第5回 笑顔の力

──── いま、とても軽やかに、
「100回くらいっすよ」とおっしゃいましたが、
この1冊のために100回の潜水ですか?
鍵井 はい。
──── 東北の冷たい海へ100回ですよね。
鍵井 夏はあったかいっす(笑)。
──── そっか、夏はあったかい‥‥。
でも、それにしたって100回って。
はあああーー、すごい‥‥。
潜ってみたけど魚がいないとか、そういう空振りも?
鍵井 空振りはしょっちゅうです。
──── ですよね、100回ですもんね。
鍵井 空振りくらいで心は折れないです。
──── でもやっぱり冬は‥‥。
具体的に寒いっていうのは、つらいですよね。
鍵井 それは正直、つらかった(笑)。
──── 写真集にも正直に書いてありました。
2月の海に潜っているページです。
‥‥読みます。
「どうしてこんな思いをしてまで潜るのだろう‥‥」
鍵井 ほんっとにね(笑)、思いましたよ。
なんでこんな刺すように冷たい海へ潜るんだろ?
また冬は、魚がぜんぜんいないんっすよ!(笑)
──── (笑)
鍵井 でも‥‥
それでもやっぱり潜り続けたのは、
この記録をしっかり写真に収めないと、
という気持ちがあったからです。
それになんといっても、
協力してくれる人がたくさんいるんですよ。
写真はひとりでは撮れないんです。
──── ああ‥‥そうなんですよね、
この写真集の「あとがき」を読んで驚きました。
鍵井さんが潜るために、
あんなにたくさんの人が関わっているんですね。
鍵井 ええ。
いつもそうなんですけど、
「みなさんの支援のおかげで」という事実を、
この写真集ではとくに強く実感しました。
──── そうでしたか。
鍵井 あの‥‥
ダンゴウオの笑顔の写真がありましたよね。
──── はい。
ええと(写真集をめくり)‥‥これですね。
鍵井 そうそう。
これが撮れたときは、
海の中で抱き合ってよろこんだんですが、
そのあと船の上に上がって、
ぼく、珍しく船長さんにこれを見せたんですよ。
──── 船長さんに。
鍵井 船長さんは、
ダンゴウオになんか興味がないんですよ。
──── ああー、はい。
鍵井 漁協の人ですから。
「そんなちっちゃい魚をどうすんの?
 食える魚でもないのに」
最初はそんな感じだったんですね。
だから、見せたかったんです。
船にあがってすぐに見せました。
「ほら、見て見て!」って。
そしたら船長さん、
「おわーー、笑ってる!」って(笑)。
──── すばらしい!(拍手)
鍵井 船長さんが笑ってくれたんですよ。
あれは、うれしかったなぁ‥‥。
──── 笑顔の破壊力というのは‥‥
鍵井 すごいですよね。
──── これですからねぇ。
──── 鍵井さん、今度こそほんとに、
本日はどうもありがとうございました!
鍵井 こちらこそ、ありがとうございました。
 
インタビューが終わっても、なんだかぼくらは名残おしく、
またすこし水族館ぶらぶらと歩きました。

すると、偶然こんなものを発見しました。

▲ダンゴウオのガチャガチャです。

▲もちろん、やりました。

▲ふたりで1回ずつやりました。

▲なんと、鍵井さんにはこの写真と同じ赤いダンゴウオが!

▲山下には「天使の輪」をのせた稚魚が出ました! すごい偶然。

▲水族館の近所で、もうすこしだけおしゃべりをしました。
鍵井さん、ありがとうございました。
水族館でのダンゴウオさがし、たのしかったです。

‥‥このコンテンツが終わることも、
なんだか名残おしくなってしまいます。

最後の最後に、
鍵井さんのいちばん新しい写真集、
『夢色の海』から3点ほど、
作品をお見せしながらおわかれといたしましょう。
それは、やさしいトーンの写真が続く、
まるで夢の中にいるような、
これでもかと美しい写真集でした。
うっとりしながらページをめくり終え、
「あとがき」のところで‥‥あ‥‥と思いました。
「3.11以降、私は被災地の海に潜り続けている。
 (中略)
 震災の海に潜ったことで、
 海の怖さを知ると同時に、自然の持つ脆さも知った。
 そして、海をよりいとおしく思うと同時に、
 同じ夢の中でシャッターを切るのならば、
 もっと夢色のような世界を表現したいと
 思うようになっていた。」
    ─── 鍵井靖章(『夢色の海』あとがきより)
(おわります、ありがとうございました)
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2013-07-04-THU
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