第9回 交通量の多い交差点を探すんです。
糸井

同じような点に見えても
ちょっと大きさや位置を変えるだけで
表情が変わってきちゃうんだね。

佐藤

本当にドットで変わるんだぁ!
だんだん、
たかしまさんの本性が
でてきましたね。

たかしま

目をグリグリグリってやってるときが
一番時間がかかるんですよ(笑)。

佐藤

確かに人間同士でも目を見たときに、
疲れてるとか全部分かりますよね。
それも寸法にしたら
コンマ何ミリくらいだと思うし。

糸井

ブタフィーヌさんは部品化することができる
キャラクターなんですよ。
だから、デザイナーに渡せば
このブタフィーヌさんセットで
だれでも描けるものは作れるとは思う。
だけど、ブタフィーヌさんセットで作ったものと
たかしまさんが実際に描いたものは
明らかに違ってくるんです。
画竜点睛の目にあたるものが
やっぱり何かのオリジナリティですよね。
卓さんの普段の仕事では
量産品を作ることが多いけど、
クールミントガムのペンギンにしても
オリジナルの形してないと、
そのオーラが出ないというか、
魅力がでないですよね。

佐藤

僕が携わる前からペンギンがいますが
それを未来に残していくといいますか
未来とつなぐというつもりで、
新たにデザインを起こし直してます。

でも、微妙な線の具合によって
全然変わっちゃうんです。
その輪郭がどこなのか?
もう右でも左でも、
手前でも奥でもダメで、
それはペンギンを作っていても
「おいしい牛乳」の
文字を作っていても同じなんです。
作ってるというよりも
探してる感じに近いんです。
さきほど、たかしまさんが実演された
「ブタフィーヌさんの目玉を探す」
みたいな感覚に近いのかもしれません。

糸井

卓さんはつまり、
ドローイングや
ペインティングといった
絵描きの仕事としてはしてないけど
実は空間の中に彫刻してる。
画材の違う彫刻をしてるんだと思うんです。

そこは一見、管理職みたいに
デザイナーって言いたがるし、
思われがちだけど、
実は彫刻家っていう
オリジナルを作ってる。
コンテンツを作る側に立ってないと、
魅力のあるデザインは
できないんだなっていうことを、
卓さんの仕事を見てると
本当思うんです。
このブタフィーヌさんにしても
卓さんの絵を使ってるんじゃない。
だけど、全体として
彫りだしてる気がするんですよね。

佐藤

文字一つ作るときでも
多少、太かろうが
細かろうが別にいいわけで、
絶対的なものはないわけです。
でも、経験で
「ここだ」というのは
かなり気配を感じるんです。
状況や条件といった
ものすごく多くの考えなければならない道があって
そのどれもに影響をもつような
交差点を探す感じです。

糸井

交通量の多い場所を探すんだ(笑)。
それは、システムエンジニアとかが
考えてることに近いですし
ぼくがやってることも同じなんです。
企画がAからCまで仮にあったとして、
一番転がるものとか
膨らむものとか、
人が見てて無視できないものとか、
そういうのの分量配分みたいなものを
いつも考えるわけです。
だから、できちゃったものが
どういうふうに転がっていくかという
未来を想像してないと
アウトプットはやっぱり出せないですね。

佐藤

ここを選んでおけば
今予測できない可能性までもが
広がるかもしれないということも
すごく重要なような気がしますね。

糸井

自分じゃない
人と組んでいくときの面白さって、
その交通量の話とそっくりですね。
どこから来た車がどこで合流するみたいなね。
だから、あの何でもなさそうなコピーって、
それこそぼくのノウハウからすると
一番高度なんです。
言葉がだれでも作れる言葉だし、
書いてあることも非常に常識的に見える。
だけど、この材料でこんなふうに表現する、
その魅力を表現するというのは
なかなか難しいことです。
そういう場にちょっと感謝するんですよね。

佐藤

大量生産品のデザインは
すごく多くの人へ届ける必要があります。
難しいことをしたら
突然、届かないものになるし
だからこそ、
実に簡単なところへ
最終的には持っていかなきゃいけない。
糸井さんのさっきのコピーみたいな、
人によっては
「これ、なんかあまり考えてないじゃない?」
と思うぐらい簡単な文字。
そういうところに目盛り合わせるほうが
実際は難しいんですけど、
そっちのほうに私も
デザインの醍醐味を感じるんですね。

糸井

すごいエリートが見れば
このよさは分かるんだよって
ものを作りたいつもりは全然なくて、
だれでもに分かってほしいって気持ちがある。
だけど、同時に、だれでもが分かるってことと、
相当やり込んでるっていうか見る側のプロが、
「だれが作ったの?」というようなところが
重なってるものが夢だよね。

佐藤

やりたいですねえ(笑)。
たかしまさんのドットで調整しながら
一見だれでも描けそうな目描いていることも
簡単そうに見えて
実はできないことなんですけど、
システムエンジニアで培った
細かい目盛りみたいなものっていうのは、
そういうところに生きてるんですかね。

たかしま

そうですね。
例えばプログラミングというのは
本当にアルファベットが1個違ったりとか
変数値を1個多く入れすぎちゃったとか、
そういう細かいところで
全体が止まってしまうんです。
今にして思えば、
エラーが出るたびに
何度も何度もプログラムを見返して、
正常に動くように見ていく作業が、
わりとやってて楽しかったんですよね。
目の細かい部分をちょこっと変えることなんかは
言われてみればちょっと似てるような気もします。

糸井

かといって、
バグが出ないように
恐る恐る点を描いたらダメなんでしょうね。

たかしま

そうですね。
最初の構成は、
けっこう大胆にザックリ作っていきますし。

佐藤

サラサラッと描いてるような感じがしましたけど。
意外と高度なことをやっぱりやってるということが
だんだん分かってきましたね(笑)。

 
<つづきます>
2007-03-23-FRI
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