横尾忠則さんの新しい著書は
『アホになる修行』というタイトルの言葉集です。
アホになるとは、いったいどういう修行でしょうか。
ここ数年、横尾忠則さん主催の「合宿」で
夏の数日間をごいっしょしている糸井重里が、
改めてお話をうかがいました。
じつは横尾さんによれば、その合宿のテーマは、
「なにもしないことをする」というもので、
それはすなわち、アホになる修行の一環と考えられます。
82歳の横尾さんが最近元気になったという話題から、
人生のあみだくじ理論に至るまで、
一生をかけた修行の極意、うかがいます。
- 横尾
- 糸井さんのとこ、犬が亡くなったんだね。
うちの猫も15年生きたんだけども、
糸井さんとこの犬、けっこう大きかったんでしょ?
- 糸井
- いえ、抱っこできるくらいの大きさですよ。
- 横尾
- そうなの。
大きいかと思ってた。
亡くなってはじめて気がつくことも
いっぱいあるよね。
- 糸井
- いやぁもうね、いい子でしたよ。
- 横尾
- まぁ、悪い子じゃないでしょう。
うちの子は悪かったけどね。
- 糸井
- そうですか? いたずらをしたり?
- 横尾
- かわいがりすぎると怒るの。
ごはんを食べたくないときに無理にあげたり、
抱っこされたくないのに抱っこしたりすると、
タマは鼻にシワ寄せて怒ってた。
- 糸井
- シワ寄せて。
- 横尾
- 3本くらい、グッと。
裕次郎がよくやる、
ああいう感じのシワ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 猫がね(笑)。
今日はちょっと食べづらいかもしれないけど、
おいしいお菓子をお持ちしました。
横尾さんは最近、食欲はあるんですか?
- 横尾
- ありますよ。
ここ2年ほど体調が悪かったんだけど、
もとに戻った。
- 糸井
- えっ?
そういえば、最近は
入院なさったというような話もないですね。
- 横尾
- ぜんぜんない。
- 糸井
- 転んだりもしてないですか?
- 横尾
- 転んでもすぐ起きる。
- 糸井
- おぉっ(笑)、強くなってる。
- 横尾
- 以前は、転びそうになったら、
「ああ、転ぶ転ぶ」と言いながら
ドテンと転んだけど、
いまは足からグッと戻ります。
- 糸井
- 起きあがりこぼしのように。
- 横尾
- あのね、ここ2~3年、
ずーっと調子が悪かったの。
- 糸井
- けれども、戻ったんですね。
いま、たしかに見た目もなんだかラクそうです。
- 横尾
- ラクですよ。
- 糸井
- 喘息の調子はどうですか?
- 横尾
- 去年は8月に喘息が出て、入院したんです。
- 糸井
- はい、そうでしたよね。
- 横尾
- 今年は喘息になったとしても、入院しないつもり。
- 糸井
- ははぁ。
- 横尾
- してもしなくても同じなんだよ。
入院しても、ただ病院でじっとして、
猫の絵を描くだけでしょ?
簡単な漢方の薬はくれるけれども、
それ以外は特に何もない。
だったらべつに入院までしなくていいと思うの。
喘息はやっぱり、ストレスが影響するから。
ストレスのない環境ならどこでもいい。
- 糸井
- そうでしょうね。
- 横尾
- 入院すると、たしかに
ストレスのない生活を送ることはできます。
しかし長期に病院にいるとなると、
今度はまた、だんだんストレスが。
- 糸井
- 逆にたまってきますね。
- 横尾
- ねぇ?
だから、入院はしなくていいと思う。
- 糸井
- じゃあいまは絶好調なんですね。
- 横尾
- いや、絶好調とまではいかない。
単にやや好調ってだけですよ。
- 糸井
- 絵も描いてますか?
- 横尾
- 絵は描いてます。
これはここ2日くらいで描いた。
- 糸井
- 大谷翔平選手ですね。
ははぁ。
横尾さんがこういうシーンを描くのは
おそらくはじめてじゃないでしょうか。
- 横尾
- そうだね、これまでこういうものは
テーマとしてはあんまり描いてないね。
だいいち、いまはこんなシーンを
絵のモチーフにする人はいないよ。
1960年代のポップアートの時代は
あったかもしれないけれどもね。
- 糸井
- なぜ大谷選手を描いてみたくなったんですか?
- 横尾
- だって、ぼくはずっと、
宮本武蔵を描いてるからさ。
- 糸井
- ああ、二刀流!
- 横尾
- ここに武蔵の二刀流のシルエットがあるでしょ?
これはぼくの絵のいろんなところに出てきます。
おそらくこれまで20点くらいに
描いてるんじゃないかな。
これを描きたいがために、
大谷選手を描いたともいえます。
二刀流っていうのは、日本ではつまり、
武蔵のことですよね?
武蔵が出てくるまでは、
二刀流という流儀はなかったんじゃないかな。
荒木又兵衛も二刀流だった?
- 糸井
- 横尾さんがずっと二刀流を描いてきたところに、
大谷選手がやってきたということかぁ。
- 横尾
- この絵の人の顔、
最初はちゃんと大谷選手の顔だったんだよ。
- 糸井
- そういえばこの顔、
横尾さんがいままで描いた人のなかで
いちばん無表情なくらいですね。
- 横尾
- この顔になるまでは、
ぼくはものすごくリアルに
大谷翔平を描きました。
- 糸井
- そうなんですか?
- 横尾
- それがつまらなくなって、
上から塗ったり削ったりして、
こんなキャラクターみたいな顔にしてしまった。
絵の具をいっぱい塗っちゃってるから、
顔がこんなに分厚いんです。
これがいわゆるまぁ、厚顔です。
(明日につづきます)
2018-07-05-THU
これまでの横尾忠則さんの
エッセイ、対談、インタビュー、ツイッターなどから
選ばれた言葉集が発売されました。
さまざまなメディアで発信されてきた、
横尾さんの名言がまとまった一冊です。
生活のとらえ方や創作にかかわる考えなど、
鋭い言葉が光ります。
見開き展開でスイスイ読めますので、
なんどもくりかえし味わい、
心の刺激と栄養にできます。
本を締めくくる横尾さんのあとがきには、
こんな一文が出てきます。
「アホになるというのは、
自分の気分で生きるという自信を持っている
ということ」
このたびの糸井重里との対談でも、
「大義名分より気分が大切である」
という内容がくり返し出てきます。
それはいろんな人びとの暮らしに勇気を与える
本質をついた言葉であるといえるでしょう。
いろんなものを捨ててアホになる修行は、
横尾忠則さんに近づく第一歩なのかもしれません。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN