旅がはじまるとき。 旅がはじまるとき。
7月1日に一般販売をスタートした
「ほぼ日のアースボール ジャーニー」。

今度は「旅」がテーマということで、
これまで70カ国以上を訪れたという
『地球の歩き方』の宮田崇編集長に
旅の話をいろいろうかがってきました。

コロナ禍でガイドブックの売上は9割減。
一時はブランドの存続が危ぶまれたことも。
ようやく旅行業界に光が見えはじめたいま、
プライベートも仕事もごちゃまぜに
思いの丈をたっぷり語っていただきました。

聞き手は「ほぼ日」の稲崎です。
宮田崇さんプロフィール
第2回 受けの美学。
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宮田
大学生のときにペルーの
マチュピチュに行ったことがあるんです。
──
はい。
宮田
山の一番上まで行って、
眺めのいい場所でタバコを吸ってたら、
「火を貸してもらえませんか」って言われて
振り返った見たら、
1年前にインドで会った日本人がいて。
──
偶然ですか?
宮田
まったくの偶然。
なんの約束もしてないのに、
たまたまインドで会った日本人と、
1年後にマチュピチュで再会しました。
──
そんな偶然あるんですか(笑)。
宮田
それで私が学生最後の旅は
インドに行くつもりって話したら、
そいつもインドに行くって。
じゃあってことで、
何月何日の何時にインドのどこどこで
待ち合わせしようと約束したんです。
そしたら、そいつ本当にいた(笑)。
──
再び、インドで再会(笑)。
宮田
結局、その彼とは
いまだにやりとりがあります。
──
旅で出会う人って、
どこかで運命を感じますよね。
宮田
ゲストハウスにいる人が、
自分の好きな本を読んでたりすると、
思わず声かけちゃったり。
──
ありますよね。
宮田
うちの若手が言ってたんですけど、
いまってゲストハウスに泊まっても、
みんな黙々とスマホ触ってるから
あんまり会話がないんですって。
──
そっか、スマホがあるから。
宮田
それはそれで、
ちょっと寂しい気もしますけどね。
──
それこそぼくの時代は、
本を読むくらいしかやることがなくて、
それこそ『地球の歩き方』を見ながら、
次のルートを考えてましたね。
宮田
それが話のネタにもなってましたよね。
『地球の歩き方』のここが間違ってるとか、
なんであの店が載ってないんだとか。
──
「俺たちのほうが詳しいぞ」って(笑)。
宮田
なぜかゲストハウスにいる人は
『地球の歩き方』に対しマウントを取りたがる(笑)。
まあ、そういうのも
ちょっとうれしかったりはするんですけど。
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──
ぼくがモロッコに行ったときも、
途中まで本の通りに行けたんですけど、
ある町から先のルートがどこにも載ってなくて。
宮田
はいはい。
──
結局、その町で1週間ぐらいかけて
同じ目的のバックパッカーを集めて、
みんなで車をチャーターして脱出したんです。
宮田
おぉ、いいねー。
──
いま振り返ると、
それがすごくいい思い出なんですよね。
宮田
それはいい思い出だし、
問題解決能力が上がりましたよね。
──
上がりましたね。
宮田
旅は瞬時の判断が求められます。
例えば外国でケチャップをかけられたとき、
「まさか例のやつか?」とか。
その一瞬で判断しないといけない。
──
「ケチャップ強盗」ってやつですね。
わざとケチャップをかけて、
慌ててるスキに物を盗むという。
宮田
そういうのは1秒を争うタイミングで、
どうするかジャッジしなきゃいけない。
だから旅って決断力がすごく上がる。
──
たしかに。
宮田
いまの車をチャーターした話もそうで、
旅先で目的を達成するためには
どういう選択をすればいいのか、
ぜんぶ自分で決めないといけない。
ガイドブックはあくまでもガイドブック。
だから本を参考にしてもらうのはいいけど、
大事なところは自分で判断する。
それが本当の旅じゃないかなって思います。
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──
いまならそうも思えますが、
そのときはそんな余裕はなかった(笑)。
「ちゃんと書いといてよ!」って思いました。
宮田
それでいいんですよ。
そういう投稿が編集室に来るので、
翌年の改訂版をよく見ると
「あの町の46番のバスに乗ろう」とか、
あとで小っちゃく載せたりします。
──
なるほど(笑)。
宮田
うちも前は「攻めの美学」だったので、
「うちが発信する通りに旅をしろ」と、
そういうスタンスだったんです。
でもいまはネットもSNSもあるので、
徐々に「受けの美学」になってきています。
──
「受けの美学」というのは?
宮田
そもそもプロレスというのは、
相手の技を受けてこそなんです。
相手の攻撃を受けて受けて、
すべて受けきったうえで、
精神的にも肉体的にも相手を上回って勝つ。
それこそが真のプロレスラーの姿で‥‥。
──
あの、プロレスの話じゃなくて‥‥。
宮田
えっ、なんの話でしたっけ?
──
本を作るときの「受けの美学」を。
宮田
ああ、はいはい。失礼しました。
本の作るときの「受けの美学」ですね。
──
お願いします。
宮田
例えば何でもない香港のマンションが、
急に人気スポットになったとしますよね。
映画に出たとかで、
SNSでもめっちゃバズってると。
──
聖地巡礼ってやつですね。
宮田
そしたら何の由来もない
ただの郊外のマンションでも、
本に載せなきゃいけなくなるんです。
なんでかというと、
そういう観光地じゃない場所に
間違ったルートで行ってしまうと、
危険な目にあう可能性があるからです。
なので、もしそこに行きたいなら、
このルートで行ってくださいね、
という情報を本に載せたりするわけです。
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──
おぉ、まさに受けの美学。
宮田
後追いにはなるんですけど、
ネットで流行っているものに対しては
ちゃんとうちなりに調べて、
そのアンサーを出すようにしてます。
──
目的地への行き方まで書いてあるのは、
『地球の歩き方』の特長ですよね。
宮田
いまはうちくらいですけど、
昔はそういうのがけっこうあったんです。
海外だと「ロンリープラネット」とか。
──
「ロンリープラネット」って、
海外ですごく人気ありますよね。
外国人のバックパッカーみんな持ってました。
宮田
あの本、読み物としておもしろいんです。
「この宿に泊まるんだったら、
道路側から3つ離れた部屋に泊まれ。
朝4時から車のクラクションがうるさいから、
窓側はとてもじゃないけど眠れない」
とか書いてて、すげえってなります。
──
文字情報がすごいんですよね。
宮田
さすがに『地球の歩き方』だと、
そこまで書くことはできないんです。
日本人は英語が苦手なので、
もし「道路側から3つ離れた部屋をリザーブ」と
本の中で紹介するんだったら、
英語で予約の仕方も入れないといけない。
さすがに全部それをやるわけにもいかなくて。
──
ああ、なるほど。
そこまで考えないといけないわけですね。
宮田
お節介な情報もありますけど、
やっぱり日本人のためのガイドブックですから。
(つづきます)
2022-07-02-SAT
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2022年7月1日(金)一般販売スタート!
写真 写真
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