杏
料理の話に戻るんですけど、
飯島奈美さんの『LIFE』も
読ませていただいてます。
糸井
ああ、ありがとうございます。
作ってみたりしました?
杏
全部はまだまだなんですけど、
そのときあった材料で
さっと作れるのでいいですね。
糸井
何回も作っているものとかあります?
杏
卵とトマトとしらすの‥‥。
糸井
ちゃちゃっとかき混ぜるやつ?
杏
そうです、そうです。
糸井
『LIFE副菜』に入っているやつね。
あれ、結構、役に立つんですよね。
杏
はい。
糸井
ぼく、飯島さんが作るような食事こそが、
本当の観光資源だと思ってるんですよ。
よく、「おもてなし」とか言ってるけど、
外国から人が来たときに、
三つ指ついて「いらっしゃいませ」と言っても、
単にめずらしい風景くらいにしか
見えないと思うんですよ。
普通のおいしいものを食べさせたほうが
喜ばれるんじゃないかな。
いまって、ハリウッドのスターたちが来日すると、
こっそりラーメン屋に
行ったりしてるじゃないですか。
杏
あ、そうですね。
お店に行くとサインがあったり。
糸井
そういう、日本人が
普通に食べているものの品質が
圧倒的に上がっていったら、
外国の、どのご飯と比べても
負けないおいしさだと思うんです。
だから、飯島さんが東京オリンピックのときに
大活躍する、というのがぼくの夢なんですよ。
杏
いいですね。
あの、観光のことでいうと、
私も思っていることがあるんです。
糸井
うん。
杏
それは、もっとみんなが
着物を着るようになったらいいのにな、
ってことなんです。
外国人が日本に来て、
着物を着ている人をたくさん見かけたら、
「へえ」って思うでしょうし、
それもそれで1つの観光資源というか。
糸井
ああ、そうでしょうね。
杏
着物が制服になっている学校とかも、
あったら素敵なのにな、って。
糸井
ブータンはそうですよ。
みんな着物で学校に行ってます。
杏
「ゴ」っていう着物に似た衣装を
着ているんですよね。
それ、いいなと思うんです。
いまは、日本人同士でも
「着物着れるって、すごいね」
みたいになるじゃないですか。
「着物=すごいもの」というようなイメージがあって。
でも、『ごちそうさん』に出ていたとき、
私は大正時代の女学生役だったので
袴を履いていたんですが、
すごくラクだったし、
窮屈だと感じたことが一度もなかったんです。
糸井
へえ。
杏
着物って、
「お太鼓絞めて、帯板入れて」という
本格的な着方だったら大変ですけど、
普段の日だったら、ラクに結べる
半幅帯くらいでいいと思いますし。
もっと気軽に楽しめるように
なったらいいのにな、と思うんですよね。
糸井
着物の話でいうと、
この間、文化勲章をもらった
志村ふくみさんという方がいて、
もう91歳なんですけど、
まだパタパタ、着物を織ってるんですよ。
それも生地を染めるところからやってらして。
杏
それ、すごいですね。
糸井
織っているのは、
もう国宝級のものなんだけど、
着物の文化って、
なんだか、途絶えるほうに向かってるんです。
でも、「教える」ということなら
まだ人が集まるからって、
志村さんが教室をはじめて、
集まった生徒さんたちが、
ちゃんと着物を作れるようになるまで
指導しているんです。
杏
へえ。
糸井
でも、作ったものを
持って行く先がないのが現状で。
織れるようになった人がいても、
結局、自分が着るか、
誰かにプレゼントするしかなかったんです。
喜んで買ってくれる人がいたら、
着物って、もっと広がるはずなんですよ。
そこが問題なんじゃないかと思って、
ぼくがお手伝いをしたんです。
皆川明さんのブランド
「ミナ・ペルホネン」の帯と
組み合わせて展示会をやったら、
着物も帯も、どっちも売れたんですよ。
杏
あ、すごい。いいですね。
糸井
需要があったら、
いま途絶えかけている絹糸を作るという文化も、
染めの原料になる植物を育てる人も増えて、
いい循環ができるはずなんです。
「ただ、ないのは、
着物を着ていく場所なんですよね」
っていう話が出てきていて。
着物を着て行ける場所というと、
「観劇とお茶」ってコースに
なっちゃうんですよ。
杏
普通にレストランに着て行っても
本当はいいと思うんですけどね。
私も、もっといろいろ着てみたいし。
糸井
一回、志村さんのとこに行く?
杏
え?
糸井
本気で幕末に興味がある人が、
「みんながもっと着物を着たらいいのに」
と言ってるのって、いいなぁと思って。
講師として来てほしいくらいです。
杏
あ、でも私は、
教えられるものは何もなくて、
こうなったらいいのにな、くらいしか。
糸井
教えるっていうか、
問題意識をポッと出して、
先生と話す、ということはできますよね。
杏
公開ディスカッション的な。
糸井
そうそうそう。
杏
そういうことでしたら、
もう、疑問はいっぱいあるので(笑)。
糸井
ありますよね。
みんなが「織れる人」じゃなくていいと思うし、
着物の文化みたいなものを、
あんまり肩肘張らずに知識として取り入れて、
「それを知るのが楽しい」
っていう人も増えるといいなと思っているんです。
ワインだって、
うんちくを語れる人がいるからこそ
流行ったわけだから。
杏
そうですね。
モデルとして着物を着ると、
いつも何か固定された表現しかできなくて。
もちろん着物を着て足を広げるとか、
そういうのはやっちゃいけないと思うし、
最低限のマナーは守るべきだと思うんですけど、
もっと何か自然体で
おもしろくできないのかなって思うんです。
糸井
要するに「業界の約束事」で
固まっているんですよね。
「ミナ・ペルホネンの帯」なんていうのは、
これまでは、皆川さんの側から提案しても
あり得なかったんですよ。
でも、志村さんから「やりたい」って
言ってくれたからできたんです。
そんなふうにケミストリーが起これば、
着物のショーも、いろいろな形でできそうですね。
生活の佇まいを
芝居仕立てにしたっていいわけだし。
これからできることは、
結構あるんじゃないですかね。
‥‥あ、時代劇の話からはじまったけど、
こういう話は、実は仕事にも役立ちますね(笑)。
杏
そうですね(笑)。
(つづきます)
2016-03-16-WED
写真:小川拓洋 ヘアメイク:平元敬一(NOBLE') スタイリング:佐伯敦子 衣装協力:パンツ/
yunahica
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.