永田 |
はい、いま第2話を観おわりました! |
西本 |
お疲れさまでした! |
糸井 |
いやあ、今日はノックアウトされましたねえ。 |
永田 |
もう、いいんじゃないですか。これは。
四の五の言わなくても。 |
西本 |
ええ。同感です。
「バウバウ!」と
手を叩いて終わりにしましょう。 |
永田 |
賛成! バウバウ! |
糸井 |
ま、そう言いつつも、
しゃべる我々ですけどね。 |
永田 |
そういうコンテンツですからね。
けど、まあ、どこから行きますか。 |
西本 |
きっと糸井さんが、また、
どうでもいいことから始めてくれるでしょう。 |
永田 |
あ、なるほど。
それでは、お願いします! |
糸井 |
そんなカンタンにどうでもいい話を
始められるわけがないでしょう。
‥‥ま、あの、うちの犬がですね。 |
永田 |
やんのかよ。 |
西本 |
やんのかよ。 |
糸井 |
うちの犬がですね、
テレビに動物が出ると吠えるんですよ。
もう、必ず、テレビに動物が出ると、
ワンワンワンワンと吠えるんです。
今日の放送でいうと、
ファンタのCMに出てくるヤギとか、
もう、吠えまくりなんです。 |
西本 |
はあはあ。 |
糸井 |
それであらためて気づかされるんですけど、
いま、あらゆるコマーシャルに
動物が出てるんですよ。 |
永田 |
なるほどなるほど。 |
糸井 |
でね、川原亜矢子さん。
川原亜矢子さんというともう、
犬とセットじゃないですか。 |
西本 |
はいはい、ブイヨンさんも吠えまくりで。 |
糸井 |
もう、それどころか、いまでは、
川原亜矢子さんがテレビに出るだけで
吠えるんです。犬は出ていないのに。 |
永田 |
まさに、パブロフの犬! |
糸井 |
それどころじゃありません。
いまや、犬の出ていない川原亜矢子さんの
CMの音楽が鳴るだけで
吠えるようになりました。 |
西本 |
パブロフの犬を超えた! |
永田 |
二手先を読む犬! |
糸井 |
もう、詰め将棋みたいになってるんです。
「音楽」という駒の動きで、
のちの「犬」の駒が動くことを想定して、
先手4六「吠える」と動くわけです。 |
西本 |
で? |
永田 |
で? |
糸井 |
まあ、そのあたり、
教育していかなきゃいかんなあ、と。
ファンタのヤギのCMを観ながら
思ったわけですよ。 |
ふたり |
どうでもいい! |
糸井 |
だからどうでもいい話だと
言ったじゃないですか! |
西本 |
あまりにもどうでもよすぎます。 |
永田 |
もっと、イントロになるような
話をしてくださいよ。 |
糸井 |
あ、イントロで思い出した。
今日はね、放送の前に、
永田くんとちょっと一悶着あったんですよ。 |
西本 |
ほう。 |
永田 |
あ、あの話か。 |
糸井 |
もうね、あやうく永田くんに
怒られそうになるところでしたよ。 |
永田 |
ちょっと待ってください、
いきなり間違ってます。
ぼくは、きちんと怒ったつもりですよ。 |
糸井 |
もうちょっとで
どやされるところでしたよ。 |
永田 |
だから、どやしたんですって。
ってことは糸井さん、
まだ反省してないですね。 |
西本 |
なんなんですか。 |
糸井 |
いや、あのね、ちょっと新聞を読んで、
今回の話のあらすじを知ってたもので、
今日はこういう話だって
永田くんにしゃべったわけですよ。 |
西本 |
あ、それは怒るわ。
この人、異常なほど前情報を
シャットアウトしますからね。 |
糸井 |
でも、ちょっとだけですよ?
「今日は、阿部サダヲさんが
『抱かれたくない男1位』に
選ばれるらしいぞ」って。
それだけで、もうおもしろいよなって
それだけなんですよ。 |
永田 |
いや、ちょっと待った。
そんな感じじゃなかったんだよ。
「昇太さんが真打ちになって、
『抱かれたくない男1位』になって、
落ち込んでたいへんらしくて、
もうおもしろいに決まってる!」って
実際、爆笑しながら説明するんだよ。
「いや、聞きたくないです」ってこばんでも、
記事を読んで聞かせたりするんだよ!
おれが、あれだけ、年がら年中、
「前情報はかんべんしてください」
って言ってるのに。 |
西本 |
「情報永田農法」と
異名をとっている永田さんに。 |
糸井 |
いいじゃないか、それくらい。 |
永田 |
よくないですよ。
だって考えてもみてください。
その数時間後にはいっしょに
そのドラマを観るわけですよ?
来週はさあ、とかそういう話じゃなくて、
ちょっとあとに観るドラマですよ?
そんなん、言われなくても
数時間後にはわかるわけですよ。
なんで言うんですか、それを。 |
糸井 |
いいじゃないか、それくらい。 |
永田 |
よくないですよ! |
西本 |
まあ、ぼくにとっては
あなたがたのやり取りそのものが
どうでもいいですけどね。 |
ふたり |
そりゃまあそうなんだけどさ。 |
西本 |
ともかく、今回は、阿部サダヲさんが
『抱かれたくない男1位』に選ばれるという
ひじょうにキャッチーなところから
はじまりましたけど。 |
糸井 |
いい、つかみだよなー。 |
永田 |
それは同感。
いきなり笑っちゃっいましたよ。 |
西本 |
「どん太」という芸人の
キャラクターがくっきりとしましたよね。
「出川さん以上なんだ!」と想像できるあたりで
彼がお茶の間でどれだけの存在かというのが
一瞬で体感できるというか。 |
永田 |
わざわざ2位にこれ見よがしに
「出川哲朗」って出てるんだよね。
人物描写のエピソードなんかを挿むより
よっぽどわかりやすい。
で、ほかの名前も誰がモデルか
すぐにわかるような名前で、
ホントと虚構を混ぜてて。 |
糸井 |
あのへんは、もう、気持ちよく
ぐしゃぐしゃになってますよね。
「ぐしゃぐしゃ」というのは
このドラマのいい特長だよね。
あの、客席にちょんまげの人が
平気で入ってきたり。 |
永田 |
あの演出は何度観てもいいですねえ。
ミラクルですよね。 |
西本 |
細かいことですけど、
あれ、後ろの席の人たちは
出てきたちょんまげを無視して
高座を観てるじゃないですか。 |
永田 |
そうそうそう!
あのへんがきちんとしてるよね。
虎児とメグミだけがちょんまげを見てて、
ちょんまげの世界に入っていく。 |
糸井 |
いわゆる、プリコラージュというんですか? |
西本 |
知りません。 |
永田 |
わかりません。 |
糸井 |
‥‥まあ、とにかく、
あの、いろんなものを
ぐしゃぐしゃと混ぜていく演出は
素敵じゃないかということですよ。 |
永田 |
それで思い出したのは、
ボーダフォンのCMですよ。
あの、ぼくらが3人とも、
CMになったのを気づかずに観てた瞬間が
あったじゃないですか。 |
糸井 |
ああ、キャベツとアンチョビのパスタを
つくってるやつね。 |
西本 |
3人とも、本編かと思って観てたら
CMだったという。 |
永田 |
そうそう。あれをドラマの続きだと
思って観ちゃってるということこそが、
いかにこのドラマが「なんでもあり」で、
しかも観てるぼくらがそれを好意的に
受け入れているかっていうことですよね。 |
糸井 |
ああ、そうだねえ。 |
西本 |
テレビ局まわりのものが
なんでもかんでも
スッと入り込んでるんですよね。 |
糸井 |
そこらへんはゴージャスですよ。
しっかりクオリティーをたもって
混ぜてるからこそ効果があるんです。
あの、どん太の奥さんが歌う
浅草の歌なんかもそういうことですよね。 |
西本 |
『泣いて国際通り』。 |
永田 |
ちゃんと作詞作曲して、
ちゃんとカラオケつくって
ちゃんと歌って、
歌詞に合わせて街を探すシーンがあって。 |
糸井 |
ゴージャスな遊びですよ。 |
永田 |
雑誌の遊びもゴージャスでしたよね。
ちらっと出てくるだけなのに
しっかりananもどきだったり、
SPA!もどきだったりして。
くだらないことを全力でやってる。 |
糸井 |
メディア横断の遊びですよね。
このメディア横断ぷりはいいですね。
おもしろいなあ。
あのあたりは演出家の力というか、
演出でなんとかしてくれるだろうという
脚本家の信頼感みたいなものも感じますね。 |
西本 |
西田さんが『饅頭怖い』を
高座で演じている最中に
どん太さんのカットが何度も入ってくるあたりも
たまんなかったですけど。
わさび入りのまんじゅうを食べて
「ツラいんだけど、芸人としてはおいしい」
という状況と『饅頭怖い』を重ねてて、
見事でした。笑いました。 |
永田 |
落語部分とドラマ部分の重なりは
ほんとに見事だったなあ。
その点は前回の『芝浜』より
上だったんじゃないかと思うんですけど。 |
糸井 |
有名な話だけに、
どう重ねるんだろうと思いましたけどね。
結婚式の「ハップニング」に向けて
見事に重なっていってて。 |
永田 |
「ハップニング」に。 |
西本 |
「ハップニング」に。 |
糸井 |
「ハップニング」に。
鶴瓶さん、あの役はたのしいだろうなあ。 |
永田 |
あれは、いったい、
どうやってつくっていくんでしょうねえ。
落語があって、話の筋をつくるのか‥‥。
あの、『饅頭怖い』と結婚式の
「どん太、きらーい!」を
重ねるところまではまだわかるというか、
いや、それだけでもすごいんですけど、
そのふたつの軸に、三つ目の軸で
どん太の落ち込みと立ち直りを
きっちり合わせてるところがすごい。 |
糸井 |
いや、よくできてた。 |
西本 |
よくできてましたねえ。
げらげら笑いましたよ。 |
永田 |
笑ってたねえ。めずらしく。 |
西本 |
ええ。ぼくはドラマ観て
声出して笑ったことって
たぶん、そんなにないと思うんですけど。 |
永田 |
うん。ちょっと意外なくらい。
ていうか、いままでずっといろいろ観てきて、
3人が声を出して一斉に笑うということが
ほとんどなかったよ。 |
西本 |
そうですよね。
たいてい、ふたりくらいが笑ってても、
誰かが苦虫を
かみつぶしたような顔をしてたはず。
‥‥まあ、とくにオレですけど。 |
糸井 |
おまえだ。 |
永田 |
あんただ。 |
糸井 |
え、ちょっと質問なんですけど、
にしもっちゃんはバラエティを観るときも
そんな感じで苦虫モードなんですか? |
西本 |
あああ‥‥そうですねえ。
そうかもしれませんねえ。
100パーセント笑うのはさんまさんなんですが
ほかの番組は打率が低いですねえ。 |
糸井 |
それはなんでですか? |
西本 |
うーん‥‥。 |
永田 |
にしもっちゃんが笑うには、
「おかしい」の前に
「リスペクト」がいるんですよ。
にしもっちゃんが笑うときは、
「おもろい」というよりも、
じつはエールを送ってるときなんですよ。 |
西本 |
元・吉本興業ということで
そうなってしまうんですかね。 |
糸井 |
でも、それは変ですよ。
おかしいですよね。 |
永田 |
ええ。ねじれているといえば、ねじれてます。 |
糸井 |
「笑い」は「エール」じゃないですよ。 |
西本 |
絶対に笑わないというわけじゃないんです。
こないだ観た
『松本人志のすべらない話』なんかは
ずっと大爆笑してましたよ。 |
ふたり |
あれはおもしろかった。 |
西本 |
だから、クオリティーがあれば笑いますって。
今回もクオリティーで笑ったわけですから。 |
永田 |
笑ったなあ‥‥。
あの、ぼくが笑ってしまうポイント、
阿部サダヲさんの「カツラ」が
早めに出てきてどうなるかと思ったんですけど、
その後の「カツラ」ネタがさらに強力で。 |
糸井 |
あの、横の人がカツラをとって
叩きつけるというのはアイデアですよね。 |
永田 |
ええ。ぼくはむしろ、
笑ったあとでちょっと心配になりましたよ。
「つぎのカツラはどうするんだろう?」って。 |
糸井 |
まだ第2回ですからね(笑)。 |
西本 |
というか、スペシャルも含めて、
まだ3回しかやってないのに
お母さんが泣くところなんかも含めて
お約束ができ上がっているというのも
すごいですよね。 |
永田 |
それをできたそばから裏切っていくというか
すぐにひねっていくのがびっくりしますよ。
あの、よく糸井さんが言うことで、
「歌の一番ができたら、
二番をつくるのはカンタンなんだ」
という話があるじゃないですか。 |
西本 |
はいはい。
「春を愛する人は心清き人」ができたら、
「夏を愛する人」をつくるのは
そんなにむつかしいことじゃないんだと。 |
永田 |
で、この『タイガー&ドラゴン』でいうと、
スペシャルと第1話を観せられて、
観ている側としては、お約束を理解して、
「あとは二番をつくっていただければ
こっちはそれを十分たのしみますよ」
という気分でいるわけじゃないですか。
ところがどんどん二番を
すっ飛ばしていっちゃうから、
観てて「え、どうすんの?」っていう
気持ちになるんですよ。前回みたいに、
落語と本編がパラレルに進行していって
サゲのひとことを
虎児が言うのかと思ってたら、
あっさり西田さんが
『饅頭怖い』を最後までやっちゃうし、
カツラは早めに脱いじゃうし。
もう、どうすんの? って。 |
糸井 |
つまり、この人たちは、
安易に二番をつくるつもりが
ぜんぜんないんですよ。 |
永田 |
そう、そうなんですよ。 |
糸井 |
ずっと一番をつくってるんですよね。 |
永田 |
だから後半はとくに
やられっぱなしでした。
前半は笑いながら「どうすんの?」で、
後半はそれが解消されていく爽快さがあって。 |
糸井 |
まあ、そういう乱暴な構造も、
阿部サダヲという非凡な人が
主役になってるからこそできる
ことなんでしょうけど。 |
西本 |
そうですね。 |
糸井 |
阿部サダヲの悲しい芝居、
影の部分っていうのが
じつはものすごく効いてるんだよな。
笑ってても目がつりあがってて、
猫目になってて、妙な悲しさがあるよね。 |
永田 |
マジメな場面だと顔が違いますよね。
じつはすげー童顔なんだなあ、
とか思ったりしました。 |
西本 |
芸人・どん太の悲しさの演出も効いてましたよ。
どん太の部屋がいっぱい映ってたけど
いろんな色のカツラがあったじゃないですか。
レギュラー7本を勝ち取った
彼の激しい芸人人生を感じましたよ。 |
永田 |
同時に、売れっこでもあるということも
アピールしてるんだよね。
それが最後の立ち直りの
隠し味というか、下味になってる。 |
糸井 |
嫌われながらもそれを売りにして
7本のレギュラーを持っているという
芸人の「すごみ」というものを
部屋をつくっているときにも
誰かが考えるんだろうな。
脚本家がいて演出家がいて役者がいて
というだけじゃない、
みんながいろんなことを用意している感じ
というのがすごくいいんですよね。
おでんの屋台のおでんなんて、
ふつうおでんが
いっぱいあるだけじゃないですか。
それが、あの、
「はんぺんは染みたのがいいか」
みたいなセリフのやり取りと、
おでんの屋台のつくりで
自分が「なにを食べたいか」というところまで
興味を持っちゃうわけですよ。
卵を食ってるときは美味そうだな、とかね。
逆に、そのあとでメグミがおでんを
無造作にすくってるのを見ると、
「おいおいそんなカンタンに選ぶのかよ」
っていうふうに感じて、
それが人物の個性になったりね。
ふつうはあんなふうに
ディテールを見ていかないですよ。 |
永田 |
ドラマの中のディテール1コに
「こんなところにこんなことが!」
っていうふうに反応して、
「おれだけがおもしろがってるのかな?」
って感じたりすると、
ほかの場所にもそういう
ディテールがあるに違いないと思って
いろいろおもしろがって見ちゃうんですよね。 |
糸井 |
そのディテールのかたまりが
今回の阿部サダヲさんの役ですよね。
ぼくなんかは、どん太を見ながら
「林家三平のバリエーションなんだろうなあ」
って思ってましたから。
林家三平さんが受けた非難みたいなものまで
パロディーにしてるから。 |
西本 |
そこに(林家)ぺーさんのルックスと
竜ちゃん(上島竜兵)のキャラクターを混ぜて。 |
糸井 |
そうそう。どうでもいいことなんだけど、
観てるほうが勝手にたのしめるんだよね。 |
永田 |
ぼくが勝手におもしろがったのは、
あの、どん太が妻に迫る場面なんですよ。
あそこでカツラを脱いで真顔になるんですけど、
以前、タモリさんとみうらじゅんさんが、
「サングラスをしていると、
女を口説いて、ことに及ぶときに、
いつサングラスを取るかがむつかしい」
って話してたことを思い出して。 |
糸井 |
あーーー、あったあった(笑)。
「サングラスキャラは、
男モードに入る瞬間を
相手にさとられて恥ずかしい」
ってやつね。 |
西本 |
ほかの人のディテールになりますけど、
(春風亭)昇太さんの説明で、さらっと
「元駅員で、30から弟子入りして
10年かかって真打ちになった」
って言ってたのがよかったですねー。 |
ふたり |
よかったよかった(笑)。 |
西本 |
古典を一生懸命やってる人として
見事な設定ですよね。
実力あるのに、あの歳まで真打ちに
なれなかったことの説明にもなってるし。 |
糸井 |
昇太さんがほんとに
まじめな落語家に見えてきたもんね。 |
永田 |
あの、高座で着替えちゃう人が。 |
西本 |
四つんばいになったり
寝そべったりする人が。 |
糸井 |
元の昇太さんのキャラを知ってると
よけいにおかしいわけだよね。 |
永田 |
「小太りのウッディ・アレン」
ってのも笑っちゃったなー。 |
糸井 |
ほんとに、ちょこちょこおもしろいよなあ。 |
西本 |
つぎへつながるフリも入ってましたね。
どん太さんの「バウバウ」があったあとに、
次回予告で高田(文夫)さんが現れるという。 |
糸井 |
そうそう、高田さんね。 |
西本 |
あとは、最後に出てきた荒川良々さんですよ。
もう、出てきただけでおもしろい。 |
永田 |
すごい存在感でしたね。
あの人にも、いろんなディテールが
くっつくんでしょうねえ。 |
西本 |
ていうか、出てきただけでもうついてる。 |
糸井 |
とりあえず、
しゃべり方は小朝さんっぽかったね。 |
西本 |
ぼくはあの古い近鉄の帽子を見て、
『ゴリラーマン』に出てきた
先生のことを思い出しましたよ。 |
永田 |
どうでもいいですけど、
あの謎の男は左利きでしたね。 |
糸井 |
そうだっけ? |
永田 |
ぼくはどういうわけだか昔から
テレビや映画に左利きの人が出てくると
すぐ目についちゃうんですよ。
マンガの中で、キャラクターの
利き腕がコマによって変わってたりすると
すごく気になる。 |
糸井 |
あなたという人のディテールに
つけ加えておきます。 |
永田 |
恐れ入ります。 |
糸井 |
ま、ディテールばっかり
言っててもキリがないんで、
べつの話をしますけど、
今回、物語としてひとつ大きかったことは、
虎児が「なぜモテるか」が
わかったということですよね。
竜二のほうにいったん
参ったという姿勢をとらせることで
虎児の「太か男ばい」というところを
表現しましたよね。
あれを早めにどかんとやったというのが
お客の側としては、すごく気持ちいいですね。
これから先、観やすくなりますね。 |
永田 |
ああ、それは思いました。
連ドラってとにかく引っ張るっていうか、
「こいつはこいつを好きなんだけど
好きだと言わずにまた来週」
みたいな印象があったので
あっさり行くのが気持ちよかった。
虎児が冒頭で「2発やった」って言うのも
あっさり決める感じがありましたよね。
あそこを引っ張ると面倒になりそうだったから
気にしなくてよくなったというか。
虎児というキャラクターの表現としても
すごくわかりやすいし。 |
西本 |
あと虎児の「太か男」の表現としては、
あの、若い嫁の携帯ストラップを見て、
すべてを丸く収める結婚式の作戦を
ひらめいたのが
虎児だというのが効いてますよね。
しかも、実際に作戦をぜんぶ
虎児が仕切るところを見せるんじゃなくて、
「虎児がうまくやったんだろうな」と
お客さんに想像させるつくりになってるのが
効果的なんじゃないかと。 |
糸井 |
うん。それくらいしないと
虎児が超新作落語をして、
まがりなりにもファンを増やしている
というあたりが見えなくなっちゃうからね。
そこはもともとコントロールが
すごくむつかしいところですから。
アホなふりをしてるけど
じつはすごくクレバー、ということですよね。
だって、あの、元子分のヤクザのところに
呼び出されて行ったときに、
とぼけたり暴れたりするんじゃなくて、
スッと相手の話を聞いて
「どうしますかねえ」
っていう姿勢になったからね。
あのクレバーさは、虎児という男にとって
重要なところでしょうから。 |
永田 |
基礎として、「仕事ができる男」っていう
イメージがありますよね。
親分の息子の教育係になってたり、
いろんなところからなんなく集金してたり。 |
糸井 |
うん。あとさ、あのへんの、
東京のいろんなところを
ちらちら映すようなところを観てて思ったけど、
このドラマを地方の子が観ていたら、
「ものすごい街、東京」って感じるだろうね。 |
永田 |
あーー、なるほど。 |
西本 |
そうなりますよ。 |
糸井 |
しかも「自分が参加できる東京」ですよね。
はとバス、田舎から出てきた伊東美咲。
入り口になる浅草。
修学旅行生でも誰でも迎え入れる原宿。
東京の深さみたいなものよりも
東京の入り口がざーっと並んでいるんだよ。
どこにでも入っていけますよ。 |
永田 |
あの、『真夜中の弥次さん喜多さん』の
試写会を観てきたうちの社員たちが、
「自分も出演したかった」っていう
ほめかたをしてたんですよ。
だから、そういうことが言えちゃうような、
この変な世界に自分が混じれるかも?
っていうワクワクが生まれるような独特の空気が
宮藤さんの作品にはあるんじゃないでしょうか。
たとえば、糸井さんが
「『新選組!』に出たいなあ」って言うのは、
絶対出られないからこそ
ネタになってたわけですよね。
それとは逆のことかなあと。 |
糸井 |
そうですね。
修学旅行生の役が等身大で出てきて、
それが変な世界の一部を
きちんと担当しているわけですから。 |
西本 |
身近に感じるんでしょうね。
だから、これを観たら、
芝居したくなる若い人って増えるんだろうな。 |
糸井 |
そういう意味ではさ
下北沢のさまざまな劇団で
芝居をしているような子は、
すでに道から舞台に上がっているんだよね。
つまり、段階を踏んで行かなきゃならない
なんてことは深刻に思ってなくて、
昨日まで違うことをしてたやつが
演じられるってことを知ってるんですよ。
そのノリが、いま、ようやく
テレビに入っているわけですね。
やっぱり小劇場ですよ。 |
西本 |
ああ、あの鶴瓶さんの娘役の子なんかは
まさしくそんな感じですよ。
拙者ムニエルという劇団の
伊藤修子さんって子で。
拙者ムニエルには以前、
「ほぼ日」でラジオコントをつくったときに
参加してもらってたんですよ。
あの人は、出演はしなかったんですけど
稽古はずっと見てたんです。
あの子はすごいですよ。
あのテンションの切り替えは北島マヤですよ。
まさか、こんなところで会えるとは。
ほかにもそんな人が
いっぱい出てるんでしょうね。 |
永田 |
エンディングロールに
顔を添えておいてほしいくらいですよね。
あの、ガーッと名前が並んでるなかに
たくさんおもしろい人がいるんだろうなあって
思いながら観てたから。 |
糸井 |
ドラマなんだけど、パンフレットがほしいよね。
そういうのをTBSがつくって売ればいいのに。 |
西本 |
『新選組!』も特別ですけど、
このドラマも特別ですねえ。
毎回、終わりの時間がくるのが残念ですもん。 |
永田 |
あの、宮藤官九郎作品というのは
ぜんぶこうなんですか? |
糸井 |
ぜんぶ観たわけじゃないですけど、
いまのところ、そうなんですよ。 |
西本 |
それは観ちゃいますよね。 |
永田 |
それは人気も出るわ。 |
糸井 |
でも、ま、つまんない人には
つまんないと思うよ。
ただ、そこはちゃんとわかってるっていう
ところがほかと違うところだと思うんですよ。
たとえば、寄席で西田さんが
『饅頭怖い』をやっているときに
「じゃ、4本足のコタツは食えるかい?」
っていうところで虎児が笑って、
なんで笑ったの? って訊かれて
「わかんねえ」って答えたじゃない。
あの「わかんない」というのを
混ぜたことの親切さは感心したんですよ。
あれはねえ、つまり、ものさしがひとつ
放り込まれたということですから。
やたらにむちゃくちゃじゃなくて、
どこかのところに
「わかる・わかんない」
「おもしろい・おもしろくない」
という基準があって当然だということを、
ポンとドラマの中に入れることによって、
オレはここまでだなあ、というのを
お客さんがすごく考えやすくなるんです。 |
永田 |
わかんないやつがダメだっていう
感じじゃなくて。 |
糸井 |
じゃないです。開いてますよね。
だから、若い子たちが混じりたくなるんです。
落語、聴いてみようかな、っていう人も
増えておかしくないと思いますよ。
この回を観たあとに、
『饅頭怖い』も聴いてみてほしいですね。 |
西本 |
誰のがいいですか? |
糸井 |
ぼくは(桂)米朝さんのが好きですね。
米朝さんの『饅頭怖い』はね、長いのよ。
たしか30分くらいあると思う。
若衆たちが集まって、
暇な時間を無駄話をして過ごすというのを
しっかりやるんですよ。
そこを堪能するためには
前座噺の短いものじゃなくて
米朝さんの長いやつがいいんじゃないかな。
来週は『茶の湯』だそうですけど、
それも予習して
みてほしいくらいの気持ちですね。
予習しておくと落語のおもしろさが
まず一回わかるじゃないですか。で、さらに、
「どうやってドラマにするんだよ、この噺を?」
というおもしろさがあるから
2度おもしろいと思うんだよね。 |
西本 |
あ、ちょっと予習してみたいですね。 |
糸井 |
そうですか。じゃあ、
(三遊亭)金馬さんのがありますから
CDを貸しましょうか。 |
西本 |
お願いします。永田さんは? |
永田 |
聴いてみたい気も、おおいにありますが、
やはり前情報なく臨みたいです。 |
西本 |
お、そうでした。 |
糸井 |
『茶の湯』っていうのはねー、
とあるご隠居さんがねー。 |
永田 |
わーーーー、もーーー。 |