ジル |
いや、おもしろいです。
やはり、いま私たちがしているのは、
友だちどうしの議論です。
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糸井 |
そうですね。
前に来たときは、シルク・ドゥ・ソレイユが
どういう組織なのかとか、
どういう事業に取り組んでいるのかとか、
そういうことにすごく興味があって
取材させてもらったんですけど、
今日は、なんていうか、そういう、
調べればわかるような話じゃなくて、
「見えない話」がしたかったんです。
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ジル |
はい、はい、はい。
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糸井 |
歳をとるにしたがって、ぼくの興味は、
どんどん「見えないこと」のほうに
向かっているような気がします。
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ジル |
わたしもまさにあなたと同じ場所にいます。
私たちの年齢がそうさせているんだと思います。
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糸井 |
ああ、そうかもしれません。
とくに、いまって、
いろんなものがどんどん現れるんだけど、
こころから選びたいようなものは
ぜんぜんない、っていう時代ですから、
なおさら、目に見えない部分や、
土の下の根っこの部分を育てることが
大切に思えるんですよね。
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ジル |
そう思います。
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糸井 |
今回、ぼくがボストンとモントリオールに来たのも、
はっきりした目的はほんとにないんです。
ただ、行くべきだって思える何かがあったんです。
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ジル |
すばらしい。
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糸井 |
ぼくにとっての重要な場所がここだったんです。
そういえば、あのね、ここへ来るために、
タクシーを拾ったんですけど、
「シルク・ドゥ・ソレイユの本社に」って言って
場所を説明しようとしたら、その運転手が、
「場所は知ってるよ、だって、
そこ、オレんちの隣だから」って言ったんです。
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ジル |
ほんとですか(笑)。
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糸井 |
すごいでしょ(笑)。
ここのすぐそばに住んでる人だったんです。
だから、「あなたの隣人を愛してね」って
言ったんだけど、うまく通じなかったみたい。
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ジル |
ははははは。
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糸井 |
そういうことひとつとってみてもね、
やっぱり、見えないうれしさなんですよね。
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ジル |
はい、はい。
私たちがいま語っていることは、
「小さいこと」なんです。
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糸井 |
うん、そうですね。
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ジル |
「小さいこと」なんです。
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糸井 |
うん。
そして、「小さいこと」とか、
「弱い力」のほうが、「強い」。
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ジル |
はい、はい、はい。
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糸井 |
だって、ほら、ジルさんとぼくだって、
毎日毎日、友情を確認してるような
関係じゃないですからね。
ほそーい、ながーい糸で、つながってる。
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ジル |
はい、その通りです。
でも、それは「強い」ですよね。
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糸井 |
そうなんです。
ぼくらはいっしょに戦争に行ってるわけじゃないけど。
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ジル |
いや、戦場は必要ないです。
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糸井 |
うん。
こういうふうにいられたら、いいですよねぇ。
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ジル |
たぶん、前世で我々は知り合いだった。
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糸井 |
それ、あるかもね(笑)。
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ジル |
で、この世に来て、いま
「ああー、気づいたぞ!」
「いた! いた!」って(笑)。
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糸井 |
ははははは。
ぼくがフランス語を話してたかもしれないし、
逆だったかもしれないし。
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ジル |
ふたりともクロマニョン人だったかもしれない。
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糸井 |
そうそう(笑)。
ふたりで竹馬のことを考えてたかもしれない。
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ジル |
竹馬でもっと遠くまで行こう、
とか言ってたかもしれないですね。
ははははは。
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糸井 |
だってね、ぼくは、すごく不思議なんですけど、
ジルさんの昔の竹馬の写真を見たときに、
ほんとになんかすごい景色を見たときみたいに、
ほんとに、涙が出たんですよ。
それって、もう、
意味を探るようなものじゃないんですよ。
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ジル |
ああ、あの写真ですね。
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糸井 |
そう、あの写真。
説明できるようなものじゃないんです。
景色と同じような、そういうもの。
だから、それも、「見えないちから」ですよね。
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ジル |
はい。
(つづきます) |