横尾、細野、糸井、3人が集まった日。
第7回
何回やったかが、重要だ。
細野
糸井さんにとって、
「言葉」というのはどうなんですか?
遊び道具じゃないの?
糸井
言葉には機能が入ってるんですよ。
詩でも小説でもコピーでも、
言葉を使っている人は、どこかのところで
泥んこになれない気がします。
細野
なるほど。
糸井
言葉の世界にいる人たちは、
結局「わかられちゃう」仕事をしてるんですよ。
絵や音楽は、
「わかった」って言われても、
「いや、わかってないよ」って
言えるじゃないですか。
細野
そうですね(笑)。
言葉はロジカルだし、はっきりしてますよね。
糸井
でも言葉は、
どことどこがわかって
ここはわからなかった、
というような話ができるんです。
横尾
ぼくたち絵を描く人間にとっては
ある意味で、絵は言葉的でもあるわけです。
絵を描くときに、いちばん邪魔になるのが
「考え」なんですよ。
「考え」はつまり言葉です。
頭の中から言葉を排除すると
無心の状態になります。
無心の状態は、言葉が解放されて、
遊んでいるときのような感じになります。
そこに自分を着地させると、
時間を超えてしまうんですよ。
言葉を排除すると、
時間のない世界に入っていっちゃうんですよね。
糸井さんは、
言葉の世界に生きていらっしゃるけれども、
それをなんとか遊びにして、
時間のない世界につれていきたいということを
やっていらっしゃるような気がするんですよ。
糸井
それは、そうして
がんばれる時間が少しだけある、
というくらいで精一杯です。
横尾
あのね、言葉を解放すると時間がなくなると
言ったけれども、
時間はすごく問題なんですよ。
時間でものを測ったり、
体験や記憶を時間に置き換えると
ぼくはだめだと思うんですね。
糸井
というと?
横尾
時間よりも、むしろ
何を何回やったかという「回数」のほうが、
大事なんです。
糸井
あぁ‥‥その言葉はいいですね。
回数!
横尾
絵を描くときの時間は、
昨日も今日も明日も
過去も現在も未来もないんです。
いまの時間しかないわけでね。
南方へ行くとさ、
人が自分の年齢を知らないということがあります。
だから、あの人たちは、
時間の中で生きてないわけよね。
糸井
そうですね。うん、うん。
横尾
我々は時間の中で生きています。
だけどぼくは、時間よりも、
何を何回したかという
回数のほうが大事じゃないかと思う。
糸井
そんなの、いつ考えたんですか?
横尾
いま考えてる最中だよ。
会場
(笑)
細野
回数ね‥‥。
いままで考えたことなかった。
糸井
時間というものを
人が例える「愛」みたいな言葉で言うとすれば、
回数というのは「親しさ」ですね。
横尾
あぁ、なるほどね。
糸井
お店とお客さんの関係でも、
愛情はないけど、
何回も買い物に来る人って、親しさが出ますよね。
例えば横尾さんと細野さんとぼくが
どんなに愛を感じているかよりも、
会う回数を重ねたというほうが、
人間の関係としては健康的な感じがします。
細野
なんか心地いいなぁ。
横尾
最近、チャップリンの
「チャップリンコレクション」というDVDが
セットで出たんです。
それを買って、短編ものを2本見たんだけれども、
チャップリンが、
行動といったらいいのか、
お芝居といったらいいのかわからないけれども、
とにかく同じことのくり返しをするわけ。
反復ばっかりしつこくしつこくやる。
それは、ある時間の中でやってるんだけども、
何回やったかということが
すごく大事になってくるんですよ。
糸井
はぁ‥‥回数。
横尾さん、それ、いい!
横尾
ぼくはこれまで反復というものを、
時間だと思っていたわけ。
だけど、チャップリン見てるとね、
時間じゃないんですよ。
その辺にいる人たちのお尻を、
どういうわけか片っ端から
蹴っ飛ばすシーンで、
何もしてない人まで蹴っ飛ばすんですよ。
観ているとだんだん
何回蹴っ飛ばしたかということが
すごい大事になってくるわけ。
糸井
つまり、続けるというだけで、
飽きるかもしれないし、
やめたくなるかもしれないし、
観ている人は「つまんない」って言うかもしれないし。
横尾
そうそう。
糸井
チャップリンは、
どこかのところでいちばんいい回数を
決めたんですよね。
それが作品というわけです。
つまり、ロックンロールではないでしょうか。
細野
ロックンロール(笑)。
糸井
「Go Johnny go go」って、
何回言うか、でしょ?
同じことなんだから、1回でいいじゃないですか。
細野
(笑)そうですね。
ビートルズも、リフレインが大好きですよね。
糸井
ロックな魂って、ほんとうは
不良ぶることなんかじゃなくて、
「くり返し」のことだね。
南無阿弥陀仏もそう。
お経もくり返しです。
細野
そうですね。
横尾
そうですね。
細野
お百度参りとか、千羽鶴とか、
全部、数ですね。
横尾
とにかくね、チャップリン観てくださいよ。
糸井
観ます、観ます(笑)。
横尾
気持ち悪いくらい同じことをくり返すよ。
でも、ものすごく気持ちよくなっていくの。
糸井
くり返しは、基本的に違和感があるし、
そんなことはあり得ないわけだから、
見てると、気持ちが悪いはずですよ。
しかも、同じことをやるというのは
表現としてはすごくプリミティブです。
快感になってくるのも確かですよね。
(つづきます)
2016-12-05-MON