みんなで行った、 阿寒きのこの森。
プロローグ(後編) 行きたいねぇ‥‥ 行きましょう、阿寒の森へ。
 


きのこ頭ふたつを置きながら、
新井文彦さんと糸井のお話が続いています。
糸井 とりたてのきのこは
うまいですよね、ほんとうに。
新井 自分でとると、なおさらです。
糸井 ‥‥そうだ、新井さんは群馬の人だから
ご存じだと思うんですが、
前橋に敷島公園ってありますでしょ?
新井 はい、はい。
糸井 あそこは赤松林があって、
ちいさいころに、ハツタケをとりにいったんです。
ハツタケっていうのは今は貴重だけど、
当時はまだ取れてて。
あれを取って帰ってきのこ汁にしたんだ。
うまいんだよ、これが。

─── へえー、ハツタケ、食べたことないです。
新井 いい出汁が出るんですよね。
糸井 ぼくの父親がね、それをとりに行くんです。
ほんとうに何もしない人間なんだけど、
きのことりにだけは行くんです。
あんなに夢中になれるものなのか、と。
新井 阿寒湖でも9月くらいになると、
もう、そこら中に車がとまってるんですよ。
森のそばの国道に。
みんな夢中になって、きのこをとってる。
糸井 ふだんは不精な人とかがね、せっせと(笑)。
新井 目をらんらんとさせて(笑)。
─── そういうときにはみなさん、
「きのこ図鑑」みたいなものを
もっていくのでしょうか。
新井 どうなんでしょう、
ぼくの場合は帰ってきてから
調べたりはしますけれど。
─── じゃあ、名前のわからないきのこもある。
新井 そうですね、図鑑をみても調べきれないんですよ。
きのこがちいさかったりすると、
とくにわからないです。
図鑑をみたところで、
図鑑によって色や形がちがってたりもしますし。
さらに、きのこ自体にも個体差があるので
パッと見ただけでは、
よほど特徴的なやつじゃない限りは
名前を調べるのがむずかしいんです。

─── 新井さんは、
毒きのこを食べてしまったようなことは‥‥?
新井 いや、ぼくは食べるよりも見るのがメインなので、
危険な挑戦はしないんです。
食べるときは、定番中の定番しか食べません。
糸井 マイタケとか。
新井 マツタケとか。

阿寒の森のマツタケ(新井文彦さん撮影)
糸井 マツタケかぁー。
新井 あと、タマゴタケっていう
派手なやつがあるんですけど、
それはすごくおいしいんですよ。

阿寒の森のタマゴタケ(新井文彦さん撮影)
糸井 匂いマツタケ、味シメジ(つぶやく)。
新井 天然のシメジ、おいしいです。

阿寒の森のブナシメジ(新井文彦さん撮影)
糸井 おいしいんでしょうねぇ。
新井 でも天然ものとスーパーに売っているので
いちばん差があるのは
たぶんエノキタケだと思いますね。
糸井 あ、そうなんですか。
新井 エノキタケって
白くてヒョロヒョロしてるイメージですけど、
天然のは、ふつうのきのこですから。

阿寒の森のエノキタケ(新井文彦さん撮影)
─── へえ〜、そうなんですかぁ。
新井 それはもう食べたら、ぜんぜん別格。
糸井 別格のおいしさ‥‥。
くう〜、ちくしょう!(笑)

一同 (笑)
糸井 その意味でいうと、あれですね、
家畜みたいなきのこは、シイタケですよね。
─── ああー。
新井 そうですね、天然ものと比べても、
あんまり味の差がないと思います。
シイタケに限っていえば、
天然もののありがたみは、あんまりないですね。
栽培もので十分おいしい。

─── なるほどぉ。
糸井 だって「天然のウシ」とかって、
べつに食べたくないもんな。
一同 (笑)
糸井 それと同じですよ。
‥‥このたとえは、いま思いついたんだけど
おおきな手応えを感じました。
「あっ、天然のウシだ! べつにうれしくない!」
一同 (笑)
新井 たしかに(笑)。
糸井 まあ、そうは言ってもシイタケも、
うまいやつはうまいからねぇ。
─── そうですよねぇ。
糸井 そういうね、「価値」の話になってくると、
きのこにはマツタケを頂点にした
ヒエラルキーがあるじゃないですか。
新井 はい。
値段という意味で。
糸井 そう。
でも森の中では
なんでもないきのこが
マツタケよりおいしかったりしますよね。
新井 いわゆる「雑きのこ」と呼ばれるもののほうが
野趣あふれる味わいだったりします。
糸井 それを知ることで、自分の中にある
きのこのヒエラルキーが
パーンとひっくり返ると思うんですよ、森の中で。

新井 はい。
糸井 そしたら、きのこのことが
何10倍にもおもしろくなりますよね、きっと。
新井 そう思います。
糸井 うーん‥‥行きたいねぇ‥‥
行きましょう、阿寒の森へ。
─── ことしは時機を逸してしまいましたが
来年のきのこの季節には。
新井 ぜひいらしてください。
きのこだけじゃなくて、
もう、原生林を歩くだけで
ほんとに気持ちがいいので。
糸井 そうですね、来年。
きょうのお話も、
入り口としてみんなに読んでもらえば
ちょっとたのしいじゃない?
─── はい、来年ほんとうに行けたときには
プロローグのようにしてお届けしたいです。
糸井 じゃあ、そのときまで、
こころに、きのこの菌を残すようにして
たのしみに待ちましょう。
新井 阿寒の森は、
なかなかおもしろいと思います。
糸井 おもしろいでしょうねぇ‥‥。
だってほら(乗組員に向かって)、
しょうが掘りで、あんなに燃えちゃうんだから。
─── そうですよねえ。
糸井 いや、ほんとうにたのしみにしています。
来年、阿寒の森でお会いしましょう。
新井 お待ちしています。
糸井 ‥‥よろしければ、うちのきのこの写真も
撮っていただいてかまいませんので。
けっこう、珍種だと思います(笑)。
新井 そうですか(笑)、じゃあせっかくなので。
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2010-11-12-FRI
森の写真:新井文彦
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN