糸井 |
しばらく、あなたが
シルク・ドゥ・ソレイユの制作の現場から
離れていたと聞きました。
それは、『バナナ・シュピール』の
失敗が大きな原因だったのでしょうか?
|
ジル |
はい。
私は数ヵ月間、オフィスに来ませんでした。
|
|
糸井 |
あーー、そうですか。
|
ジル |
ずっと泣いてたんです。
|
糸井 |
(笑)
|
ジル |
冗談ですよ?
|
|
糸井 |
はい(笑)。
でも、きっと、重い経験だったんでしょう?
|
ジル |
そうですね。
はじめての失敗を経験したあと、
私はもう一度、自分を見直すことにしました。
いろんなものを見て、
もう一度、自分自身を見つめ直して、
そして、もう一度、戻ってきたいと思ったんです。
|
糸井 |
うん。
|
ジル |
大西洋の島にしばらく行って、
「禅」のような気持ちでリラックスして、
たくさん歩いて、そのあと、
3週間、インドに行きました。
そして、イタリアに1週間行きました。
それは、すばらしい旅でした。
私は、もう一度、ジル・サンクロワとして、
生き返らなければならなかった。
そして、いま、
ちょうど戻ってきたところなんです。
|
糸井 |
そうでしたか。
じゃあ、いま、最高のときですね。
|
|
ジル |
はい(笑)。
この旅で、私はたくさんの刺激を受けました。
受け入れる準備ができているときは、
ありとあらゆるものが
自分の中に入ってくるんです。
目からも、耳からも、口からも、
ぜんぶ、もうぜんぶ入ってくる。
知らないことに対する好奇心が働き、
頭の中がフル回転する。
それは、すばらしい経験でした。
糸井さんは、インド行ったことありますか?
|
糸井 |
少し、あります。
でも、仕事で行っただけで、
滞在期間も短かったですから、
あなたが感じたような経験は
できていないと思います。
|
ジル |
ああ、そうですか。
今回の私の旅は仕事ではありませんでした。
違いますね、そうすると。
|
糸井 |
うん。そう思います。
|
ジル |
気持ちが開いていて、
時間がゆったりしていて、
まったく違います、そういうときは。
|
糸井 |
仕事を理由に動くと、
自分の機能を役立てなければならないので、
なんというか、自分が、
より機械的になっていくんです。
|
|
ジル |
生産しなきゃいけない、というふうに。
|
糸井 |
そう、そうなんです。
だから、今日、ここにこうやって、
「とくに用事はないんです」って来られたのは、
ぼくにとって幸せなことだと思う。
|
ジル |
これ(あたりの空間全体を示しながら)は、
友だちです。
|
|
糸井 |
うん、そうです、そうです。
|
|
ジル |
(笑)
|
|
糸井 |
(笑)
|
ジル |
じつは、今日、私は、
メキシコに出発する予定だったんです。
|
糸井 |
ああ、そうだったんですか。
|
ジル |
ええ。
しばらくメキシコで過ごそうと思ってた。
でも、糸井さんがいらっしゃるというので、
今日、出発するのはやめました。
糸井さんに会いたかったんです。
|
糸井 |
うれしいなぁ。
うれしいなぁ。
|
|
ジル |
糸井さんが、ここまで、
モントリオールまで来てくださるというので。
しかもそれはシルク・ドゥ・ソレイユの
取材のためではなくて、
私のために来てくれた。
|
糸井 |
はい。
|
ジル |
私は、その、感動しました(笑)。
|
|
糸井 |
会いたかっただけなんです(笑)。
そして、やっぱり、いま、
大事な友だちと話したときと同じように、
とくになにか用事があったわけでもないのに、
たくさんのものをもらった気がしています。
|
ジル |
こちらこそ。
|
糸井 |
どうもありがとう。
|
ジル |
いえいえ(笑)。 |
|
|
(つづきます) |