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鍵井さんの伝えたいことがこの写真集から、
しずかに、たしかに、響いてくるんです。
大声での表現はしていないのに。
それって、すごいことだなぁと思いました。
鍵井
ありがとうございます。
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そして何度も言いますけれど、
鍵井さんは自分の心の変化を
ほんとに正直に表現していますよね。
随所でそれを感じるんです。
鍵井
そうでしょうか。
たとえば、どんなところで‥‥?
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たとえば、
すこしずつ再生していく海の、
その兆しのような写真がありましたよね‥‥。
(写真集をめくる)
あった。これです、この写真。
▲車のホイールからワカメが芽生えた。宮古市日出島。(2012年1月25日)
『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』より。
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このあたりから徐々に、
「いつもの鍵井さん」になってくるんですよ。
鍵井
いつもの‥‥というと?
────
どんどん、
美しいものの写真集になっていくんです。
鍵井
‥‥ああーー。
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けっきょく鍵井さんは東北の海でも、
ちゃーんと自分の好きな
美しい写真を撮っているんだと思いました。
鍵井
ひゃあ〜(笑)、そうかぁ、ほんとですね。
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きれいなんです。
コンブの森とか。
▲養殖コンブの森。宮古市重茂。(2012年5月7日)
『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』より。
鍵井
きれいですよねぇ。実際、きれいだったんです。
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まるで南の海のようなサンゴの写真も。
▲ムツサンゴの群生とシュイロヒメヒトデ。宮古市重茂。(2012年5月7日)
『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』より。
鍵井
天の川みたいでした。
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ですから‥‥ね?
ご自分に正直なかただなぁ、と。
鍵井
なるほど(笑)。
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ダンゴウオもときどき出てくるし。
鍵井
あ、でもこのときにはまだ、
ダンゴウオをテーマに
写真集をつくることは決めてなかったんですよ。
────
へえー、そうだったんですか。
てっきり最初から決まっていたのかと。
いつ、ダンゴウオでいこうと思ったんですか?
鍵井
最初にもお話しましたが、
ぼくは魚の生態には興味がありませんでした。
────
はい。
鍵井
でも、震災後の東北の海の中で
たくましく産卵している魚を見て、
「これを撮りたい」って思うようになったんです。
命の誕生はなによりも力強いエールになる、と。
────
生態に興味のない鍵井さんが、
「誕生」を撮りたいと思うようになった。
鍵井
はい。
それで、「6月にダンゴウオの孵化がある」
という情報を聞いて、
「よし、ダンゴウオでいこう!」と。
────
ダンゴウオの誕生を。
鍵井
ええ、「ダンゴウオの孵化を撮りたい!」と。
────
そしてみごと(写真集を見る)それは撮れています。
‥‥すばらしい。
ダンゴウオの巣や、
卵を守るオスのダンゴウオ。そして孵化。
そのクライマックスは
ぜひ写真集を手にとって見ていただくとして、
「ほぼ日」のページには
この、うまれたばかりのダンゴウオを
載せてもよろしいでしょうか?
鍵井
どうぞ、どうぞ。
▲海藻に集まるダンゴウオの稚魚たち。宮古市浄土ヶ浜。(2012年6月13日)
『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』より。
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かわいいなあ‥‥。
ちっちゃいんですよね?
すごくちっちゃいんですよね?
鍵井
稚魚は、約5ミリ。
こめつぶくらいです。
────
こめつぶ! はあーーー。
鍵井
稚魚のときだけ頭に白い模様があって、
「天使の輪」ってよばれているんです。
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‥‥‥‥かわいい。
かわいい!!
鍵井
ね(笑)。
────
これを撮るのは、たいへんなんですよね。
鍵井
まぁ、カメラのほうを
なかなか向いてくれませんので。
────
そこはもう、やっぱり辛抱?
鍵井
辛抱。
待つしかないです。
「こっち向いてー、頼むから!」と。
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そうした地道な撮影を重ねて、この一冊がうまれた。
鍵井
この写真集は、ぼくがようやく
社会とつながることができた本だと思っています。
────
社会とつながる‥‥というと?
鍵井
水中写真という
ちょっと娯楽のようなジャンルの写真が、
社会性をもつことができたというか。
────
なるほど。
鍵井
ぼくの大先輩である中村征夫さんは
『全・東京湾』
という、
10年にわたって東京湾の写真を撮り続けた
本を出されています。
それはもう、すばらしい一冊で。
ぼくもそういう仕事に憧れがありました。
自分が暮らすこの社会と、しっかり向き合う仕事。
────
ダンゴウオに会えて、鍵井さんもそれができた。
鍵井
‥‥うん。
そうですね。
大きな意義があることができたと思います。
────
鍵井さんの写真が
これから先どんなふうに変わっていくのか、
ファンとしてたのしみにしています。
鍵井
がんばります。
ま、そーんなに成長はしないでしょうけど(笑)。
────
そうですか?(笑)
でもやっぱり、たのしみにしています。
本日はどうもありがとうございました。
鍵井
こちらこそありがとうございました。
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やー、たのしかったー。
(立ち上がる)
鍵井
水族館はたのしいですよね。
(立ち上がる)
────
(写真集をかたづけながら)
ちなみに東北の海には何回くらい潜ったんですか。
鍵井
(荷物をまとめながら)
100回くらいっすよ。
────
‥‥‥‥え?(手が止まる)
鍵井
‥‥‥‥ん?
────
‥‥‥‥100回。
鍵井
‥‥はい。
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すみません鍵井さん、
そのお話、もうちょっと聞かせてください(座る)。
鍵井
え? そうですか‥‥。
わかりました、じゃあもうちょっと(座る)。
(もう一回つづきます)
2013-07-04-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN