先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- 糸井
- みうらはいままで、
いろんなマイブームがあったでしょ?
伸坊は、そういうのはないよね。
- 南
- 特にない。
へんなものは好きなんだけど、
ものすごく肩入れすることは、
あんまりないね。
- みうら
- 南さんのその
「へんなものは好きだけど肩入れしない」
という考えは、
南さんがいなかったら、俺は
知らずに一生を終えていたと思います。
それまでぼくのまわりには
「熱いやつ」か「冷めてるやつ」しかいませんでした。
南さんはいつも「いいね、それ」って言う。
- 糸井
- たしかに。
- みうら
- いまはみんながインスタグラムに
「いいね」するけど、
あのハシリは南さんですから(笑)。
- 糸井
- 熱い人が熱いままでそこだけ見てる状態って、
入口がないんだよね。
- みうら
- そうです、そうです。
南さんが「いいね」と言わなきゃ
はじまらなかったものは、
『ガロ』の編集長時代にもたくさんありました。
- 南
- いや、俺が行くまでに、
『ガロ』という雑誌が
そういう場所になってたんだよ。
- 糸井
- つげ義春さんは、
伸坊が編集長になる前から連載してたもんね。
- 南
- ぼくは読者でした。
- 糸井
- 藤子不二雄さんのマンガを読んで育った人たちが、
「つげ義春が描いた、その、
『ねじ式』っていうのは、なんなんだよ」
で、おしまいにするかもしれなかった。
「おしまいにならないよ」をした人たちが
その時代時代にいたんだよね。
- みうら
- ぼくらはやっぱり、糸井さんと湯村輝彦さんの
『ペンギンごはん』がルーツです。
久住昌之も、根本敬もそう言ってる。
「これだったら俺にもできるんじゃないか」
と思った。
- 糸井
- みんなそう思ったんだよ。
- みうら
- でも、やってみたらできないことがわかる。
- 南
- そうそう。
- みうら
- 「やっぱりこの人たちがすごいんだ」とわかる構図が
ちゃんと作ってあった。
ぼくらは「しまったな」とは思ったけど、
そのまま歩みはじめました。
おふたりがいる時代に生まれてよかったと、
俺はほんとうに思っています。
いなかったら、ないですよ、俺は。
- 糸井
- あのときに『ガロ』が困ってたおかげで、
原稿料が「ただ」だったということが、
俺はすごく重要だと思ってるんだよ。
- 南
- 俺もそれは思ってる。
- 糸井
- ねぇ。
- 南
- 本当におもしろいことができたのは、
じつは、お金が関係ないからなんだよね。
横尾(忠則)さんにしても、
和田(誠)さんにしても、
代表作のようにみんなが思っているものは、
お金に関係のない作品です。
- 糸井
- 横尾さんは、
唐十郎さんの芝居のポスターを作ったね。
- 南
- あれもそんなにお金をもらってるはずないですね。
だから本当にやりたいことをやってる。
横尾さんは、深沢七郎さんが
今川焼屋をやったときに、
ポスターつくったんだよ。
- みうら
- あ、横尾さんのそのすごいポスター、憶えてます。
- 南
- 赤瀬川(原平)さんのところにも
発注があったの。
「包装紙のデザインしてくれ」って、
深沢さんがたのみに来て、
今川焼で儲けたようなしわくちゃなお金で、
原稿料をその場で払ったってんだね。
- 糸井
- はぁ。
- みうら
- へぇえ。
- 南
- そのとき赤瀬川さんは、深沢さんの顔を描いた。
印刷代の都合で、
「せいぜい2色しか使えないから」と言われたから、
赤瀬川さんは言われたとおり、
実直に2色でやったわけ。
でもそのあとで、横尾さんの
ポスターだか包装紙だかができあがった。
横尾さんのは4色刷りでさ。
- 糸井
- 横尾さん、聞いてくれないんだ。
- みうら
- そうですよ、横尾さんのはカラーです。
- 南
- 「4色でやります」というのは、
横尾さんが言ったんだ。
「お金はぼくが出します」って。
- みうら
- 本人が?
- 糸井
- あぁ、すごいなそれは。
- 南
- だからあのポスターだか包装紙は、
印刷代を横尾さんが出してるわけよ。
- 糸井
- そこまでして4色にしたかったんだ。
- 南
- 4色にしたかったし、
深沢さんのお店の包装紙を作りたかったんだ。
自分が本当にたのしくやりたいという
気持ちのほうが大きいんだね。
それで儲けようとは考えてない。
それがのちに名作になって、
みうらさんにも憶えてもらえるんだよ。
- みうら
- 「おもしろいほうに走る」は、たぶん
南さんが行った 美学校から生まれた
発想なんじゃないかと思います。
ぼくは美学校には行かなかったけど、
「苦労したほうがおもしろい」というようなことは、
南さんや赤瀬川原平さんから
ものすごく学んでいると思います。
(山の中、星の下、
聞こえるのは3人のおしゃべりだけ。
明日につづきます。)
2019-12-18-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN