企画会議で落ちるよ。
- 糸井
- キャップレス万年筆はさ、
実は、このクリップがすごいよね。
クリップをよけて握らなきゃいけないから、
すごい不都合を感じるはずなのに。
- 古賀
- そうなんですよね。
- 糸井
- もっと人差し指を前に出したいとか、
いろいろあるじゃない?
なのに、使っている自分が
それについて文句を言ってないというのが、
すごいことですね。
- 古賀
-
うん、すごいです。
- 糸井
- だってこれ、ふつうなら
企画会議で落ちるよ。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- 「問題はこのクリップだなぁ」とか
「もっと奥につけたらどうだ」とか。
- 古賀
- 「こっちに動かせばいいじゃないか」とか
言われちゃったりして。
- 糸井
- もしぼくが、
その企画会議のリーダーだったら、
「それが解決するまでは
発売しなくていいんじゃないか」とか
「いっそクリップを取っちゃえ」とか
言うかもしれない。
- ーー
- キャップレス万年筆の開発では、
いろんな試行錯誤があって、
クリップの位置を変えたものも、
出したことがあるようです。
ただ最終的に、クリップがど真ん中にくる
この形が生き残ったようです。
- 糸井
- やっぱり、あったんですね。
でも、この異様さって、
言われなければ、気づかないかもね。
- 古賀
- ぼくはなんとなく、
子どもの箸の持ち方を矯正する
躾箸(しつけばし)みたいな感じだなと
思っていました。
このクリップがあることによって、むしろ
きれいな持ち方ができている気もします。
- 糸井
- ああ、そうかもね。
- ーー
- キャップレス万年筆の軸の、指を置く部分に
ちょっとしたくぼみがあるんですが、
おふたりにはちょうど、
それがフィットしているのかもしれません。
- 糸井
- あー、ほんとだ。
くぼんでる。
古賀さんは、これを、
どのくらい使ってるんですか。
- 古賀
- ぼくは、糸井さんが読んでくださった
ブログに書いたときからなので、
昨年の8月からですね。
- 糸井
- そうか。じゃあ
何十年も使ってるわけではないんだ。
- 古賀
- 半年ぐらいなんです。
- 糸井
- 気に入っちゃったんですね、急に。
- 古賀
- はい。ぼくもやっぱり、
さっきの糸井さんのお話のように
大人のシンボルとしての、憧れはありました。
たとえば、ちょっとしたお礼状を書くときとか、
大人は万年筆で書くイメージが
あるじゃないですか。
- 糸井
- うん。
- 古賀
- 自分もそうしなきゃと思って、
それこそモンブランとか、パーカーとかを
取材のときに持ち歩いていた時期があるんですよ。
ただ‥‥ぼくは書きながら
ペンをくるくる回す癖があるので(笑)。
- 糸井
- ああ、ペン回し。
- 古賀
- 万年筆でそれをやってしまうと
インクが飛び散るんですよ。
- 糸井
- たいへんだ(笑)。
- 古賀
- 「ああ、やっぱりぼくは
ボールペンで生きていくしかないのか」って
思っていた時期があったんですけど、
このキャップレスを知って、使ってみたら‥‥。
- 糸井
- 大丈夫だった?
- 古賀
- 大丈夫でした。
書き味もすごくよかったし、
重さもいいんですよね、これ。
- 糸井
- 重さ、いいですね。
- 古賀
- これよりも、ちょっと軽いタイプの
キャップレス万年筆も
出ているみたいですけどね。
- 糸井
- このタイプのが、いいですよね。
ちょっと、機械式時計に似た
味わいがあるんですよね。
この重さはいいなぁ。
- 古賀
- わかります。
- 糸井
- 話していて思い出したんだけど、
ぼくが最初にいたコピーライターの養成所で
いくつか公募の賞に出していたとき、
はじめて賞をもらったのが
パイロットのキャッチコピーだったんですよ。
- 古賀
- あ、そうなんですか。
- 糸井
- パイロット社の、テレビCMの絵コンテでした。
そのメインとしてつけたのが
「人間だけの書くという行為」という
小生意気なキャッチフレーズで(笑)。
- 古賀
- ああ。
- 糸井
- 昔の仮名文字とかを入れながら、
人間がいろんなことを書いてきたということを
テレビのコマで表現していって。
いまでも憶えてるのは、
ぼくはバカボンのパパの絵が得意だったんで、
バカボンのパパを描いてるコマもあって。
それで最後に
「人間だけの書くという行為、パイロット万年筆」
っていうコピーが出るんだけど。
- 古賀
- へぇー。
- 糸井
- コピーのよしあしはさておき、
あのコピーを書いたときの気分は、
やっぱりいまも、変わらないんだよなあ。
書くことって、
人間だけがするものだと思う。
(つづきます)
2018-05-29-TUE