天才バカボン

祖父江慎さんのお話 5
笑いを
超えていく。

ほぼ日 少年時代、赤塚さんのマンガを
読んでいらっしゃっいましたか。
祖父江 ました、ました!
当時、テレビで『おそ松くん』やってたんです、
モノクロでね。
「♪チャラララララリン、
 ろくーにんそろえば、
 チャッチャチャ、なんーでもやるぜ、
 プップー♪」
ほぼ日 そんな歌だったんですか。
祖父江 そーそー。
でも、親に隠れて見てました。
けっこう言葉が悪いし、
ポカスカ殴るしで、
親の眼を意識して、
ちょっと自粛しながら見てました。
「親、いないな」って
確認してからじゃないと
見てはいけないような感じだったんですよ。
ほぼ日 マンガも隠れて読んだり?
祖父江 友達んちでよく読んでました。
うちは、マンガの本とか
あまり買ってもらえなかったし、
お小遣いも少なくて買えなかったし。
ほぼ日 祖父江さんは、登校時に
道ばたの草の匂いとかを
嗅ぐ少年だったんですよね?
祖父江 アリの匂いとかね。
あ、つぶしたらこういう匂いかぁ、とかね(笑)。
ほぼ日 じゃあ、マンガを読んでる暇なんて‥‥。
祖父江 いや、そうでもないよ。
ひばり学級で読んでた。
そうそう、ひばり学級(机をバシバシ叩く)!
ほぼ日 ひばり学級?
祖父江 あのね、小学校で
授業が終わっちゃうと、
カギっ子は、おうちに帰っても
だれもいないでしょ?
そういう子は、校内にある、
「ひばり学級」に行くんです。
カギっ子の専門学級。
そこで5時までいていいんですよ。
「下校の時間です」という放送が流れて、
6年生の子が
「もう帰りなさい」と回るんだけども、
「ひばり学級です」って言うと、
「ああ、じゃ、きみはいいよ」と
言ってくれるんです。
ひばり学級ではおやつも出たし、
漫画も置いてありました。
そこに「少年マガジン」もあったんです。
ひばり学級には毎週新しい号が届くので、
ぼくは熱心に読んでました。
それが小学校の低学年のとき。
ほぼ日 「マガジン」だから、
赤塚作品はバカボンですね。
祖父江 うん。
……でも、『天才バカボン』は
途中で「マガジン」から「サンデー」に
引っ越しするんだけどね。
ほぼ日 人気連載が途中で
ライバル誌に移動するというのも
前代未聞ですよね。
祖父江 うん(笑)。
来週から『天才バカボン』は
「少年サンデー」に載ります、って、
おっかしいよねぇ。
引っ越すほうも引っ越すほうだけど、
引っ越させるほうも引っ越させるほうだ。
ほぼ日 ひばり学級に通っていた
低学年のときから、
『天才バカボン』は
おもしろく読まれてました?
祖父江 「マガジン増刊」のバカボン号は、
何度も読みました。
そのころはね、『天才バカボン』も
はじまったばかりだったから、
わかりやすいギャグマンガだったの。
人情ものもあっておもしろい。
そのうち、どんどん壊れてくるんだけど‥‥
ほぼ日 壊れてくるんですか。
祖父江 うん。
それにあわせて自分も成長していったから
「壊れていく」おもしろさに同調できて
ちょうどよかったんだよね。
あの‥‥カメラ小僧が表紙の巻、どれだっけ。
えーっと、そ、クルクルキシンくん、この巻。
ほぼ日 14巻ですね。
祖父江 14巻が出たのは、1973年。
1973年といえば、
ちょうどぼくが中学生のときですね。
内容が年相応な感じに進んでいってくれて、
ぼくは幸運な読者だったと思います。
1巻目は小学校の2年生で
わかりやすく安心なギャグだったのが、
高学年になると、キョーレツなギャグになり、
中学のときには『レッツラゴン』ですもの!
ほぼ日 『レッツラゴン』は「少年サンデー」で
連載してた、すごくシュールだと
言われてるマンガですよね。
祖父江 うん。『レッツラゴン』は
ちょっと行き過ぎてて、
最初、ぼくにはよくわからなかったんです。
このマンガは
ギャグの最終形ですよね。
ほぼ日 いま、新刊では
手に入れるのが難しいようですね。
祖父江 これは、あまりにも危険なギャグなんです。
子どもが読んだら、どう受け止めるのかな?
完全版は、ごま書房から出ていたようだけど、
いまは、書店から消えちゃったですね。
あと、オンデマンド版が
小学館から出てましたね。
ほぼ日 どんな内容なんですか?
祖父江 手とか足とか、どんどん切っちゃったりするし、
マンガのキャラクターも
めちゃめちゃな設定で、
オチもない。
親は子の世話をしないし
子は父ちゃんの面倒なんか受けたくないと言う。
同じ屋根の下にいて、
それぞれが独立して生活してるんです。
ベラマッチャというクマもいて、
で、とにかく‥‥究極です。
ほぼ日 でも、人気があるということは、
当時の祖父江少年も?
祖父江 当時は、よくわからなかったけど、
大人になって読み返すと快感でした。
これは「笑い」を超えてるんです。
ほぼ日 すごい。
祖父江 ずごずぎる。
『レッツラゴン』は要注意です。
(つづきます)
キャラクター紹介

ベラマッチャ

『レッツラゴン』に登場するクマ。
主人公ゴンが、山から連れ帰った。
そのうち、言葉を話しだし、人気キャラクターに。
クマ鍋になる恐怖にいつもさらされている。
語尾の「ベラマッチャ!」がかわいい。

2009-08-27-THU