── | さきほど、ちらっと おっしゃってらっしゃいましたけれども、 自分でメモを取るときなどは、 それほど丁寧に書くわけではないと。 |
伊藤 | はい。 |
── | もしよければ、 見せていただいてもいいですか? |
伊藤 | ああ、はい、自分のメモはですね‥‥ お見せするようなものではないんですが あの、自分の手帳はこんな感じです。 |
── | あ、きれいだ、やっぱり。 あの、これ、撮影してもよろしいですか? |
伊藤 | はい、このへんは大丈夫です。 |
── | 字が続いてたり、 略字になってたりしますけど、 やっぱりきれいです。 |
伊藤 | いえいえ(笑)。 |
── | その、一文字一文字のバランスがいいというか。 そのあたりはもう、染みついているんでしょうか。 |
伊藤 | うーん、どうなんでしょう。 まぁ、漢字とひらがなが混ざるときに、 ひらがなを少し小さめにして、 漢字をちょっと大きく書くというか、 そういうことは自然にやってると思いますけど。 |
── | ああ、なるほど。 そういうことって、言われると、 そうだなあと思うんですが、 日々、書くとなるとなかなかできなくて‥‥。 |
伊藤 | あとは、たとえば、こちらの手帳ですと、 方眼があらかじめ入ってますから、 4マスで一文字を書くとしたら、 左半分に部首を書いて、右半分につくりを書くとか。 |
── | ああ、たしかにたしかに。 |
伊藤 | そういうことを意識するだけで 違ってくるとは思いますけど。 |
── | なるほどー。 そういうことの積み重ねなんでしょうね。 |
伊藤 | そうですね。 でも、自分用のメモだったら、 そんなにバランスや美しさを気にしなくても いいんじゃないでしょうか。 |
── | ああー(笑)。 |
伊藤 | 人に見せるもの、 読んでもらうものは違うと思いますけど、 自分用の文字は自分に読めれば それでいいんじゃないでしょうか。 私が赤ペンを持ったときに書く字というのは、 お子さんに届けるものですから、 正しく、きれいに書きますけれど。 |
── | つまり、その字を 誰に向けて書くのかということで 気持ちの部分が変わってくる。 |
伊藤 | そうですね。 だから、たとえば結婚式に行ったときの ご芳名帳に書く住所と名前だったら、 落ち着いて、丁寧に書いたほうがいいと思います。 手紙を書くにしても、 恩師に書く手紙と、友だちに書く手紙では、 文字も気持ちも違いますよね。 どういう文字をどういうふうに書くかは、 そのときどきで自然と使い分ける、 書き分けるもので、 ぜんぶをきれいな字で書く、というのは ちょっと不自然なんじゃないかな。 |
── | ああ、なるほど。そうですね。 |
伊藤 | ですから、漠然と、 「こうしたら字がきれいになる」 とかっていうのは‥‥‥‥ないかな。 |
── | 「ない」。 |
伊藤 | はい。やっぱり、字は個性だと思いますので。 |
── | うーーん、なるほど。 |
伊藤 | 私も、赤ペンを握るときは、 ある意味、商品として依頼されているものですから、 子どもたちに向けて正しい字を書くことを仕事として、 楷書で、ゆっくり、丁寧に書きますけど、 ご覧のように、自分の手帳にそういう字は書きません。 そういうものだと思うんです。 |
── | そうかぁ‥‥。 あの、それをはっきり聞けただけでも、 なんというか、よかったなと思います。 変な言い方ですけど、ちょっと、勇気が(笑)。 |
伊藤 | (笑)。 (つづきます) |