先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- 南
- 赤瀬川(原平)さんの、
あの1,000円札を作品にしたやつ、
あれだって、ふつうは思いついてもやらないよね。
- みうら
- 千円札裁判にもなっちゃったけど、
誰もがそんなに叱られるとは
思ってないじゃないですか。
それでも「おもしろい」のギリギリでやる発想、
それはもう、すごいと思います。
- 糸井
- 赤瀬川さんの存在は、こういうくだらないこと──
まぁ本当はくだらなくはないんだけど──の、
おおもとになっているんだよな。
- 南
- 赤瀬川さんの本で、
『千利休 無言の前衛』っていうの、あったよね。
- 糸井
- あれはおもしろかった。
- 南
- あれは『利休』の映画の脚本を担当したあとに
書いたんだけど、
あのなかで赤瀬川さんは、
自分が歴史を知らないって書いてた。
「歴史を知らないんですよ」と言うと、
みんなから「いえいえ」と言われちゃうんだ。
それは「自分は泳げないんで」と言ってるのに
「いえいえ」と言われるみたいだ、と。
赤瀬川さんは当時、泳げなかったの。
- 糸井
- あれはショック強かったなぁ、
「何、その視点!」と思ったね。
おとといくらいにたまたま本棚で
あの本の背中が見えて、
「また読もうかなぁ」なんて思ったけど、
寄り道してる場合じゃないかと思い直して
やめときました(笑)。
- 南
- 赤瀬川さんの本は、取っといて、
あとでまた読むとおもしろいね。
- 糸井
- そうだろうね。
- 南
- やっぱり芸術家は、根性座ってるんだ。
あるとき「立体櫻画報」という展覧会を
京都でやったの。
赤瀬川さんとぼくらは、
京都大学の学生寮かなんかに泊めてもらった。
風呂は銭湯に行ったのね。
風呂から戻ってきて、池のある中庭あたりを
ぶらぶら歩いてるとき、構内放送で
「本日は赤瀬川原平先生ご一行がいらしてます。
これから赤瀬川先生の歓迎会をはじめますので、
みなさん、中庭に集まってください」
なんて言う。
するとガーッと学生が集まったわけよ。
それで「なんだなんだ」というまに、
赤瀬川さんは抱えあげられて、
池にザボーンって入れられたんだ。
- 糸井
- えぇ、そうなの?
- 南
- そんなことがあったらふつうはさ、
「なんだよ!」となるでしょう。
だけど、赤瀬川さんは泳いで、
泳げないのに、泳いで(笑)。
- みうら
- 泳げないのに(笑)。
- 南
- やっとこさ水からあがってきたんだ。
あとで俺は赤瀬川さんに
「あの、泳いだのはよかったね」と言った。
すると赤瀬川さんは
「それはしょうがないじゃない、あんなになったら」
って(笑)。
- みうら
- わははは、なるほど。
- 南
- 赤瀬川さんは「しょうがない」と思ってるんだな、と
俺は妙に納得したんだよ。
本当は「なんでこんなことされるんだ!」と、
びっくりしたはずなんだ。
でもおもしろく、泳ぎまでして。
- みうら
- 怒るわけにもいかずね(笑)。
- 糸井
- それは肝が座っているとも言えるけど、
ほかにやりようがないときに出る
「ほかにないじゃん」だね。
「ほかにないじゃん」は、
自分をずいぶん助ける言葉です。
- みうら
- 糸井さんにもそういうことありましたか。
- 糸井
- 大勢の集まりで、黒田節みたいな
大盃を渡されたことがあったんだよ。
ほら、俺は酒を飲めないでしょう、
そこに一升瓶でドドドッとつがれてね。
心の中で「さぁどうするか!」という
言葉がこだました。
さっきの赤瀬川さんと同じで、
これはどうにもならないと判断し、
でもやっぱり、お酒は飲めないから、
ちょっとだけ飲んで。
- みうら
- で、どうしたんですか。
- 糸井
- 盃をそのままワーッと持ち上げて、
頭からバーッとかぶりました。
- みうら
- 頭からですか。
- 糸井
- ほかにないんだよ。
- みうら
- ないですよね(笑)。
- 南
- そうですね。
- 糸井
- それで「ごちそうさまでしたぁ!」と叫んで、
みなさんも「ワー!」なんて盛りあがってくれて、
その直後に上司の人が、
「糸井さんは飲めないんだよ!」と
注意してました(笑)。
そういう「ほかにないんだよ」の局面は、
けっこうみんなにあるような気がするよ。
- 南
- でもやっぱりそれは
ある種の決断力がなきゃできないよ。
- みうら
- そうですね、アイデアがなけりゃ。
- 南
- その場で謝って
「できない」とだけ言うのがふつうだよ。
赤瀬川さんにしても、
期待されてることに対する気持ちがあると思うんだ。
やっぱり肝が座ってるんだよ。
- みうら
- まぁ、どっちもザブンと被るってところが
一緒ですね。
- 糸井
- 偶然にもね(笑)。
- 南
- ザブンがよかったね。
つまり「つまんない」のが嫌なんだ。
いちばん嫌なんだよ。
- みうら
- おもしろいほうがいいから。
- 糸井
- それはね、俺も賛成よ。
おもしろいほうがいい。
(おもしろくその場を解決、
心に刻んでおこう。
明日につづきます。)
2019-12-19-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN