東京カリ〜番長・水野仁輔さんが選ぶ カレーの思い出。
#その10

こんにちは。
最近、落語にハマってます。
詳しくありませんが、色んな落語家の噺を本で読んだり、
CDやDVDを買って見たり聞いたり‥‥。
いま一番好きなのは、故・古今亭志ん生さん。
「えー、‥‥」で始まるマクラを聞き始めただけで
なぜかニヤニヤしてしまいます。
故・桂文楽さんと並んで江戸落語では、
“昭和の二大名人”と呼ばれていたそうですね。
でもスタイルは全く別だったそうです。
完璧主義だった文楽さんは、晩年、ある落語で
登場人物の名前を忘れて絶句してしまったときに
「勉強をしなおしてまいります」と挨拶して
高座を降り、二度と落語はしなかった。
志ん生さんは、同じようにある噺の途中で
侍の名前を忘れて絶句した後に
「ま、どうでもいい名前のお侍さん」と言って
大爆笑を取ったそうです。
このエピソードを聞いて、カレーの世界にも、
“文楽派”と“志ん生派”がいるなぁと思いました。
理想の味、完璧な味のカレーを目指すために、
玉ねぎを炒めていて焦がしてしまったら、
全部を捨ててやり直す、という人は“文楽派”。
焦げたら焦げたなりにその後リカバーして、
予定していたのとは別のおいしいカレーの味を目指す、
という人は“志ん生派”。
よく料理教室や講演会で、「玉ねぎは焦がしてもいい、
くらいの気持ちで炒めてください」と話す僕は、
完全に“志ん生派”のカレー作りをモットーにしてます。
どちらの流派も突き詰めていくのは至難の業です。


046
チャッキー/女性/17才

我が家のカレーは野菜ごろごろタイプ。
人参もジャガイモもおっきいのが入っています。
小さい頃は辛さは甘口でしたが
私はそれでも辛かった。
からいよ~とヒーヒー言いながら食べる私に、母は
「ジャガイモをつぶしなさい」
と教えてくれました。
私は大きいジャガイモを
スプーンの背で頑張ってつぶして食べたものです。
ところが成長して、周りの人に話すと
ジャガイモをつぶすという教えを受けた人は
誰もおらず・・・
「ジャガイモをつぶす」を当然だと思ってた私は
結構なショックを受けました。
結局、信憑性がない教えだったのですが
今も無意識にジャガイモをつぶしていることが
しばしば・・・

ジャガイモをつぶしても辛いものは辛いですよね。
ジャガイモをつぶすと辛いカレーが辛くなくなる、
という話は、僕も聞いたことがありません。
が、つぶれたじゃがいもがソースと混ざり合って
とろとろっとした舌触りが生まれるから、
なんとなく、辛味をやわらげてくれる気がします。
どうなんだろう?
でんぷん質が強まると辛味が弱まるとか、あるのかな?
どうなんだろう?
いずれにしてもじゃがいもがつぶれて
とろとろになったカレー、僕は好きです。
つぶすといえば、思い出すのが、イチゴをつぶすスプーン。
昔、ありましたよね? 今もあるのかな?
スプーンのすくう面がおろし金みたいにざらざらしてる。
ミルクに砂糖とイチゴを加えて、あのスプーンで
ほどよくイチゴをつぶしながら食べるんです。
おいしかったなぁ。
あのスプーンでカレーを食べたら、
じゃがいもをつぶしやすくていいかもしれません。
今度、やってみよ。

047
そしてお腹をこわした/女性/34歳

私が小さかった頃、父(現在74歳)が
若い頃食べていた小麦粉でルーを作るカレーを
母が留守の時に作ってくれました。
父が料理を作ることが珍しかったし、
固形のルーではなく、
粉からカレーを作るなんてコックさんみたい!
と姉とワクワクして待っていました。
そして、出来上がったカレーは、
小麦粉の味が消えていない、
ネットリとしたルーのカレーで正直激不味。。。
小麦粉の分量が多い上に、
炒め方が不十分だったのでしょう。
それが鍋に溢れんばかりにあるのです。
父は昔の話をしながら楽しそうに食べていたので
「おいしくない」ともいえず、なんとか一皿食べました。
翌朝、一晩寝かせたカレーには誰も手を出さず、
製造物責任の下に父が食べ続ける羽目に。

カレー粉を使ってカレーを作るのは、
実は、意外と難しいんです。上手に作らないと、
カレールウと違って味気なくなってしまう。
確かに炒め方が足りないと小麦粉の粉っぽさも
残ってしまいます。
だからその分、うまく作れたらプロっぽくて
格好いいですよね。
責任とって翌朝、ひとりでカレーを食べる
お父さんの姿は切ないですね。
でも、お父さんが昔の話をしながら嬉しそうに
カレーを食べる夕食っていうのは、いいなぁ。


048
chichichi!!!/女性/29歳

亡くなった父が大好きだった食べ物、カレー。
土曜のカレー率は高かったナ。
自分のだけ生卵やコロッケを入れたり
自分だけ楽しんでいました。
私が高校生の頃、父が病気で自宅療養している時期があり、
ま、療養って言っても、本人はヒマーなくらい元気(笑)。
母が遅くまで働いてきて、私も部活で遅い。
何かしようとヒマな父が作ったのは、やはりカレー。
しかも、分量なんて読まないから、
鍋に入り切らないほどの野菜。
しかも、残っている野菜がザルいっぱい(笑)。
疲れて帰ってきた母は父を攻めてたが、
父は『野菜がたくさん入っているカレーが
食べたかった!!』と逆ギレ(笑)。
後日肉じゃがやら、別の形で食卓に。
その後療養生活で料理の腕はグングン上達して
もちろん分量間違えずいろいろ作ってくれたけれど、
我が家の父伝説(武勇伝?)のひとつで、
今でもカレーの時に話題になります(笑)。

普段、料理をしない人にとって、
量の見当をつけるのは、
意外と難しいんでしょうね。
鍋を見て、手元にある野菜をみたら、だいたい
どのくらいが入るかな、と想像がつきそうなものだけど。
お父さん、意地を見せて、ふたつめの鍋を取り出して、
残った野菜も全部カレーにしてしまえばよかったのに。
そうしたら、翌日も家族で
おいしいカレーを楽しめましたね。


049
みー/女性/45歳

「賑やかなお子さまや、香りの強い方はお断り」で、
店の壁ではモノクロ映画が無声で流れている
そんな田舎には珍しい洒落たレストラン。
パスタや他のお料理もおいしいのですが
駐車場にまで漂うカレーの香りに
毎回カレーを頼まずにはいられませんでした。
ここはカレーのコース料理が目玉で
大きなサラダやデザート、飲み物もそれぞれ選べ、
カレーもタンドリーチキン・ビーフ・シーフードから
選べる本格派。他では食べられないお味でしたが、
誕生日や何か記念日に取っておきたい素敵なお店でした。
店主の高齢化で来月一杯で店を閉じると聞き、
慌ててそこからは毎週のように通いました。
なかなか頼めなかったカレー以外の料理をあれこれ味わい
閉店前最後に行ける日に一番好きだった
タンドリーチキンのカレーコースを‥‥と思っていたら
予約前々日に東日本大震災。
結局それきりお店は開かないままでした。
今でも無性に食べたくなるあの味。
いつかまたどこかで出逢えるといいな~。

お店が復活するといいですね。
僕の中でも復活してほしいカレー店は、
10軒や20軒はあります。
好きでよく行っていたお店がなくなったり、
閉店したり、というのはとても寂しいものです。
僕の場合、最も寂しいと思う瞬間は、
その店があった場所をたまたま通りかかって、
全く別のお店が普通に営業をしているのを
目の当たりにしたときです。
そこにあのカレー店があったという過去が
完全に消し去られているように感じてしまう。
そう考えると人の記憶ってとっても大事ですね。

050
ぱおぱお/女性/48歳

わたしの、カレーの思い出です。
40年ちかく前のことですが、いまだに卒業式の光景
とカレーの味がリンクしてよみがえります。
小学校時代のお友達のよし子ちゃんのお母さんは、
とても明るくて素敵な人で、ときどきみんなで
よし子ちゃんの家にお泊まりに行って遊んでいました。
よしこちゃんのお母さんがつくるカレーは
優しい甘さのひき肉のカレーでした。
お肉があまり好きではなかった私には、
そのひき肉カレーがとても美味しくて、
うちのカレーもひき肉なら良いのに、
といつも思っていました。
小学校6年生のあるとき、
とつぜんよし子ちゃんのおかあさんは
いなくなってしまいました。
理由はわかりません。
母は知っていたようですが、教えてくれませんでした。
小学校の卒業式のお見送りのときに、
よし子ちゃんは私と私の母のそばにぴったりくっついて、
笑顔で歩いて校門から出て行きました。
その後別々の中学校に進学したよし子ちゃんには、
とても自慢の新しいお母さんが来た、と聞きました。
元気にしているかな、よし子ちゃん。
いまだにカレーというと、よし子ちゃんを思い出します。

カレーの味と誰か特定の人が強く結びついて記憶に
残ることってありますよね。
すごくうらやましい体験です。
そういうときって、たいてい限定的な景色や
シチュエーションが鮮明に思い起こされるものです。
僕は、小学校の頃、たらこが大好きでした。
でも、自宅では、夕食にたらこが出てくるときに、
1本を家族5人で分けて食べるのが決まりでした。
多分、たらこを買うお金がなかったわけではなく、
塩分の取りすぎを母親が気にしていたんだと思います。
ある日、いとこの家に兄弟3人で泊まりに行ったとき、
おばさんは、夕食にどっさりたらこを出してくれました。
僕たち兄弟は顔を見合わせて、でもいつもの決まりを
思い出して、ほんの少しを箸で切ってご飯に乗せました。
すると、おばさんが、「もっといっぱい食べなさいよ」
と言いながら、まるごと1本のたらこを僕たちの
ご飯茶碗の上にドン。夢のような夕食でした。
未だにたらこや明太子を食べるとき、
あのいとこの食卓を思い出します。
あ、カレーと関係ない思い出話になっちゃいましたね。

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いろんな思い出をありがとうございました。
では、また次回。
みなさんの“カレーの思い出”をお待ちしています!

2013-06-28-FRI
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