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いま、とても軽やかに、
「100回くらいっすよ」とおっしゃいましたが、
この1冊のために100回の潜水ですか?
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鍵井 |
はい。
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東北の冷たい海へ100回ですよね。
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鍵井 |
夏はあったかいっす(笑)。
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そっか、夏はあったかい‥‥。
でも、それにしたって100回って。
はあああーー、すごい‥‥。
潜ってみたけど魚がいないとか、そういう空振りも?
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鍵井 |
空振りはしょっちゅうです。
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ですよね、100回ですもんね。
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鍵井 |
空振りくらいで心は折れないです。
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でもやっぱり冬は‥‥。
具体的に寒いっていうのは、つらいですよね。
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鍵井 |
それは正直、つらかった(笑)。
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写真集にも正直に書いてありました。
2月の海に潜っているページです。
‥‥読みます。
「どうしてこんな思いをしてまで潜るのだろう‥‥」
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鍵井 |
ほんっとにね(笑)、思いましたよ。
なんでこんな刺すように冷たい海へ潜るんだろ?
また冬は、魚がぜんぜんいないんっすよ!(笑)
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(笑)
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鍵井 |
でも‥‥
それでもやっぱり潜り続けたのは、
この記録をしっかり写真に収めないと、
という気持ちがあったからです。
それになんといっても、
協力してくれる人がたくさんいるんですよ。
写真はひとりでは撮れないんです。
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ああ‥‥そうなんですよね、
この写真集の「あとがき」を読んで驚きました。
鍵井さんが潜るために、
あんなにたくさんの人が関わっているんですね。
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鍵井 |
ええ。
いつもそうなんですけど、
「みなさんの支援のおかげで」という事実を、
この写真集ではとくに強く実感しました。
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そうでしたか。
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鍵井 |
あの‥‥
ダンゴウオの笑顔の写真がありましたよね。
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はい。
ええと(写真集をめくり)‥‥これですね。
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鍵井 |
そうそう。
これが撮れたときは、
海の中で抱き合ってよろこんだんですが、
そのあと船の上に上がって、
ぼく、珍しく船長さんにこれを見せたんですよ。
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船長さんに。
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鍵井 |
船長さんは、
ダンゴウオになんか興味がないんですよ。
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ああー、はい。
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鍵井 |
漁協の人ですから。
「そんなちっちゃい魚をどうすんの?
食える魚でもないのに」
最初はそんな感じだったんですね。
だから、見せたかったんです。
船にあがってすぐに見せました。
「ほら、見て見て!」って。
そしたら船長さん、
「おわーー、笑ってる!」って(笑)。
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すばらしい!(拍手)
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鍵井 |
船長さんが笑ってくれたんですよ。
あれは、うれしかったなぁ‥‥。
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笑顔の破壊力というのは‥‥
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鍵井 |
すごいですよね。
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これですからねぇ。
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鍵井さん、今度こそほんとに、
本日はどうもありがとうございました!
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鍵井 |
こちらこそ、ありがとうございました。
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インタビューが終わっても、なんだかぼくらは名残おしく、
またすこし水族館ぶらぶらと歩きました。
すると、偶然こんなものを発見しました。
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▲ダンゴウオのガチャガチャです。
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▲もちろん、やりました。
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▲ふたりで1回ずつやりました。
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▲なんと、鍵井さんにはこの写真と同じ赤いダンゴウオが!
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▲山下には「天使の輪」をのせた稚魚が出ました! すごい偶然。
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▲水族館の近所で、もうすこしだけおしゃべりをしました。 |
鍵井さん、ありがとうございました。
水族館でのダンゴウオさがし、たのしかったです。
‥‥このコンテンツが終わることも、
なんだか名残おしくなってしまいます。
最後の最後に、
鍵井さんのいちばん新しい写真集、
『夢色の海』から3点ほど、
作品をお見せしながらおわかれといたしましょう。 |
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それは、やさしいトーンの写真が続く、
まるで夢の中にいるような、
これでもかと美しい写真集でした。
うっとりしながらページをめくり終え、
「あとがき」のところで‥‥あ‥‥と思いました。
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「3.11以降、私は被災地の海に潜り続けている。
(中略)
震災の海に潜ったことで、
海の怖さを知ると同時に、自然の持つ脆さも知った。
そして、海をよりいとおしく思うと同時に、
同じ夢の中でシャッターを切るのならば、
もっと夢色のような世界を表現したいと
思うようになっていた。」
─── 鍵井靖章(『夢色の海』あとがきより)
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(おわります、ありがとうございました) |