つまんないほうへ。
- 糸井
- あとは、なにか質問はある?
- ーー
- ちょうど糸井さんがほぼ日をはじめるときに、
一度「手書きをやめる宣言」をしたと
聞いたことがあります。
いまは手書きでもいろいろと
書くことがあると思うのですが、
そのあたりのことをお聞きしてもいいですか。
- 糸井
- ああ、それはね、
コピーライターをやっていたとき、
手書きで要求されることが多かったんですよ。
ディレクターに
「糸井さんの字で見たほうが、
何をしていいかわかるんだよ」
って言われたりね。
- 古賀
- ええ。
- 糸井
- わかるんだ、その人が言ってることも。
だから、
「ぼくの字が良すぎるから
騙されてるってことがあるんじゃないの」
って言ってたんだけど(笑)。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- そのころ、うちで働いていた子の中にもひとり
すごくいい字を書くのがいたんだよ。
軽妙で、雰囲気があるから
萬流コピー塾に応募してきたハガキでも、
つい彼のを選びたくなる。
- 古賀
- うーん、なるほど。
わかる気がします。
- 糸井
- その後、お弟子さんになってからも
その字でコピーを書いてくるから、
「あのさ、おまえのは
ぜんぶよく見えるんだけど‥‥。
文章としてダメなのに、
よく見えちゃうというのは、
コピーとしてはダメだよ。
おまえはもう手書き禁止!」って言ったの。
- 古賀
- ああー。
- 糸井
- 彼は「ええー!」って言ってたけど(笑)。
でも、そのとき彼に手書きを禁じた決意を、
ぼくも、ほぼ日をはじめたときに
これからの時代を生きるにあたって、
自分に課したんです。
- 古賀
- それはすごい。
- 糸井
- 「おいしい生活。」だって、
タイピングすると、違って見えるんだよね。
逆にいうと、
自分の文章をつまんなく見せるには、
タイピングのほうがいい。
お飾りの部分を減らして、
そのぶん「速度」を得ようと思って、
タイピングに変えたんです。
手書きを一回、捨てることにしたんです。
- 古賀
- そうだったんですね。
- 糸井
- そうやって文章の飾りを取っ払って書いたら、
文章は、ちゃーんと、つまらなくなりました。
手書きのときの「ニヤリ」ってところが
どんどん減っていった。
- 古賀
- 「ニヤリ」成分が。
- 糸井
- 手書きのときの文章を読むと、
やっぱり違うんですよ。
原稿料をもらっていた時代に
手で書いていた文章のほうが、
苦労はしてるんだけど、
その苦労のぶん、やっぱり、
ちょっとたのしそうなんですよね。
- 古賀
- うーん。
- 糸井
- それが‥‥つまんなくなったねぇ。
わざと、つまんなくしたんだけどね。
- ーー
- 見え方として、
「つまんなく」したと思うんですけど、
それは実際、ことばの表現そのものにも
影響したんですか。
- 糸井
- うん。
表現そのものが「ただ言おう」ってなった。
- 古賀
- ああ。
- 糸井
- だから、タイピングで
つまんなくないことを一所懸命書いてる
ぼくのいまの友人たち、ヘンだと思うね。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- 古賀さんはいま、両方やってますよね。
特に、書くネタがないときの文章のほうが、
手書きに近いですね。
- 古賀
- ああ、そうかもしれないです。
- 糸井
- 「ほんとに書くネタがないので
犬がかわいい、ってことを書きます」
というときは、
言いたいことなんて
「犬がかわいい」しかないんですよ。
- 古賀
- いや、ほんとうにそうなんですよ。
- 糸井
- 「書くことないんです。すいませーん」
っていう文体になってる(笑)。
ぼくもそうなんです。
そういうときのほうが、
自分の中に貯まってた「芸」を
混ぜて出していかないと、もたないんですよ。
だから、なんか、いいんですよね。
自分でも気づくでしょう?
- 古賀
- 気づきますね。
- 糸井
- 一番よくないのが、
人がなんて思うかなとか、なんて言うかなとか、
こんなクレームが来るかもな、ということを、
ものすごく考えて書いてる文章。
これは絶対おもしろくない。
- 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- 受け身だからだよね。
パンチが出てなくて、ガードだけしてる。
- 古賀
- うーん。そうですね。
- 糸井
- ガードはやだね。
普段はなるべく、ただ聞いていて
耳が気持ちいいと思うぐらいのことを
書いていたいんですよ。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- ばあちゃんと赤ん坊の
会話みたいな文章が理想だなぁ。
(つづきます)
2018-06-03-SUN