東京カリ〜番長・水野仁輔さんが選ぶ カレーの思い出。
#その8

こんにちは。
毎日カレーを食べていると、意外な悩みが生まれます。
カレーの匂いってどうして取れないんでしょうか?
かれこれ10年ほど前、ある冬の日に電車に乗っていると、
近くにいた女子大生2人の声が聞こえました。
「この電車、なんかカレー臭くない?」
「あ、ほんとだ。なんで~?」
僕も周囲をクンクンしてみましたが、
特にカレーの匂いはしません。
電車は目的の駅につき、僕はホームへ降りました。
電車が走り去った直後、巻き起こった風に煽られて、
ふわっとカレーの匂いが漂ったのです。
あれ!? いま、カレーの匂いがしたぞ!
電車の中がカレーの匂いなら、
ホームの上もカレーの匂い。
そのとき、僕は気づきました。
自分自身がカレーの匂いを身にまとっていたことを‥‥。
女子大生の顔を思い浮かべて顔が真っ赤になりました。
なんとかならないもんだろうか、
あの忌まわしいカレーの匂い。
でも、嫌なことばかりではありません。
先日、札幌で行った料理教室の生徒さんから
メールが届きました。
「料理教室で使ったエプロンに
 カレーのいい匂いが残っていて、
 まだ洗えずにそのまま取っておいてます」
とっても素敵な感想で嬉しくなりました。
僕がなんとかぬぐい去りたいと思っているカレーの匂いを
もったいなくて消さずに取っている人もいる。
不思議なものですね。
カレーの匂いとの付き合い方、見直してみたいと思います。


036
Andi/女性/48才

ほぼにちは。
カレーの思い出、個人的な思い出ではないのですが。
昔々(多分30年くらい前)読んだ
主婦向けの雑誌の調査で、
「あなたはカレーを家で手作りしますか」という質問に、
60代の人(年齢はうろ覚え)は割合が高く、
50代・40代の人は低く、
30代の人は高い、のような谷型の結果が出たそうです。
詳しく聞いてみると、市販のルーを使って作ることを
「手作り」と思うかどうか、
年代による意識の違いからこういう結果になったらしい。
年配の人にとっては、ルーは「出来合い」だったのですね。
確かに、40年近く前の小学校の調理実習では、
カレー粉と小麦粉を炒めて作りました。
苦くてまずかったような気がします。
皆のカレーの思い出を聞くのを楽しみにしています。
きっとカレーが食べたくなるでしょう。
今も、レトルトカレーを食べるかどうか迷っています。
では。

そうかぁ、カレー粉で作るカレーは手作り。
カレールウで作るカレーは手作りではない、と。
即席カレールウで作ったカレーが手作りではない、
という認識はすごく時代を感じますね。
ま、カレールウは作る人の手間を省くことを目的に
開発されたものですから、当然と言えば当然か。
ただ、手間を省こうとした結果、味も進化したんです。
だから、カレー粉と小麦粉を炒めて作ったカレーは、
「苦くてまずかった」けれど、
いま、カレールウで手抜きして作るカレーは、おいしい。
不思議なもんですね。
そのうち、レトルトカレーを温めただけでも
「このカレーは手作りである」
と認識される日がくるのかも。

037
~しろのかあちゃん~/女性/もうすぐ50歳

今は大学2年生の長男が中学生のときの話です。
入学して、卓球部に入りました。
顧問の先生も熱心で、息子もそこそこ強いほうで、
母子で入れ込んでおりました。
私たちは北陸福井に住んでいるのですが、
東京で「トップ12」なる卓球の大会があるというので、
夜行バスで見に行きました。
愛ちゃんの人気は相変わらずだけどテレビカメラは
かすみちゃんを追いかけ始めてるようなころです。
息子と初めての二人で東京です。
がんばっておいしいものを食べようと
ネットで検索しまくりました。
で、なんでだか、そこで調べたのが、カレー‥‥
体育館から帰り道になる、渋谷のお店をさがし、
たしか、ドライカレーのお店だったと思います。
長男初めての東京で渋谷の人ごみの中を
二人でカレーを食べにいきました。
二人でポソポソと食べ終わり、
「ふつうやった」という息子の言葉にも
「まあ 二人で来れたからわたしは幸せ」
と思っておりました。
ほんとに、なんでカレーだったんでしょうね。
田舎じゃ食べられない本場のカレー!
とか思って探したんだっけかな。
これにはすごいおまけがついていて、
人ごみに疲れながらも渋谷駅まで帰ってきたら、
さっきまで見ていた卓球の大会に出ていた
吉田選手がなんと渋谷の駅の外でちょこん、と
同僚の方と座っていたのです。フツーに。
さすがに人の目が気になって、
サインはお願いできませんでしたが、
母はアップアップになりながらも
握手をしてもらいました。
肝心の息子は恥ずかしさでひいてしまっていましたが。

ほんと、なんでカレーだったんでしょうね。
渋谷で有名なドライカレーの店といえば、
おそらく、坂道の途中にあるあの店なんでしょうなぁ。
息子は「ふつう」で、母は「幸せ」。
このギャップにはグッとくるものがあります。
そして憧れの選手との遭遇。
たぶん、これ、順序が逆だったら息子さんも
カレーはもっとおいしく感じたんじゃないかなぁ。
カレーの後の吉田選手じゃなくて、
吉田選手の後のカレー。
もっと思い出に残るカレーになったかもしれません。
ただカレーを食べた後だったからこそ
タイミング的に遭遇できたわけで。
そう考えると渋谷でカレーを食べてよかったですね!


038
なごなご/女性/28才

思い出というか、カレー作りでひとつだけ
強烈に覚えていることがあります。
うちのカレーは鶏肉なんですが、鍋にサラダ油を熱して
鶏肉を入れた瞬間、何故か鍋からボッと炎が。
当時、中学生でパニックになった自分は
慌てて水を大量に鍋に投入。
炎は消えて事なきを得ましたが、
母にはそういう時には
蓋をすればいいのだと後から教わりました。
しばらくの間、カレーを作るときに
鶏肉を鍋に入れる瞬間が
怖かったのは言うまでもありません。

きっと鶏肉の脂肪分や皮などに火が移り、
炎が立ち上がったんでしょう。
「火に油を注ぐ」という表現がありますが、
「炎に水を注ぐ」をやってしまったわけですね。
確かにお母さんの言うとおり、ふたをするのがオススメ。
相性の悪いものどうしを「水と油の関係」なんて言うように
水を注ぐというのは結構危険な行為です。
何かを油で炒めているときに水が入ると、
そのことがキッカケで炎が上がる可能性もあるんです。
これがコニャックなどなら意図的なフランベになりますが。
ふたがすぐに見当たらないときには困ります。
焦る。いますぐ、なんとかしなければ‥‥。
ときどき僕は強い息を吹きかけて消すことがあります。
バースデーケーキのろうそくの火を消すときのように。
でも、よい子は真似しないでください。


039
オッケルイペ/女性/38歳

うちの姉は料理上手です。
なにを作ってもおいしいですし、オムライスなどは
外で食べるよりおいしいので注文しなくなったほどです。
その姉が唯一大失敗したのがカレーです。
数年前のある日、姉がカレーを作りながらふと冷蔵庫の
ヨーグルトドリンクを手に取りました。
牛乳を入れようと冷蔵庫を開けたら目に入ったそうです。
たまには趣向を凝らそうと、
姉はそのヨーグルトドリンクを
カレーに入れてみることにしました。
しかし、そのヨーグルトドリンクには
桃の味がついていました。
姉は一瞬躊躇しましたが「本場インドでは
フルーツから作ったチャツネとか入れるから大丈夫」
と言って入れはじめました。
しかも200mlほど入っているものを
まるまる投入してしまいました。
しばらく煮込んで味見してみると‥‥「なんか桃くさい」。
人工の香料でつけた桃の香りは、
スパイスのオーケストラであるはずのカレーの香りを
はるかに凌駕していました。
それからなにをどうやっても桃がなくならず、
結局桃くさいカレーを数日かけて平らげました。
姉は「一生の不覚だ」といたく落胆しており、
いまでもカレーを見ると「桃はダメだ、桃は‥‥」
とつぶやいています。
私も一生かけて笑ってやろうと思っています。

かわいそうに、お姉さん、軽いトラウマなんですね。
カレーを見て、「桃はダメだ、桃は‥‥」だなんて。
逆に桃を見て、「カレーはダメだ、カレーは‥‥」
とはならないんでしょっか。
何も知らない人が見たら、完全に変な人ですね。
料理をしていると「ま、いっか」とか
「ま、なんとかなるか」みたいな考えが
頭をよぎる瞬間ってあるんですよね。
僕はいつもそういうときに自分に言い聞かせてます。
「大丈夫、大丈夫、と思ってしまったら
 失敗がまってるぞ」と。
思い切る勇気が大事なんじゃなくて、
踏みとどまる勇気が大事なんですよね、こういう場合は。
そのバランスのとり方が
“塩梅”ってやつなのかもしれません。
ここで一句。
「だいじょうぶ、そのひとことが、いのちとり」。
交通安全のスローガンみたいだな。

040
tab/男性/43歳

小学生の頃、あまりにもカレーが好き過ぎて
母親に「何が食べたい?」と聞かれる度に
「カレー」と答えていました。
ある日、毎回「カレー」と答える息子に怒りを覚えたのか
「そんなにカレーカレー言うなら、毎日作ってやる」
と言い放ちました。
その日から家族の中では私だけ
朝晩カレー(昼は給食)の日が続きました。
しかし1週間後の朝、カレーが出されませんでした。
なぜかと聞くと
「作る時にカレーを見るのがイヤになった」という理由。
私は全然平気だったのですが、
このバカな勝負に母親が根負けしたようです。
今もカレーが大好きなのですが、先日、胃潰瘍で入院。
退院後、1ヶ月は刺激物を禁止されましたので、
現在辛い毎日を送っています。

お母さんとの対決、圧勝じゃないですか!
家族の中で自分だけがみんなと別のものをを食べる
というのは、どんな気分なんでしょうか。
カレーが好きだったら好きなものが毎食出てくるわけだから
気にならないのかもしれませんね。
でも、お母さんにとっては、悔しいでしょうね。
自分が仕掛けた喧嘩で自ら敗北してるわけですから。
同情するなぁ。
作るときにカレーを見るのがイヤになっただなんて。
僕がカレーを見るのがイヤになってしまったら、
カリ~番長は引退ですね。
気を付けないと‥‥。

いろんな思い出をありがとうございました。
では、また次回。
みなさんの“カレーの思い出”をお待ちしています!

2013-05-24-FRI
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