緑のなかに出かけようよ。
先輩、後輩、そしてなかよし。

たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。

ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
3人が訪問したところ:WOODLAND BOTHY
第19回 般若心経の修行。
写真
俺、みうらさんの「アウトドア般若心経」、
すごく好き。ものすごくいい。
糸井
あれはいいね。
みうら
ありがとうございます。
前に「旅」という雑誌で、
「小原庄助を訪ねる旅をしてください」
と言われて、ロケにいく仕事をしたの。
ゆかりの旅館に3軒泊まって、
朝寝朝酒朝湯する姿を写真に撮る、という企画。
まぁ、写真はうちのが撮ったんだけどもさ。
みうら
はい、奥さんが。
俺のほうも、
路上観察的な写真を撮ってやろうと思いついて、
「朝」「寝」「酒」「湯」なんて文字を
集めようとしたの。
みうら
町の看板で?
うん。すぐ撮れると思ったわけよ。
まず寝具店というものがあるはずだ。
寝具店で朝寝の「寝」を撮って、
「朝」は朝日新聞でもいいんだし、
「朝」のつく看板なんて、
すぐあるだろうと思ったんだよ。
だけど、探そうとするとない。
朝日新聞もないし、寝具店もない。
「酒」はあるよ。
写真
糸井
「酒」はあるね。
「湯」もありました。
みうら
はいはい。
「酒」と「湯」はすぐ撮れた。
でもそこから先、ぜんぜん進まない。
だから、みうらさんが街の看板で般若心経を集めた
「アウトドア般若心経」は、
途方もないことなんだよ。
まず、写真の撮り方がいい。
「朝」という字を撮りたかったら、
俺だと「朝」にグッと寄っちゃうんだけど、
みうらさんはそのまわりも入れこむわけ。
で、それがおもしろい。
糸井
うん、うんうん。
たのしんでいるのかもしれないけど、
こっちはもう、
これが大変なことはわかっているわけですよ。
糸井
大変だよね。
大変なのを、
みうらはわりと、やるんだよね。
みうら
あれをはじめて2年くらい経つと、
視野がグイッと広がるんです。
さらに進むと、文字のほうから
眼にバンバン飛び込んでくるようになりますんで。
なるほど(笑)。
写真
みうら
般若心経を唱えながら町を歩き、
ひたすら文字を探します。
すると、ときには
雨とか降ってくるじゃないですか。
あぁ、降るね、降るよ。
みうら
降るんですよ。
つねづねこれは修業だと思っていたけど、
やっぱり限界というものがある。
「羯諦羯諦」は、ないんです。
あぁ、ないですね。
看板で「羯諦」はない。
みうら
どう考えても町の看板で
「羯諦羯諦」を使ってるところはありません。
しかし、そういうときは親切にも
知らせてくれる人があらわれるんですね。
「羯諦羯諦の羯はここにありますよ」って。
糸井
すごいな。
写真
みうら
ネットで確認して、
その一文字のつく中華料理屋が
岐阜にあることがわかりました。
「ヤッターッ」と喜び勇んで、
そのためだけに岐阜に行きました。
でも、ネットの情報って、
古いのがそのままになってるんですよね。
ぼくが訪ねたそのお店は、なくなっていました。
あぁ、残念だね。
みうら
ビルのフロアごと消えていました。
岐阜に行ってまで、徒労です。
そうなってくると、がぜんハッスルします。
一文字のためにはるばる来てだめだったほうが
グッと来るじゃないですか。
すぐ撮れるよりも、ずっと。
糸井
すぐに撮れちゃうと、
逆に励みがなくなりますもんね。
素朴な疑問ですが、
みうらさんは、般若心経の文字は全部、
頭のなかに入ってるっていうことだよね? 
みうら
そうです。
小学生のときから仏像好きだったもので。
糸井
小学生から?
みうら
般若心経ってビートルズの
「イエスタデイ」くらいな感じなんですよ。
うんうん、そうだよね(笑)。
みうら
短いけど、名曲。
町の看板に隠れた般若心経は、
どこにあるかがさっぱりわかんないから、
ずいぶんと歩くことになりました。
ダイエット効果もあって、
当時はすごい量の酒を毎日飲んでたけど、
おかげでぼくは4、5キロ痩せました。
写真
(釣りのあとのお風呂を終え、帰り道へ。
明日につづきます。)
2019-12-27-FRI