── |
おふたりが「日菓」を結成した
そもそものきっかけを、教えてください。
|
内田 |
私、大学の写真学科を卒業したあと
東京ではたらいていたんですが、
和菓子をつくりたくなって
2006年に京都へ来たんです。
|
── |
‥‥和菓子を、急に?
|
内田 |
当時、出版社に勤めていたんですけれど、
何かものづくりがしたいなって、
思ったんです。
そんなときに、「和の菓子」という
分厚い本に出会って。
|
|
── |
そのものズバリのタイトル、ですね。
|
内田 |
その本に、衝撃を受けたんです。
当時、和菓子の「レシピ本」というのは
けっこうあったんですけど、
お菓子を1ページにひとつだけ置いて、
作品のように見せていく本は他になくて。
|
── |
へぇー‥‥。
|
内田 |
で、京都に来て製菓学校に通いながら
和菓子屋さんでアルバイトを始めたんです。
そのお店に、杉山がいたんです。
|
── |
なるほど、そこでふたりは出会った。
|
杉山 |
実は私も、その「和の菓子」という本を見て
和菓子の世界に入ろうと思ったんです。
|
── |
つまり、やりたいことの方向性や価値観が
はじめから、そろっていたと。
|
杉山 |
それまでは
漆塗りのお皿に和菓子が載せられていたり、
茶道の延長線にある
雰囲気の見せ方の本ばかりだったんですが、
あの本は「紙にお菓子」、それだけ。
和菓子だけに焦点が当てられていたんです。
|
── |
「作品」に見えた‥‥んですね。
|
杉山 |
そうなんです。
|
── |
あの、日菓さんの和菓子って
まさしく「作品」だなあと思うんですけど、
他方で「食べもの」ですよね。
つまり「食べたら、消えちゃう」というか。
|
内田 |
ええ。
|
── |
そのあたりの、
「作品」と「儚さ」との関係については
どう思われますか?
|
杉山 |
その点については、すごく意識してます。
私たちふたりが意気投合したのも
「作品が
人のからだのなかに入ってしまう」ことの
おもしろさ、でしたから。
|
── |
「儚さ」が、逆に「おもしろい」と。
何というか、その、「作品」たるもの、
つい「残そう」としてしまいがちですけれど。
|
杉山 |
まず、デザインを鑑賞していただいて
「あ、おもしろいな」と思ってもらった上で
おいしく食べていただきたい。
その、「2度おいしい」というコンセプトは
はじめから共有していましたね。
|
内田 |
ですから「なくなる」ということそれ自体を
作品のテーマにしたこともあります。
たとえば、「やぎさんゆうびん」だとか‥‥。
|
|
やぎさんゆうびん(生砂糖製) 撮影:新津保建秀 |
|
── |
読まずに食べた、で「なくなる」。
|
杉山 |
「テトリス」とか。
|
|
テトリス(琥珀製) 撮影:新津保建秀 |
|
── |
あの、ブロック消しゲームの。
|
内田 |
「ドロン」とか。
|
|
ドロン(寒氷製) 撮影:新津保建秀 |
|
── |
煙とともに、消えちゃうと。
|
杉山 |
あと、「知恵の輪」というお菓子もあって
あめ細工なんですけど、
ふたつの輪っかが、くっついているんです。
で、口のなかに入れると
あめが溶けて、
知恵の輪が口の中ではずれる‥‥という。
|
── |
おもしろい。そして、発想がかわいい。
でも、ということはつまり、
「食べたときの美味しさ」という点も
ものすごく
大事にしているということですよね。
「見た目のおもしろさ」だけじゃなくて。
|
内田 |
それはもう、もちろんです。
やはり「お菓子」ですから
美味しいって思っていただけないことには
お話にならないです。
|
── |
あの、いちばんはじめに作ったお菓子って
覚えてらっしゃいますか?
|
杉山 |
ひとつは「3時」の羊羹ですね。
|
|
3時(羊羹製) 撮影:新津保建秀 |
|
── |
あ、これ、日菓さんのホームページでも
アイコン的に使われている作品ですよね。
|
内田 |
はい。
|
── |
このデザイン、ちょっとくすっと笑える感じとか
すごく「日菓さんっぽいんだろうなあ」と
思ってました。
はー、これが「第一号」だったんですか。
|
内田 |
はい、私たちが「屋台」から始めたときから
すでにあったお菓子ですね。
|
── |
なんとなくですけれど、
この第一号に「おふたりのやりたいこと」が
凝縮しているような気がしました。
|
杉山 |
うん、そうかもしれない。
|
── |
反対に、ボツになった案というのも?
|
内田 |
もちろん、たくさん、ありますよ。
いろいろ試行錯誤してみたものの
結局、まったくダメだったお菓子とか‥‥。
|
── |
その差って、何なんでしょうね。
|
内田 |
お菓子ですから、
最終的には食べやすさとか味などの要因も
あると思うんですけど、
デザインのアイディアに関して言うと、
「いまいち、おもしろくない」んだと思う。
|
|
── |
なるほど。ひねり過ぎてたり、とか?
|
内田 |
そうですね。
結局、何が言いたいのかわからない‥‥とか。
|
杉山 |
それに、ふたりで「いいな」と思ったものは
やっぱり、ちゃんとウケるんです。
反対に、消化不良のまま出したお菓子は、
案の定、そんなにウケがよくなかったりして。
そこは、かなり顕著に出ますね。
|
── |
ウケがいいとか悪いとかいう反応って
どうやってわかるんですか?
食べた人の顔‥‥とか?
|
杉山 |
ひとつには、何日か経ってから
「あのお菓子、おもしろかったね!」って
言われるかどうか、ですね。
|
内田 |
食べた人の脳裏に残っているかどうか、
覚えていてもらえているかどうか。
|
── |
日菓さんの和菓子を見たときに
きっとみんな「かわいい!」というふうに
反応すると思うんですが、
その点については、どう思われますか?
|
杉山 |
そうですね‥‥私たち自身としては
「おもしろい」のほうが、しっくりきます。
もちろん「かわいい」という反応も
嬉しいんですけど
この、ちっちゃくて、手のひらサイズで、
かわいい色をつけたお菓子の
そのちょっと先には、
日常の「おもしろい」を込めているので。
|
|
── |
なるほど。
|
内田 |
そうですね。
表面的には「かわいい」かもしれませんが
じいっとよく見ると、
必ずしもそうとは言い切れなかったり‥‥。
|
── |
たしかに「かわいらしい、いたずら心」
のようなものを感じます。
ふたりの「意図」を汲むことができたとき、
なんだかニヤッとしちゃうみたいな。
|
杉山 |
お菓子を作っていると
「腑に落ちる瞬間」があるんですけれど
それは「おもしろい」が
できたぞーってときかもしれないです。
|
── |
ちなみに、昔の和菓子にも
「おもしろい」って、あったんでしょうか?
|
杉山 |
んー‥‥‥‥‥あったと思う。
その時代に生きていれば
作り手と食べる人との間ですっとわかり合える
「おもしろい」は、あったと思います。
|
内田 |
「めでたいときに、鯛を食べる」とか、
「喜ぶにかけて、昆布を食べる」というのも
昔の人の遊び心ですものね。
|
杉山 |
いつの時代でも、人間って、
私たちみたいなことするだろうなあって気も、
なんとなくしますし。 |
|
的中(錦玉製) 撮影:新津保建秀 |
|
<つづきます> |