慮する食べもの、なんですね。
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内田 |
和菓子って、四季を練り込むものなので‥‥。
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── |
四季を、練り込む。
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内田 |
私たちは、あの5センチ四方のなかに
季節ごとの風とか、薫りたつような雰囲気を
練り込むような気持ちで作っているんです。
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── |
ええ、なるほど。
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内田 |
それらが、そのお菓子の名前とあいまって、
食べた人の頭のなかに
ぱあっと、情景として浮かんでくる。
そこが、和菓子のおもしろさだと思います。 |
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赤い糸(きんとん製) 撮影:新津保建秀 |
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<つづきます> |