自分の字を好きになるためのシリーズ   赤ペンを持つときには。   進研ゼミの赤ペン先生、伊藤さんに訊く。

第3回 そのときどきで自然と書き分ける。

── さきほど、ちらっと
おっしゃってらっしゃいましたけれども、
自分でメモを取るときなどは、
それほど丁寧に書くわけではないと。
伊藤 はい。
── もしよければ、
見せていただいてもいいですか?
伊藤 ああ、はい、自分のメモはですね‥‥
お見せするようなものではないんですが
あの、自分の手帳はこんな感じです。
── あ、きれいだ、やっぱり。
あの、これ、撮影してもよろしいですか?
伊藤 はい、このへんは大丈夫です。
── 字が続いてたり、
略字になってたりしますけど、
やっぱりきれいです。
伊藤 いえいえ(笑)。
── その、一文字一文字のバランスがいいというか。
そのあたりはもう、染みついているんでしょうか。
伊藤 うーん、どうなんでしょう。
まぁ、漢字とひらがなが混ざるときに、
ひらがなを少し小さめにして、
漢字をちょっと大きく書くというか、
そういうことは自然にやってると思いますけど。
── ああ、なるほど。
そういうことって、言われると、
そうだなあと思うんですが、
日々、書くとなるとなかなかできなくて‥‥。
伊藤 あとは、たとえば、こちらの手帳ですと、
方眼があらかじめ入ってますから、
4マスで一文字を書くとしたら、
左半分に部首を書いて、右半分につくりを書くとか。
── ああ、たしかにたしかに。
伊藤 そういうことを意識するだけで
違ってくるとは思いますけど。
── なるほどー。
そういうことの積み重ねなんでしょうね。
伊藤 そうですね。
でも、自分用のメモだったら、
そんなにバランスや美しさを気にしなくても
いいんじゃないでしょうか。
── ああー(笑)。
伊藤 人に見せるもの、
読んでもらうものは違うと思いますけど、
自分用の文字は自分に読めれば
それでいいんじゃないでしょうか。
私が赤ペンを持ったときに書く字というのは、
お子さんに届けるものですから、
正しく、きれいに書きますけれど。
── つまり、その字を
誰に向けて書くのかということで
気持ちの部分が変わってくる。
伊藤 そうですね。
だから、たとえば結婚式に行ったときの
ご芳名帳に書く住所と名前だったら、
落ち着いて、丁寧に書いたほうがいいと思います。
手紙を書くにしても、
恩師に書く手紙と、友だちに書く手紙では、
文字も気持ちも違いますよね。
どういう文字をどういうふうに書くかは、
そのときどきで自然と使い分ける、
書き分けるもので、
ぜんぶをきれいな字で書く、というのは
ちょっと不自然なんじゃないかな。
── ああ、なるほど。そうですね。
伊藤 ですから、漠然と、
「こうしたら字がきれいになる」
とかっていうのは‥‥‥‥ないかな。
── 「ない」。
伊藤 はい。やっぱり、字は個性だと思いますので。
── うーーん、なるほど。
伊藤 私も、赤ペンを握るときは、
ある意味、商品として依頼されているものですから、
子どもたちに向けて正しい字を書くことを仕事として、
楷書で、ゆっくり、丁寧に書きますけど、
ご覧のように、自分の手帳にそういう字は書きません。
そういうものだと思うんです。
── そうかぁ‥‥。
あの、それをはっきり聞けただけでも、
なんというか、よかったなと思います。
変な言い方ですけど、ちょっと、勇気が(笑)。
伊藤 (笑)。

(つづきます)

2011-12-22-THU


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