先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- 糸井
- 野菜だ。
- 南
- おいしいね。
- 糸井
- 外で食べるから、さらにいい。
さっきの話のつづきだけどさ、
沈黙が嫌だという気持ちは、
本当は誰にでもあるよね。
黙っている時間がつらい原因はなんだろう。
- みうら
- シーンとしているときって、
「次はどう言ったらいいかな」ということばかりを
考えてしまいます。
そこで、達人のおふたりに
教えていただきたいんですが、
何もしゃべらないときって、
やらしいことでも考えてたほうがいいんですか?
- 南
- やらしいことを考えてればね、
それは黙りますね。
でもそれほどまでには沈黙は気にならないよ。
- みうら
- マジですか。
- 南
- たしかにみんなが黙っちゃてて、
ちょっと気まずいなっていうときもあるんだよ、
それは。
- みうら
- 南さんも感じてる、と。
- 糸井
- あると思う。
- みうら
- 「誰かがなんか言えばいいなぁ」
くらいは思ってるでしょ?
- 糸井
- うん。
- みうら
- そのとき「え? 俺かよ」ということに、
自分は、なってます。
- 糸井
- でも、そこで埋めたものがじつは
「口から災いの元が出る」に
なりがちでしょう。
- みうら
- あぁ、よくあります。
言わなきゃよかった、というのは、
たしかにそのとき出ます。
- 糸井
- 本当は埋めなくていいんですよ。
たとえば、どんなに慣れた友達でも、
お寿司屋のカウンターに並んで座ったら、
すこしはしゃべりますよね?
- 南
- うん。
- 糸井
- で、相手が「最近どうしてるの」とか。
- みうら
- まぁ、聞き出したりしますよね。
- 糸井
- 「それ、どこで買ったの?」
みたいな話をする。
つまりそれは、お寿司に集中してないんですよ。
- みうら
- なるほど。
でもこれもまた、めしのときの話ですよね(笑)。
糸井さんは、食事のときは黙ってるから。
- 糸井
- 「あぁ、おいしい」と思うためには、
やっぱりある程度、
「あ、おいしいな」と思う時間が欲しいわけだよ。
- みうら
- ええ、ええ。
- 糸井
- たとえば、マグロが来た、食った、
「あぁ、おいしいなぁ」というときに、
「そういえばさ、あの4年生のときのさ」
なんて言われると
「おいしいな」と「4年生」が
まざってしまうでしょう。
- みうら
- あぁ、そうですね。
- 糸井
- 「おいしいな」が減るじゃん。
- みうら
- おいしい4年生っていうのは、
ないってことですね(笑)。
- 糸井
- ないない。4年生は4年生だから。
そのマグロを食べ終わっても、
まだ「次はどうしようかな」と思うでしょ?
「おかわりしようか」とか
「もう一回もらうとしたら、赤貝かな」とか
考えているときに、
「この間、引っ越したじゃない?」
とかって話されると
「あぁ、そうねーー」ってなる。
- みうら
- それじゃあずっと話せないですね。
気もそぞろになっちゃう。
- 糸井
- 別に嫌じゃないんだよ、
話はぜんぜん嫌じゃないんだけど、
俺はものすごくいま
「次は赤貝かな」とかを考えているから。
- みうら
- その場合は当然、赤貝ファーストですよね。
- 糸井
- 「穴子は2貫食べようかな」
- 南
- プランがあるからね。
- 糸井
- 向こうの人が食べているものも見るし、
大将が握ってる手も見る。
「お茶飲もうか、あ、お茶がないな」
なんてことも思ってるし、
つまりあれだよ、
映画や芝居を見てる最中みたいなもんだよ。
- みうら
- まぁ、映画でも、
「上映中はしゃべらないでください」って
言いますもんね。
- 糸井
- 一緒にいる人も同じ考えの場合は、
俺、黙っててもいいと思うな。
- 南
- そうそう、そうね。
- 糸井
- だって、おいしいんだから。
「食おう」って集まっているときは特にそう。
たとえば伸坊と寿司を食いに行っても、
ずいぶん黙った挙句に、
「この間、石井くんから電話があってさ」
なんて言うことだって、あるわけさ。
- みうら
- いきなり、いきなり?
- 糸井
- いきなり。
だけど、友達同士ではなかなかむずかしいね。
夫婦の場合には、
黙っててもいいんだと思いあってるから、できます。
だから、食うってことに関しては、
夫婦でいるのがいちばん楽なんだ。
- みうら
- 俺は、機嫌が悪い人とごはんを食べたくない、
ただそれだけなんです。
俺はどうでもいい、相手が機嫌よかったら、
もうそれでいいんです。
糸井さんとそんなにひんぱんには会ってないのに、
たまにつけたテレビで巨人が勝ってると、
「機嫌いいんだな、いま」と思うこともあります。
俺は遠い空の下で、
そんなことまで思ってるんですよ。
- 南
- はははは。
- 糸井
- それは当たってるよ。
- みうら
- 当たってるでしょ?
「あ、今日は機嫌よかったんだ。
まわりの人もよかったなぁ」
- 糸井
- それは当たってるよ。
- みうら
- でしょう(笑)?
(夜のテーブルで、おしゃべりはまだまだ。
明日につづきます。)
2019-12-17-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN