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中村 |
最近相談があった子は、8歳の男の子で、
毎日おねしょをしている。
小学校に入ったくらいまでは、
そういうものだろうと思って
親ごさんもあんまり気にしてなかったけど、
その後もずっとつづいて、心配になってきたんだね。
それに、子どもが大きくなると、
おねしょの量が増えてくるんだ。
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本田 |
ああ、からだが大きくなるから。
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中村 |
そう。おしっこの量が増えるんだよね。
それでおねしょをしたときに、パンツだけじゃなくて
布団もいっしょに濡れてしまうようになる。
それはやっぱりたいへんで、
親ごさんの負担が大きくなっていく。
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本田 |
そうよねえ。
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中村 |
このときは、別の病気で外来にかかっていて、
そういえば‥‥ってお母さんから相談を受けたんだけど、
その子のように、
小学校に入ってからもつづいているおねしょだと、
おねしょに病気が隠れていないかということを
まず、調べるんです。
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本田 |
どういう病気の可能性があるの?
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中村 |
調べなくてはいけない病気はいくつかあって、
ひとつは、中枢性の尿崩症(にょうほうしょう)。
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本田 |
中枢性というと、
頭からおしっこしなさいという命令を出すのが
うまくできていないということでいい?
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中村 |
そう。中枢性の尿崩症というのは、
さっき話した抗利尿ホルモンが
うまく出ていないことで起きる病気なんです。
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本田 |
おしっこの出方を調節するホルモンね。
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中村 |
うん。このホルモンがうまく出ていないときは、
夜のおしっこの量も増えたままで、
薄いおしっこがたくさんでるという状態がつづいてしまう。
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本田 |
その診断には、どういう検査をするの?
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中村 |
入院して調べることもあるけど、
もっと簡単な方法としては、
朝起きたときのおしっこを持ってきてもらって、
おしっこの濃さを計るんです。
尿浸透圧が、じゅうぶん濃くなっているかどうか。
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本田 |
濃縮できてるかどうかを調べるのね。
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中村 |
そう。尿浸透圧の数値でいうと、
800 mOsm/L 以上に濃くなっていれば、
夜中にじゅうぶん濃縮できていることがわかる。
そうであれば、中枢性の、
抗利尿ホルモンの出方が少なくて
起きているおねしょではないだろうと考えます。
この8歳の男の子も、簡単な検査で
朝のおしっこの濃さを測ってみて、
尿浸透圧が、800 mOsm/L 以上あった。
これで、濃くする働きは正常ということがわかって
中枢性の尿崩症の可能性は否定できたわけです。
それで、夕方からの水分の量と尿の回数を
ノートにつけてもらったら、
それだけでおねしょがほとんどなくなってしまった。
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本田 |
ああ、そう!
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中村 |
うん。この子の場合は、水分を飲む量が、
膀胱の大きさよりも多すぎたんだ。
これは特に効果があった例だけど、
記録してみると、意外に水分を多く飲んでいることに
気づくことがあるんだよ。
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本田 |
そうね。
逆に、尿を濃縮できていないという結果が出たときには、
どういう治療をしていくの?
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中村 |
抗利尿ホルモンが足りていないことが分かったら、
治療としては、そのホルモンを補ってあげる。
点鼻薬を使って、鼻の粘膜からホルモンを補うんです。
中枢性の尿崩症であれば、
おねしょだけじゃなくて、
昼の間もおしっこが多い状態がつづいて、
しょっちゅうトイレに行かなくてはいけないし、
水分が取れないと脱水症状を起こしてしまう。
だから昼間も、それから寝る前も点鼻薬をつかって
ホルモンを補ってあげなきゃいけない。
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本田 |
なるほど。
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中村 |
それから、尿崩症というのは、
中枢性だけじゃなくて
腎臓に原因がある場合があるんです。
これは、腎性尿崩症と呼ばれる病気で、
抗利尿ホルモンはちゃんと出ているのに、
腎臓がそれに反応しなくて、
おしっこがたくさん出てしまうというもの。
中枢性の場合は、
脳でつくられるホルモンが足りないので
不足分を点鼻薬で補って治療できるけど、
腎性のほうは、ホルモンを使っても
受け取る側に異常があるので治療はむずかしいんだ。
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本田 |
そうでしょうね。
腎性の場合は、どうやって治療するの?
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中村 |
なかなかむずかしいんだけど、
腎性の尿崩症の治療には利尿薬を使うね。
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本田 |
利尿薬というのは普通は
おしっこを出すために使う薬よね。
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中村 |
そう。ただ、この場合はもちろん
おしっこを出すことが目的じゃない。
利尿薬を使っておしっこといっしょに
ナトリウムが余計に出ていくと、
腎臓は逆におしっこが出るのを
止めようとする働きがあるんです。
食べ物で摂る塩分を減らしながら、
体内の塩のバランスを保つ自然な働きを利用して
おしっこの量を減らしていく。
これは、根本的な解決ではないんだけど、
おしっこの量をある程度減らせると、
腎性尿崩症の子どもは夜中に1回か2回か、
トイレに起きて、また寝るというのが、
習慣づいていくのね。
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本田 |
なるほど。そうすると、
脳からでるホルモンがうまく出せないか、
もしくは受け取れないかという尿崩症が
おねしょを起こす病気のひとつ。
そのほかには?
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中村 |
ほかに考えなくてはいけないのは、糖尿病だね。
それは、ある日突然と言ったら極端だけど、
数週間の単位で起こることもあるから、
急にのどが乾くようになって、
水分をたくさん欲しがって、
おしっこの量が増えてくる。
以前外来に来た小学生で、
おねしょは小学校に入る前に終わってたのに、
急におしっこの量が増えて、
おねしょもするようになってきた。
お母さんがたまたま医療関係のかたで、
夜中におねしょするのは
ひょっとしたら糖尿病かもしれないと考えたんだね。
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本田 |
いちど終わってたおねしょが
あいだをおいてまた出てきたから、
なにか新しい原因があるはずだと思ったのね。
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中村 |
そう。二次性のおねしょだからね。
それで、糖がでているかどうかを検査する
テストテープを子どものおしっこにつけてみたら、
すごくたくさん糖が出た。
それで、「糖尿病です」と
診断をつけて連れて来られた。
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本田 |
なるほど。
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中村 |
もう、「おっしゃる通りです」と。
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本田 |
おねしょに隠れている病気として
心配しなくてはいけないのは、
中枢性の尿崩症、
腎性の尿崩症と
糖尿病の3つ?
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中村 |
昔からつづいている一次性のおねしょについては
またわけて考えなくてはいけないんだけど、
途中から起こってくる二次性のおねしょで
心配しなくてはいけない病気といえば、
中枢性の尿崩症と、糖尿病、
あと、尿路感染症だね。
なかでも、中枢性の尿崩症は、
なぜホルモンが出なくなったかということを
考えなくてはいけなくて、
その原因には、脳腫瘍が隠れていることがある。
だからとくに気をつけて検査します。
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本田 |
いま言ったような病気が否定できれば、
あとはあまり心配しないで
そのほかの原因を考えはじめていい?
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中村 |
病気といえば、そうだね。
原因がはっきりしないものには、
赤ちゃんがえりと呼ばれるものも含まれるよ。
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本田 |
赤ちゃんがえりというのは、
親の注意をひきたいということ?
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中村 |
そうだね。最初に少し話したように、
二次性のおねしょは
心理的な影響によるものが多いと言われてるんです。
実際には、どれぐらいおねしょが深刻か、
だんだん量が増えてきているとか、
いつもあるのかどうか、
その子のおねしょがどういう状態にあるのかを
見ながら考えていくよね。
重症かどうかというのは、
たぶんに、感覚的な部分もあるけど、
二次性のおねしょの場合には、
中枢性の尿崩症、糖尿病、尿路感染症などを考えて、
どちらでもなければ、
おねしょを起こしてくるような
心理的な要因がないかということも考えます。
(つづきます) |