第7回
生きることはばらつき。
- 糸井
- 「生きてる」って均一じゃなく、
ばらつきそのもので。 - 土井
- そうです、そうです。
わたしはそこを大事にしたいんですよ。 - 糸井
- 先日再放送があってまた見たんですが、
『きょうの料理』で土井さんが
おにぎりの作り方を教える回がありましたよね。
そのとき土井さんがもう、
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん‥‥と、
まさにばらつきそのもののような
おにぎりをにぎられてて。 - 土井
- はい(笑)。
- 糸井
- あれは、技術としては、
すっかり同じサイズで作れるはずなのに。 - 土井
- そうですよ。
だけどそうする必要がないから、
出たとこ勝負でいいんですね。 - 糸井
- たぶんその「出たとこ勝負」って、
いわゆるプロには作れないんですよね。
お寿司をにぎる職人さんなら
「ひとつも違いがありません」に
行きたくなるでしょうし、
ほかの料理人の方もそうでしょうし。 - 土井
- プロはそれぞれ、手が決まりますからね。
- 糸井
- だけど、土井さんは
「みなさんたのしいでしょう?
しかも、おいしいんですよ」
という話だから。
あれは商品じゃないんですよ。 - 土井
- 家庭では、その必要がないですからね。
ちっちゃい子とおおきい子が
いてんねんから。 - 糸井
- それを言える人が、職業として
成り立っている‥‥この幸福?(笑) - 土井
- だけどいまはその
「揃えなくてよい」を忘れている人が
すごく多いんです。
なんでも揃ってなければダメだと思い込んでる。
「どうしてだっけ?」とか考えてみると、
必要ないのがわかりますよね。 - 糸井
- 均一にする理由は
「商品の場合に、値段を同じにするためだよ」
って。 - 土井
- そういうことですからね。
- 糸井
- いまの街って商品だらけなんですよ。
都会に商品じゃないものってほとんどないんです。 - 土井
- そのとおりですね。
- 糸井
- とはいえぼくにはひとつ、
思い当たるものがあるんですけど。 - 土井
- ありますか?
- 糸井
- 秋のぎんなん。
- 土井
- ああ、落ちてる、落ちてる。
- 糸井
- あれ、拾ってキレイにすれば価値になりますよね。
だけど商品というわけじゃない。
そしておそらく、
盗むわけじゃなくもらえますよね。
花だと怒られますけど。
料理屋さんが桜を切って、捕まったりしますよね。 - 土井
- わたしも昔、隠れたりしましたよ(笑)。
- 糸井
- あ、やっぱり?
- 土井
- いまでもどこにどんな葉っぱがあるか、
よう知ってますもん、わたし。
道はわからなくても、
どこにどんな木が生えてるかは覚えてますね。
とくに料理に使えるものに関しては。 - 糸井
- それをとるのは、厳密には、いけない。
- 土井
- いけないけれどもね。
- 糸井
- ぎんなんは落ちてるから、たぶんいいのかな。
まぁ、細かく言い出すと自治体が‥‥
とかいろいろあるんでしょうけど。
とにかくぼくにはあれが
21世紀の出島のように見えるというか。
毎年季節になるたびに
「都会にこういう隙があってよかったな」
と思うんです。 - 土井
- そうですねえ、ほんと。
- 糸井
- 自分もあの、ぎんなんのような存在で
ありたいというか。
ああいう存在を混ぜ込む生き方を
したいと思うんです。 - 土井
- 「混ぜる」ということで話を広げると、
いまはみんな、なんでも均一に混ぜがちなんです。
だけど料理でもやっぱり、
「不ぞろい」がおいしいものってあるんです。 - 糸井
- ありますねえ。
- 土井
- だからひとつひとつの料理で、
どの粗さで混ぜるのをやめるか考えはじめたら、
すごくおもしろくなるんです。
ポテトサラダでも
「ああ、おいしそう!」という時点で
それ以上混ぜたら、不味くなりますから。 - 糸井
- ほんとですね。
- 土井
- だからわたしは学校給食でもレストランでも、
それこそ大きなボウルでポンと出して
「自分たちで混ぜてね」くらいのほうが
いいんじゃないかぐらいに思ってますけどね。 - 糸井
- なんでも揃えなきゃと思うのって、
不公平や不平等の感覚が
変にずれてしまったものといいますか。
もちろん公平や平等への視点も大事。
だけどそこ、家の中ならいいんですよね。 - 土井
- 家の中はもうまったく必要ないですから。
そして、そのほうが確実においしいんですよ。
だいたい食べ物っていうのは
人間関係のなかで
非常におおらかなものなんですね。 - 糸井
- 鍋とかでも、あんまり食べなかった人と
食べた人がいても、別に誰も怒らないというか。 - 土井
- そうですね。あと食べ物には
そのときどきのおいしさというのがあって、
「いつも一定」ってできないんです。
一流の寿司屋でも、合わせ酢の加減は
毎日違いますから。
一定にしようと数値化しても、それだけでは
ほんとうにおいしいものはできない。
揺れがあるんですね。 - 糸井
- 「今日はこれ、ないんですよ」
と言われる寿司屋って、ぼくは好きなんですが、
いまは、いつでもなんでもある店のほうが
有名だったりするわけで。 - 土井
- そうですねえ。
そういう需要ももちろんあるでしょうけれど。 - 糸井
- だけどもしかしたら、その均一さよりも、
丁寧に握られた不ぞろいの
おにぎりのようなもののほうが、
うれしい場合も多いと思うんです。 - 土井
- 丁寧ににぎってもらったおにぎりは、
たとえ冷やご飯でも、
もうほんとにおいしいなと思いますね。 - 糸井
- わかります、おいしいですよね。
(つづきます)
2017-01-07-SAT