── いま「ジャンボの時代は終わった」とか
言われてるようですが、
飛行機の「トレンド」って、
何か、あったりするのでしょうか。
敦澤 ありますね。
航空機も
時代のニーズに合わせてつくらないと
売れませんから。

── 具体的に、教えてください。
敦澤 そうですね‥‥まだ燃料が安かった時代には、
それこそ
ブリティッシュ・エアウェイズと
エール・フランスが運行していた超音速旅客機
コンコルドのように
「値段は高けれど、速い」航空機が
もてはやされたりしました。
── マッハ2で飛ぶ、
全席ファーストクラスの航空機、ですよね。

怪鳥・コンコルドは30年あまりの歴史で原型機を含め全20機が生産された。

敦澤 それも、他の航空機のファーストクラスより
20%くらい高く
値段設定されていましたけど、
音速の2倍のスピードで
ニューヨーク・ロンドンのあいだを
行き来していました。

所要時間は3時間半とかでしたね、たしか。
── 地球の自転より早く飛んでいくという
夢のような飛行機でしたよね。
敦澤 コンコルドの初飛行は、1969年‥‥
つまり「そういう時代」だったんです。

でも、70年代のオイルショックによる
燃料費の高騰などもあって、
その後の航空業界のトレンドは
徐々に
大量輸送時代へと移っていきます。
── なるほど。
コンコルドは定員100人とかですものね。
敦澤 超音速機自体のデメリットもありました。

「燃費が非常に悪い」ということに加え、
音速を越えるときに
ソニックブームという衝撃波が出るため、
陸地の上を飛ぶときに、音速を出せない。

── あ、そうなんですか?
敦澤 戦闘機もそうですが、
衝撃波でガラスが割れてしまったりして、
人間に危険が及ぶ可能性があるからです。
── なるほど‥‥。
敦澤 洋上を高高度で飛ぶ場合でないと、
音速を出せない。

つまり、
実際に「マッハ」を超えて飛べる箇所って
限定されていたんです。
── へぇー、そうだったんですか‥‥。
敦澤 ともかく、かつて「空の旅」は、
一部のエグゼクティブたちのものでした。
── 日本でも「洋行帰り」という言葉が
あったほどですし。
敦澤 しかし、飛行機が大衆化していくにつれ、
低コストで大量輸送できる
ボーイング747
いわゆるジャンボジェットのような機体が
主流になっていったんです。

ながく世界最大の旅客機だったボーイング747、通称ジャンボジェット。

── スピードよりも経済性が
重視されるようになっていった、と。
敦澤 旅客機は、音速を越える必要はない。

私が乗務するボーイング767で言いますと、
だいたい、
音速の80%くらいが、常用巡航速度。

いま、いちばん速度が出ると言われている
ジャンボジェット機でも
音速の85%くらいが、通常のスピードです。
── コンコルドの最高速度が「マッハ2」
ですから、
2分の1以下、なんですね。
敦澤 ある一時期、もうちょっとだけ速い
「音速の90%くらいで飛ぶ
 飛行機をつくろうか」
という動きもあったんですけれど‥‥。
── ええ。
敦澤 けっきょく「90%プラスα」といっても
コンコルドに比べたら大して速くないですし、
その割には
燃費も悪くなるということで、頓挫しました。
── なるほど‥‥今までコンコルドに対しては
漠然と「未来の飛行機」みたいな
イメージを持ってたんですが、
いつのまにか
コンセプト的には「時代遅れ」
なっていたということですね。

敦澤 そのために淘汰されたわけですから、
そう言えるのかもしれません。

実際には、機体だって
だいぶ老朽化していましたしね。
── いま現在のトレンドは‥‥。
敦澤 ご存知のように燃油高騰の時代ですので、
まずは燃費、経済性です。

それに加えて、
快適性やアミューズメント性
重視されはじめています。
── 座席ひとつにしても
ずいぶんラクに座れるシートが
開発されてますよね。
敦澤 かつては比較的低コストと言われていた
ジャンボジェットでさえ、
燃費の面では、問題があるとされている。

それが、大型機の時代は終わった
言われるゆえんですけれど。

── なるほど。
敦澤 他社さんなどでも
ジャンボ機は退役傾向にあります。

ただ‥‥。
── ただ?
敦澤 現在の
ダウンサイジングと多頻度運航という
トレンドから外れるものに、
エアバスA380という機体があります。
── あ! あの首とか胴が太くって
なんだか、イルカみたいなカタチの。

こちらが、エアバスA380の巨躯。デカっ!

敦澤 世界初の総2階建て超大型旅客機です。

それまで、30数年間にわたって最大だった
ボーイング747を抜き、
現在、世界最大の旅客機となった機体ですが、
意外に燃費がいいということで、
シンガポール航空や
ドイツのルフトハンザ航空、
エール・フランスなどで採用されて
日本への就航も始まっています。
── もう、成田にも来てるんですよね!
敦澤 世界最大の輸送能力を持つ、最新の飛行機。

大型機の時代は終わったと
言われながらも、
そういった機体じたいの「価値の高さ」や
快適性、アミューズメントの部分で
お客様に満足いただいて
座席さえ埋めることができれば‥‥
「超大型」という分野も、
まだまだ可能性はあると思いますけれど。
── なるほど‥‥。
敦澤 とはいえ、やはり時代の要請は「経済性」。

そういった意味では
今年(2011年)、弊社に導入される予定の
ボーイング787が、
トレンドとしては最先端でしょうね。
── 通称「ドリームライナー」と呼ばれている、
中型の航空機ですね。

ファンが就航を待ち望むボーイング787。その機体の素材にひみつが‥‥。

敦澤 本来ならば、北京オリンピックの開催に合わせて
導入する予定だったのですが、
開発が遅れていて、まだ就航していません。
── どういう点で最先端なんですか?
敦澤 まず、中型機としては航行距離が長く、
燃費がいいこと。

また、今までの飛行機というのは
基本的に「金属製」でした。
── はい。
敦澤 ボーイング767あたりから
部分的にカーボンを使用しているのですが‥‥。
── ええ。
敦澤 787は、ほとんどカーボンなんです。
── つまり‥‥。
敦澤 圧倒的に軽いんです、機重が。

── 軽いと、何がいいんでしょう。
敦澤 まず、燃費がよくなります。
── なるほど。
敦澤 さらに、機内の快適性が高まります。
── と、いうのは?
敦澤 飛行機が航行する上空は気圧が低いため、
機内の気圧を、人工的に高くしています。

これを「与圧」といいますが‥‥。
── はい。
敦澤 カーボンでつくった機体は、
金属製の機体よりも強度が高くなるので
より高い圧力をかけられる。

つまり、機内を
より「地上に近い状態」にできるわけです。
── なるほど、ゆえに「より快適」であると。
敦澤 とくに長距離航行の場合には、
「疲れかた」も違ってくるでしょう。
── ははー‥‥。
敦澤 さらに、カーボンは
水分による腐食に対して耐久性があるため、
加湿器を用いて
機内の乾燥を防ぐことができます。

つまり、お肌に優しい。

── なんと、お肌に優しい航空機!
いいことづくめじゃないですか(笑)。
敦澤 経済性、快適性、アミューズメント性‥‥
最新のトレンドをすべて持ち合わせた機体が
ボーイング787なんです。
── それは‥‥乗ってみたいです。

ちなみにキャプテン、
現在の航空機業界のキーワードは
「ダウンサイジングと多頻度運航」
だとのことですが‥‥。
敦澤 ええ。
── 多頻度運航というのは、
たくさん飛ばす、ということですよね。
敦澤 はい。
── 日本の「空の交通」で
いつも混んでる名所的な場所とかって、
あるんでしょうか。
中央道でいう小仏トンネルみたいな。
敦澤 そうですね‥‥。
御前崎から伊豆半島沖の太平洋上
ですかね。

いつも混んでます、あそこは。

── へぇーっ、羽田の上空とかじゃなく?
静岡沖とは、意外でした。
敦澤 もちろん羽田空港の近くも混んでいますが、
そのあたりの空域って、
羽田空港に西から入ってくる飛行機、
または
成田空港に西から入ってくる飛行機の
通り道にあたり、
冬場では
最大約370km毎時の追い風
受けるんです。

だから、いつも非常に混んでいますね。
── ははぁ‥‥。
敦澤 地方空港から離陸するとき、
管制から「何時まで離陸できません」
みたいな指示がきた場合、
たいがい
静岡沖の上空が混雑している、というのが理由。
── なるほど、なるほど。

それとキャプテン、多頻度運航というのは
具体的には、どのくらい「多頻度」なんでしょう。
敦澤 今回、拡張整備された羽田空港の能力を
今後、最大限に運用した場合には
1時間に40機、裁くということです。

── はー‥‥。
敦澤 つまり、1.5分に1機の計算
── ラッシュアワーの
東京の地下鉄みたいな頻度で
えんえんと飛行機が
飛んでいったり、飛んできたり‥‥。
敦澤 理想的には
年間40.7万回の発着を目指すようです。
── ‥‥そんなに飛行機が飛んでいくんだ、
ということにも驚きますけど、
それだけ
乗る人がいるんですね、飛行機に‥‥。
敦澤 ええ。これからの世界は、
ますます「空の時代」になっていくと
言われています。
<つづきます>
2011-02-15-TUE
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もくじ  
第1回 ズボっと抜けたらそこは天国。 2011-02-14-MON
第2回 コンコルドが「時代遅れ」になった。 2011-02-15-TUE
第3回 未来永劫「安全」であるために。 2011-02-16-WED

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