新年あけましておめでとうございます。
新春企画・糸井重里によるあんこのお話は、
ほぼ日内にしつらえた特設会場、
「あんこの間」にて開催されました。
こちらが、「あんこの間」の演壇です。
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会場の基調となるカラーは、白。
新年のまっさらな気持ちと、大福の皮をイメージしました。
写っている女性は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の乗組員。
本日、糸井の介添人をつとめる者です。
彼女がこの役に選ばれた理由は、「着物を持っていたから」。
その介添人が、糸井を呼びにいきます。 |

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介添人 |
新年のご挨拶と、あんこのお話をちょうだいしたく、
お迎えにあがりました。
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介添人 |
さあ、ご案内をさせていただきます。
まいりましょう、「あんこの間」へ。
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糸井 |
あんこの、まーーーー。
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介添人 |
‥‥‥‥こちらでございます。
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介添人 |
ご入場ください。
観客たちが首を長くして待っております。
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すすっと引き戸をあけたら‥‥
流れ出したのは「雅楽」のBGM。
笙、篳篥、龍笛のおごそかな調べが、
会場内の空気をみやびなものに変えています。
拍手で迎える観客たち。 |
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やわらかな笑みをたたえ、ゆったりと、
糸井重里は演壇の椅子に歩み寄り、座ります。
すると、なにを思ったか語りべは、
やにわに身につけていたくびまきをほどくと、
自らの眼前にふわりと両手で広げるのでした。 |

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全観客 |
ざわざわざわざわ‥‥。
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糸井 |
やあ、諸君。
こうして諸君と話ができるのは、
私にとっても、たいへんうれしいことである。
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観客A |
(小声で)‥‥あの幕の意味は?
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観客B |
(小声で)たぶんまだ、
キャラ設定ができていないんだと思う。
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観客A |
(小声で)待ちましょう。
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観客B |
(小声で)待ちましょう。
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糸井 |
諸君。
いままで諸君とのあいだには、
こういう垣根があったのかもしれない。
しかし、もはやこういう時代ではない。
もっと親しく話し合おうじゃないか。
もう、私のことを王だと思うな。
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観客D |
王?!
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観客B |
ひとまず「王」という設定にしたようです。
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糸井 |
妻だとも思うな。
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観客D |
妻?!
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糸井 |
私はただの大統領だ。
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観客D |
だ、大統領?!
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観客A |
‥‥(小声で)どうしましょう、
このくだりを記事にして伝えるのはかなり難しいです。
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観客B |
(小声で)‥‥もう、このまま書きましょう。
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糸井 |
私はただの日本国大統領だ。
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観客E |
日本に大統領は‥‥??
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糸井 |
いないのなら(笑)、私がやります。
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観客A |
あ、いまちょっと笑った(笑)。
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観客B |
よっ!(笑)
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観客C |
よっ、大統領!
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観客D |
まってました大統領!
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糸井 |
こんな垣根は、なくしてしまってぇ‥‥!
(くびまきをたたんで首に巻く)
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糸井 |
目と目を合わせ、新年のご挨拶を。
2013年、明けましておめでとうございます。
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全観客 |
おめでとうございまーす!
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糸井 |
あんこの話をしましょう。
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全観客 |
わーーーーーー!(盛大な拍手)
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介添人 |
お茶でございます。
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糸井 |
うん、ありがとう。
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糸井 |
(ひとくちお茶を飲む)‥‥あのね、
あんこはね、いいぞぉ~。
みなさんはたぶん、
あんこに対する信仰が薄いんだと思うんです。
いいですか、
あんこはもともとは豆です。
小豆(アズキ)。
小豆を煮る。
最初は豆として煮られたり茹でられたり、でした。
それが「砂糖」という貴重なもので
甘く煮られるようになった。
それが発祥したのは、どこですか?
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観客C |
‥‥どこでしょう。
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糸井 |
小倉山です。
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全観客 |
あーー。
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観客C |
「小倉あん」って、言いますよね。
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糸井 |
それまでは、
豆を甘く煮るということ自体がなかったんです。
じゃあ、京都の小倉山で、
はじめて小豆を甘く煮たのは、誰ですか?
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観客C |
‥‥誰でしょう。
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糸井 |
知りません。
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全観客 |
(軽くコケる)
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糸井 |
そのへんはさ‥‥
徹底的に調べないのが俺の特徴だから。
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観客E |
あえて、ある程度までしか調べない(笑)。
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糸井 |
ぜーんぶ知ってしまうと、それで終わっちゃうから。
たのしみを残しておかないと。
なんていうの? 男と女みたいなものですよ。
愛するというのは、
すべてを知ろうとすることとはちがうんだよ。
で、ま、話を戻せば小倉山です。
小倉山は、
『小倉百人一首』とあんこをつくったんだよ。
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全観客 |
ああー。
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糸井 |
低い山だよ。
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観客E |
低い。
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糸井 |
剣が峰ではないんだよ。
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観客F |
はい。
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糸井 |
エベレストでもないんだよ。
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観客G |
ええ。
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糸井 |
ましてやチョモランマでもない。
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観客A |
そのふたつは同じ山です。
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糸井 |
もちろんマッターホルンでもない。
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観客B |
小倉山が低いことは、よくわかりました。
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糸井 |
私は、小倉山によく行きます。
あのあたりはもう、化野(あだしの)に近いから、
死体を埋めた場所なんです。
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全観客 |
ほぉーー。
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糸井 |
で‥‥ええと、なにが言いたいのか‥‥
もうだんだんわかんなくなってきた。
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観客B |
だ、大統領。
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糸井 |
だーいじょうぶ、なんとかするから。
つまり、
死人が埋まってるような場所で、
甘いものがうまれた。
そういう場所でうまれるっていうことは‥‥
わかりますか?
あっち側からこっち側に
やってくるということなんです。
ですから、あえて言うならば、
あんこというものは
「黄泉の国からの捧げ物」なんですよ。
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全観客 |
‥‥おおおーーーー。
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糸井 |
なあ?
しゃべってるうちになんとかなるもんだろ?
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全観客 |
はい。
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糸井 |
俺はいつもこうやって原稿を書いている。
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全観客 |
(笑)
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糸井 |
だから、小倉山。
すべてが止まって落ち着いてしまった、
その時間の凪(なぎ)のような場所で、
ふわああああぁーっと、
向こう側からくるのが‥‥あんこなんだ。
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観客B |
いいなぁ(笑)。
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糸井 |
まぁ、そういうものですから、
あんこについて
がつがつ知ろうとし過ぎないことです。
こっちからは、行かない。
向こうから迎えに来て、いただく。
ご招待に合わせて‥‥
(ものすごく真面目な顔で)ありがとうございます!
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全観客 |
(笑)
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糸井 |
みんな笑うけどさ、ほんとだよ?
あんこが私に呼びかけてくださる。
私は、応答する。
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観客C |
応答する。
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糸井 |
そう、レスポンス。
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観客D |
レスポンス。
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糸井 |
攻めてはいけない。
‥‥恋愛もそうでしょう?
攻めたててはいけません、
(すごくソフトな口調で)迎え入れるんです。
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観客E |
はあーー(笑)。
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糸井 |
まあ、なかなかすぐには真似できないと思います。
でもこれが、
あんこ世界を自分のものにするということです。
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観客D |
あんこ世界!
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糸井 |
自分のものにするということは、
逆に言えば、
「あんこ世界のものに、私がなってしまう」
ということです。
私はあんこに、取り込まれます。
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全観客 |
おおーーー(笑)。
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糸井 |
(観客の笑いを気にもとめず)ゆだねる。応答する。
「はいっ」と応える。
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観客F |
レスポンス。
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糸井 |
あのね‥‥
応える姿勢、これは立て膝です。
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観客G |
立て膝。
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糸井 |
しゃがんで、立て膝。
手は大地につけます。
こうやって‥‥。
そうして‥‥あんこの呼びかけに対して‥‥
「はいっ!」
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全観客 |
わはははははははは!!
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糸井 |
(観客の爆笑を気にもせず)あんこからの呼びかけに、
私は「はいっ」と応えるだけです。
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観客A |
よっ、大統領!
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全観客 |
(拍手と爆笑)
(つづきます) |