先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- 南
- 俺、みうらさんの「アウトドア般若心経」、
すごく好き。ものすごくいい。
- 糸井
- あれはいいね。
- みうら
- ありがとうございます。
- 南
- 前に「旅」という雑誌で、
「小原庄助を訪ねる旅をしてください」
と言われて、ロケにいく仕事をしたの。
ゆかりの旅館に3軒泊まって、
朝寝朝酒朝湯する姿を写真に撮る、という企画。
まぁ、写真はうちのが撮ったんだけどもさ。
- みうら
- はい、奥さんが。
- 南
- 俺のほうも、
路上観察的な写真を撮ってやろうと思いついて、
「朝」「寝」「酒」「湯」なんて文字を
集めようとしたの。
- みうら
- 町の看板で?
- 南
- うん。すぐ撮れると思ったわけよ。
まず寝具店というものがあるはずだ。
寝具店で朝寝の「寝」を撮って、
「朝」は朝日新聞でもいいんだし、
「朝」のつく看板なんて、
すぐあるだろうと思ったんだよ。
だけど、探そうとするとない。
朝日新聞もないし、寝具店もない。
「酒」はあるよ。
- 糸井
- 「酒」はあるね。
- 南
- 「湯」もありました。
- みうら
- はいはい。
- 南
- 「酒」と「湯」はすぐ撮れた。
でもそこから先、ぜんぜん進まない。
だから、みうらさんが街の看板で般若心経を集めた
「アウトドア般若心経」は、
途方もないことなんだよ。
まず、写真の撮り方がいい。
「朝」という字を撮りたかったら、
俺だと「朝」にグッと寄っちゃうんだけど、
みうらさんはそのまわりも入れこむわけ。
で、それがおもしろい。
- 糸井
- うん、うんうん。
- 南
- たのしんでいるのかもしれないけど、
こっちはもう、
これが大変なことはわかっているわけですよ。
- 糸井
- 大変だよね。
大変なのを、
みうらはわりと、やるんだよね。
- みうら
- あれをはじめて2年くらい経つと、
視野がグイッと広がるんです。
さらに進むと、文字のほうから
眼にバンバン飛び込んでくるようになりますんで。
- 南
- なるほど(笑)。
- みうら
- 般若心経を唱えながら町を歩き、
ひたすら文字を探します。
すると、ときには
雨とか降ってくるじゃないですか。
- 南
- あぁ、降るね、降るよ。
- みうら
- 降るんですよ。
つねづねこれは修業だと思っていたけど、
やっぱり限界というものがある。
「羯諦羯諦」は、ないんです。
- 南
- あぁ、ないですね。
看板で「羯諦」はない。
- みうら
- どう考えても町の看板で
「羯諦羯諦」を使ってるところはありません。
しかし、そういうときは親切にも
知らせてくれる人があらわれるんですね。
「羯諦羯諦の羯はここにありますよ」って。
- 糸井
- すごいな。
- みうら
- ネットで確認して、
その一文字のつく中華料理屋が
岐阜にあることがわかりました。
「ヤッターッ」と喜び勇んで、
そのためだけに岐阜に行きました。
でも、ネットの情報って、
古いのがそのままになってるんですよね。
ぼくが訪ねたそのお店は、なくなっていました。
- 南
- あぁ、残念だね。
- みうら
- ビルのフロアごと消えていました。
岐阜に行ってまで、徒労です。
そうなってくると、がぜんハッスルします。
一文字のためにはるばる来てだめだったほうが
グッと来るじゃないですか。
すぐ撮れるよりも、ずっと。
- 糸井
- すぐに撮れちゃうと、
逆に励みがなくなりますもんね。
素朴な疑問ですが、
みうらさんは、般若心経の文字は全部、
頭のなかに入ってるっていうことだよね?
- みうら
- そうです。
小学生のときから仏像好きだったもので。
- 糸井
- 小学生から?
- みうら
- 般若心経ってビートルズの
「イエスタデイ」くらいな感じなんですよ。
- 南
- うんうん、そうだよね(笑)。
- みうら
- 短いけど、名曲。
町の看板に隠れた般若心経は、
どこにあるかがさっぱりわかんないから、
ずいぶんと歩くことになりました。
ダイエット効果もあって、
当時はすごい量の酒を毎日飲んでたけど、
おかげでぼくは4、5キロ痩せました。
(釣りのあとのお風呂を終え、帰り道へ。
明日につづきます。)
2019-12-27-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN