糸井 |
ぼくとジルが話しているようなことを
若いうちに知ってたら、
人生がもっとおもしろかったかなぁ。
ぼくは、歳をとるまで、わからなかったから。
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ジル |
でもね、若いときは、
やらなきゃいけないことがあります。
たとえば、若いころは、
なにかを証明しなきゃいけない。
なにかを生産しなきゃいけない。
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糸井 |
あー、そうだよねぇ。
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ジル |
遊ぶとしても、若いころの遊びは、
がんばって遊ばなきゃいけないから。
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糸井 |
そうだね。
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ジル |
あるいは、「親のために」とか、
「社会のために」とか、
なにかに縛られてしまうんです。
もっともっと小さいころ、
子どものころは、なんの心配もなかったのにね。
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糸井 |
うん。
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ジル |
学校に入ると、変わってしまうんです。
これは、いつも私が言っていることなんですが、
6歳まで、自分は自分自身のものです。
それは、もっとも美しい時代です。
でも、学校に行きはじめると、
自分を社会に取られちゃうんです。
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糸井 |
ああ、なるほど、そうだねぇ。
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ジル |
そこからしばらく、
自分のものではなくなる。
「プロデューサーになる」とか、
「パフォーマーになる」とか。
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糸井 |
役割になっちゃうんですね。
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ジル |
そのとおりです。
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糸井 |
ほんとは、なんでもできるのにね。
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ジル |
はい。
1960年代のころを、憶えてますか?
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糸井 |
はい。
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ジル |
役割ではなく、自由に遊べた、短い時期でした。
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糸井 |
うん(笑)。
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ジル |
それは歴史の中で短い時期でした。
重要ですけど。
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糸井 |
うん。
ぜんぶが重要でしたね。
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ジル |
そのとおりです、そのとおりです。
最高の音楽が生まれました。
1960年代の音楽が最高の音楽です。
それは現代でも続いてます。
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糸井 |
いまでも、みんなが歌ってますよね。
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ジル |
クラシックみたいなもんです。
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糸井 |
そうですね。
ぼくは今回、ボストンからカナダに入ったんだけど、
トロントの空港の建物に入った瞬間に、
キャロル・キングが流れてきたんですよ。
いまはいったい何年ですか(笑)。
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ジル |
キャロル・キングは、
最近、ライブをやりましたね。
あの人と、ええと‥‥
ボストン出身の人で、フォークシンガーで‥‥。
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糸井 |
ああー、ライブ盤が出てましたね。
ええと‥‥あれは‥‥。
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ジル |
キャロル・キングと何年もいっしょにいた人です。
ほら、いまはもう、髪の毛のない人で‥‥。
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糸井 |
あ、わかった!
ジェームス・テイラー。
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ジル |
ジェームス・テイラー、
ジェームス・テイラー。
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糸井 |
いまでも、歌ってます。
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ジル |
うん。現役で歌ってる人は多いですね。
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糸井 |
そうですね。
いなくなっちゃった人も多いけど。
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ジル |
ああ、そうですね。亡くなったり。
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糸井 |
自分を見失っちゃったりね。
ジェームス・テイラーも、
ずいぶん、不安定だったそうです。
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ジル |
ああ、そうですね、
自由に生きるというのは、
ある種、危険なことでもあるから。
とくに、一度成功を経験した人は。
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糸井 |
自由だったはずのものが、
役割をたくさん負わされてしまうと、
大きくバランスを崩してしまったり。
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ジル |
そうですね。
まず、その人の「根っこ」がなくなるんです。
そして、自分をなにに合わせたらいいか、
わからなくなってしまう。
別人のようになってしまう。
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糸井 |
そうですねぇ。
ジルさんが、いまにいたるまで、
そうならなかった理由はなんですか?
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ジル |
私は‥‥あまり人気がなかったからでしょう。
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糸井 |
ははははは。
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ジル |
それから、私が私でいられたのは、
若いときに子どもをもっていたことです。
25歳のとき、4人の子どもがいた。
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糸井 |
あーー、なるほど。
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ジル |
写真をお見せしましょう。
ほら、これが私の子どもたちです。
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糸井 |
ええと、あ、この人がジルさんの子どもで‥‥。
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ジル |
はい、4人の子どもと、
この子どもたちは、孫たちです。
女の子と、それから男の子が3人。
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糸井 |
うらやましい。
お孫さんたちの中に、
将来のクラウンはいますか?
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ジル |
あ、それなら、彼です。
2番目の男の子。
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糸井 |
素質がある?
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ジル |
はい。
クラウンになれると思います。
いつもなにか、笑わせようとしたり、
ユーモアいっぱいのことをやるんですよ。
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糸井 |
顔にその感じが出てますね。
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ジル |
そうでしょう? 目がそうなんです。
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糸井 |
いいですねぇ。
やっぱり、一家にひとり、
クラウンがいてほしいですよね。
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ジル |
はい、必要です。
糸井さんは、子どもはいますか?
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糸井 |
娘がひとりいます。
これは、クラウンです(笑)。
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ジル |
クラウンですか(笑)。
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糸井 |
ナチュラルなクラウンですね。
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ジル |
いいですね。
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糸井 |
うん。
彼女があのまま、お婆さんになれたら、
すばらしい人生だと思う。
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ジル |
ああ、いいですね!
歳をとると、どんどん自由になりますからね。
真面目な自分は脇に追いやってしまって、
本来の自分、6歳までの自分に戻っていくんです。
そうすれば、非常に美しい、
歳をとったクラウンになれます。
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(つづきます) |