先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- みうら
- 南さんがぼくになってくれたとき、
そうとううれしかったけど、
ふつうぼくは、若者が髪伸ばしてサングラスかけて、
「お前、みうらじゅんか!」
と言われる、というパターンです。
- 南
- そうか(笑)。
- みうら
- これはつまりぼくが、
馬鹿にされているということですよね(笑)。
ヘアセット失敗の写真に
「みうらじゅんになっちゃった」とか、
書いてあるんです。
ああ、俺という人間は、
「なりたい」わけじゃないのか、と
よく思います。
- 糸井
- はははは。
- みうら
- こんなに熱心に仕事をしてきたのに、ですよ。
時代はすでに令和ですけど、
ぼくにとっては、仕事だけの平成でした。
- 糸井
- 俺も仕事でずっとだよ。
その無報酬感は本当にすごいよ。
- みうら
- 無報酬感ですか。
- 糸井
- どこからも報酬がないのに、
働きアリのように、一所懸命。
- みうら
- それはつまり、お金じゃなくて、
「いい報酬」のことしょ?
- 糸井
- ちがうよ、あらゆる報酬がなかったんだよ。
- みうら
- 報酬ねぇ‥‥、でも俺はもう、
いい報酬は欲しくないですよ。
いい報酬は虚像だと見破りました。
この世にあるわけない。嘘っぱちです。
- 糸井
- つまり、女の人から好かれることを
言いたいわけですね。
それはぼくらにとって報酬ではない、と?
- みうら
- 戒めですよ。
- 糸井
- 罠か。
- みうら
- 罠です、罠です、罠です(笑)。
- 南
- 3回言った。
- みうら
- 映画の「007」も
ジェームズ・ボンドがやけに
いい報酬を受け取っているように見えますけどね。
- 糸井
- だって「007」は映画だから、
部分部分カットして、
みなさんにお届けしてるんです。
主人公はトイレに行かないでしょ?
でも、お風呂は入るんだよ。
- みうら
- お風呂はたまに入りますね。
- 糸井
- シャワーとお風呂はよく入るんだよ。
- みうら
- 入る、入る。
- 糸井
- 報酬も入るし。
- 南
- ややこしいところは
あんがいカットされてますね。
- 糸井
- 「きのう誕生日だったのにどうして憶えてなかったの」
とか、そういうところはカットされています。
- 南
- カットしないと、
そういう映画になっちゃうからね。
- みうら
- そういう映画はそういう映画で
ちゃんとありますからね、
- 糸井
- 007が爪切ってるシーンとかも
あんまりないからね。
- みうら
- 伸びるはずですよね。
- 糸井
- 007が赤ん坊だったら、
おっぱいもらえばいいだけなんだけどね。
- みうら
- 赤ん坊は、結局おっぱいくらいしか
いい報酬は来ないですね。
- 糸井
- 通貨がひとつだからね(笑)。
おっぱいで思い出したけど、もうすぐ昼めしだよ。
- 南
- 早い報酬だね。
昼は何を食うの?
- 糸井
- カツカレーじゃないことはたしかだね。
- みうら
- カツカレーですか、
カツカレーはちょっと、どうでしょうね、みなさん。
- 糸井
- 俺はカツカレーのうまい店を知ってる。
- みうら
- カツカレーって、だいたいうまいじゃないですか。
- 糸井
- まぁね。
- みうら
- そこ、飛び切りうまいんですか。
- 糸井
- うまいですね。
カツカレーがうまくなるには、
カレーがうまくて、カツがうまくないと
いけないんだよ。
- みうら
- あぁ、そうですね(笑)。
- 糸井
- で、カツが、カツすぎると、
- 南
- あぁ、はいはい、それはよくないね。
- みうら
- それなら、トンカツでいいじゃないか、
ということになりますね。
俺もカツが勝ってるのは嫌です。
- 糸井
- 「そんなにしちゃだめだよ」みたいなことだよね。
- みうら
- でも、カツが完璧に
負けてるやつもあるじゃないですか。
- 南
- 負けすぎもある(笑)。
- みうら
- 「カツかよ!」と叫びたくなるような
ケースがあります。
- 糸井
- そういう店は、カツに対して
「ま、これでいいや」という姿勢なんだよ。
でも俺の知ってるその店は、
ものすごく息の合ったおばさんとおじさんが丁々発止で
どんどんうまいカツカレーを出す。
でも、そのふたりは夫婦じゃないんです。
- みうら
- なんでそんなことわかるんですか。
- 糸井
- たしか聞いたんじゃないかな。
「夫婦じゃないんですよ」っていうのを
ネタにしてるふしもあった。
- 南
- あぁ、なるほど。
- 糸井
- だけど夫婦以上に、
「ほい」「ほい」「ほいしょ」「はい」
みたいな感じ。
- 南
- 息が合ってるんだ。
- 糸井
- 冗談なんかも息が合ってる。
でもまぁ、夫婦じゃ、
そんなにたのしそうに
息は合わないということでしょうか。
- みうら
- なるほどね。
まぁ、夫婦でも夫婦じゃなくても、
仲がいいのはいいですよ。
- 南
- 神保町に夫婦仲の悪い中華屋さんがあるよ。
- 糸井
- それ、仲が悪いんじゃなくて、
その時間帯にだけ、
仲が悪いかもしれないよ。
- 南
- 俺、昼間しか行ってないな。
- 糸井
- そういう家で、
8人くらいの子持ちだったりするケースがあるんだ。
「けっこう仲よしじゃん。見損なったよ!」
と言いたくなりました。
- みうら
- 高円寺に住んでたときによく行った定食屋も、
ものすごい不仲夫婦でした。
夫婦で罵倒しあうんです。
「◯◯って言ってるだろう、お前!」
という言葉が、唾が飛んでくるくらいの勢いで、
カウンターのこっち側に漏れ出してくるんです。
- 南
- それは食べた気がしないね。
- みうら
- ええ。これはたまらんなぁと思っていたら、
ある日、その店にアルバイトの若い女の子が入りました。
「あぁこれでやっとお店もまるくなるよ」
と思って行ったら、
その女の子にやさしいということで
また奥さんが怒り出して、
さらに不仲になりました。
(お昼ごはんにつづきます。
ちなみにカツカレーではありません。)
2019-12-25-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN