第5回
ええ料理ってなんやねん。
- 糸井
- 土井さんは若いときからそんなふうに
料理について整理して
考えられていたのでしょうか。 - 土井
- わたしは昔からいろいろなことに
「なんでかな?」と思うんですね。
たとえば
「これは家元のお茶碗だから5千万円します」
とか言われても、その理由がわからない。
そこをわかりたいと思ったんです。 - 糸井
- わからないものを、わかりたい。
- 土井
- はい。「これはわかったもん勝ちやな」と
思ったのもあるんですけど。
そういう部分への興味が強くて、
若いときはとにかく美術館などに入り浸りでした。
1時間余裕があったら、
そういうところに出かけて、いろいろ見て。
まあ、先輩やご主人に
「ええもんやで」とか言われると、
すごくええもんに見えてきていた時期もあって、
その頃はまだちょっと未熟やったな、
と思いますけど。 - 糸井
- いまはどうですか?
- 土井
- いまは自分なりにたのしんでますよね。
いろいろと知りたいのは変わりませんけど。 - 糸井
- つまりその興味って、
「価値ってなんだろう?」ですね。 - 土井
- そう、「ええ料理ってなんやねん?」という。
わたしはそこにすごく興味があるんですよ。 - 糸井
- おもしろいなあ。
- 土井
- だからわたし、お年寄りとか大好きなんです。
知らんことを教えてくれるから。 - 糸井
- 土井さんのそういう視線は、
いつもテレビを見ながら感じていた気がします。 - 土井
- そうですか(笑)。
‥‥わたしね、テレビで料理しながらでも、
新しいことを発見するんですよ。 - 糸井
- 頼りないアナウンサーと番組をしてること自体が、
もう、そういうことですよね。 - 土井
- 人と一緒に料理をすると、
とんでもなく気づきがありましてね。
たとえば糸井さんとわたしが料理をしたら、
わたしはきっと糸井さんがするいろいろなことに、
「すごいな、この人は」と
たくさん発見があると思うんですよ。 - 糸井
- ふだんからそういうことをされてますよね。
- 土井
- そうですね、その発見がおもしろくて。
以前、アナウンサーの渡辺宜嗣さんに
「舞茸をほぐしてください」って
おねがいしたんです。
そしたら何を思ったか、グシャグシャっと
舞茸をコナゴナにしたんです。
そのとき
「とんでもないことをする人やな」
と思って(笑)。 - 糸井
- はい(笑)。
- 土井
- まず、ものの考え方いうのは
「ちぎって舞茸らしい格好にする」
というのがあるんですよ。
素材は、その姿のままが
いちばんいいなという。
そこをぜんぶ破壊するわけですから。
そんなふうにするのは、
日本料理ではある種のタブーなんです。
でも‥‥。 - 糸井
- でも?
- 土井
- そうすることで、
舞茸の匂いが爆発するんですね。 - 糸井
- あぁー。
- 土井
- そうやったことで、舞茸の調理法が
ブワーッと一気に広がるんです。
もうね、いままで他人行儀やった
ひき肉と舞茸が、
急に仲良くなったりするわけですよ。 - 糸井
- その舞茸、自分だったらどうするかなぁと
思ったんですが‥‥チャーハンかなぁ。 - 土井
- そういうこととか、お弁当の肉そぼろの
中身をはんぶん舞茸にしたら、
軽くなって、風味もよくなってとか。
新しい可能性が出てくるんですよ。 - 糸井
- 土井さんは、ひっきりなしに
そういうことを考えてるわけですよね。 - 土井
- なんか、そういうことに気づくんですね。
- 糸井
- 完璧なアシスタントだと、
そういうおもしろさは出てこないですね。 - 土井
- そういう意味でわたしはうちの奥さんからも、
たくさん料理を教わるんです。
家庭の主婦って、日々、時間とか
いろいろなものと争ってるわけです。
たとえば枝豆にしても、
わたしの場合はパチパチと切ってから、
塩もみをしてゆがくと思うんです。
けど、もうね、沸いたお湯に
枝ごとパッと入れたりしますから。 - 糸井
- その流派、ぼくもそうです(笑)。
- 土井
- 実際そのほうが簡単やったりするんですよ。
だけど、それを見たわたしは感動ですよね。
「すごいな」思う。 - 糸井
- 料理人はそんなこと、絶対しないですよね。
- 土井
- しないですね。
料理人には1つの道があって、
そこから外れたらダメなんです。
まぁ、わたしはすでに違う道を歩いてますから。
そういう意味で、いまのわたしは
どんどん自由になっていってますよね。
(つづきます)
2017-01-05-THU