7月1日に一般販売をスタートした
「ほぼ日のアースボール ジャーニー」。
今度は「旅」がテーマということで、
これまで70カ国以上を訪れたという
『地球の歩き方』の宮田崇編集長に
旅の話をいろいろうかがってきました。
コロナ禍でガイドブックの売上は9割減。
一時はブランドの存続が危ぶまれたことも。
ようやく旅行業界に光が見えはじめたいま、
プライベートも仕事もごちゃまぜに
思いの丈をたっぷり語っていただきました。
聞き手は「ほぼ日」の稲崎です。
- ──
- 最初の旅がインドって、
インパクトがすごそうですね。
- 宮田
- 最初の旅は二度とできないですからね。
インパクトありました。
- ──
- そのあといくら旅しても、
やっぱり最初の旅には勝てないですか。
- 宮田
- 勝てない勝てない。
どんなにお金を出しても、
最初の旅だけは買えないですから。
それぐらい1発目の旅って、
人生を左右する力を持ってると思います。
ただ、私と一緒にインドに行った親友は、
二度とインドに行ってないですけど。
- ──
- 同じ旅をしてたのに不思議ですね。
- 宮田
- 彼は最後にカルカッタ(コルカタ)で倒れてしまって、
現地の病院で入院までしました。
- ──
- ええーー!
- 宮田
- それまでの40日間というもの、
私たちはインド人に
ボラれてボラれてボラれてボラれて‥‥。
- ──
- 相当、ボラれたんですね‥‥。
- 宮田
- だけど親友が倒れたとき、
私が彼を担いで「オートリキシャ」という
インドの三輪タクシーに乗って、
「ゴー、ホスピタル!!」って叫んだら、
それまでボリまくってたインド人が、
「オーケー、ホスピタル!!」って
病院までスピード全開で飛ばしてくれたんです。
- ──
- おおぉー!
- 宮田
- クラクション鳴らしまくって
救急車みたいに飛ばしてくれて、
しかも病院に着いたら着いたで
現地の人にヒンズー語で
いろいろ事情まで説明してくれて。
- ──
- めっちゃいいいやつ。
- 宮田
- 私、英語も勉強してなかったんで、
ぜんぜんわからなかったんですけど、
なんとなく医者が言うには
「友達は汚物を口にしてないか」と。
つまり、インド人って
手でおしりをふいたりするから、
屋台で食った焼きそばにちょっと‥‥。
- ──
- おぉ‥‥つまり、食中毒的なことに。
- 宮田
- それでとにかく友達は
緊急入院することになったんですけど、
ひとり残された私が病院の外に出ると、
さっきの三輪タクシーのインド人が
私の帰りをずっと待っていました。
そのとき思いましたね。
「しまった、やられた!」と。
- ──
- やられた?
- 宮田
- あんなに親切にしてくれたのは、
やっぱり金のためだったのかと。
とんでもない請求がこのあと来るぞと。
あれだけスピード出したわけですから。
- ──
- けっこう払ったんですか?
- 宮田
- ‥‥と思ったら、その逆。
そのインド人、私にお金をくれました。
これでメシでも食え、的に。
- ──
- え、ええっ?!
- 宮田
- しかも、ホテルまで無料で送ってくれて。
「大丈夫か。お前も大変だったな」って。
- ──
- やばい、泣きそう。
- 宮田
- 私も「え、何これ?」ですよ。
インド人ってそういうところがあるんです。
その体験が私と友達の分岐点でした。
つまり、彼はそれを体験してないから。
- ──
- 入院してて知らない(笑)。
- 宮田
- でも、私はそこでインドが好きになりました。
ずーっとツンツンしていたやつが、
最後の最後にギュッとハグしてくれたみたいな。
- ──
- そこで恋に落ちたわけですね。
- 宮田
- あの旅は何にも代えられない。
本当に行ってよかったと思います。
自分の娘もよきところで
海外に連れてこうと思ってますけど。
同じようなワンパンチを
いつか経験させたいと思っているんです。
- ──
- 娘さんはおいくつなんですか。
- 宮田
- 2歳になったばかりです。
- ──
- まだ早すぎます(笑)。
- 宮田
- でも、大きくなったあとでもいいので、
いつか世界がひっくり返るような
旅をしてほしいなって思いますね。
- ──
- 宮田さんはその旅で
世界がひっくり返ったわけですね。
- 宮田
- ひっくり返った。
ブルーハーツの「情熱の薔薇」が流れました。
「見てきたものや聞いたことー、
いままで覚えたぜーんぶぅ、
デタラメだったらおもしろい♪」
はい、インド、デタラメでした(笑)。
- ──
- 日本とは常識が違いますもんね。
- 宮田
- まったく違いましたね。
日本は「これいくらですか?」
「1260円です」が常識ですけど、
向こうは「これいくらですか?」
「いくらなら買いますか?」なんです。
- ──
- あぁ、なるほど。
- 宮田
- それって資本主義として
一番正しい需要と供給の関係ですよね。
お互い一番納得できる方法というか。
- ──
- そういう旅先での経験って、
なんの役に立つかわからないけど、
絶対いまの自分を作ってますよね。
- 宮田
- ほんとそうだと思います。
ひとつ思うのは、
旅は人生を前向きにしてくれます。
- ──
- ちなみに旅での嫌な思い出って、
記憶から消えるほうですか?
それとも嫌なまま残りますか?
- 宮田
- うーん、忘れちゃうかな。
- ──
- じつはぼくもそうなんです。
イライラしてた気もするけど、
あとで振り返ると
全部いい思い出になっていたりします。
- 宮田
- 私も昔の日記を読んでみると、
すごく怒ってる日があるんですよ。
なんで怒ってるんだろうと思って読むと、
「おつりが2ルピー足りない!」って。
2ルピーって当時7円ですよ(笑)。
- ──
- 現地の感覚になってるんですね。
- 宮田
- だからその2ルピーでも
「やられたー!」ってなってるみたいで。
それを未来の自分が読むと
「やるよ、その7円」ってなりますよね。
感情としては残ってないけど、
そういうのは日記を読むと思い出しますね。
- ──
- 日記はいまも書かれているんですか。
- 宮田
- いまも毎日1行は書きます。
今日こんなことしたって単語だけでも。
高校ぐらいのときからずっとですね。
- ──
- それ、すごい宝物ですね。
旅に行ったときの気持ちも全部、
その日記の中に残ってるわけだから。
- 宮田
- とはいえ、かなり恥ずかしいやつですよ。
絶対家族にも読ませちゃいけない。
- ──
- そうなんですね(笑)。
- 宮田
- 当時はスマホもパソコンもないから、
自分と向き合う時間があるんですよね。
字を書くことも好きだったから、
何があった、こんなことあったって、
いろいろ気にせず書いてましたね。
- ──
- 旅に行くと手紙とかも書きたくなりますよね。
あれ、なんなんでしょうね。
- 宮田
- それこそ私もおふくろに、
何十通も書いたりしましたね。
このあいだ妻にも見せてました。
「こいつ、家でいばってると思うから、
恥ずかしい部分を見せてあげる」って。
- ──
- 恥ずかしい部分(笑)。
- 宮田
- 「お母さん、産んでくれてありがとう。
ぼくは今日、この港にいます」とか(笑)。
- ──
- おおーー(笑)。
- 宮田
- そして手紙の締めは、
謎の「ボン・ボヤージュ」。
- ──
- わははははは。
- 宮田
- いま目の前にいたら説教ですよ。
なにが「ボン・ボヤージュ」だよ!
お前、野毛生まれだろって(笑)。
(つづきます)
2022-07-04-MON
「ほぼ日のアースボール ジャーニー」
2022年7月1日(金)一般販売スタート!
今度のアースボールは、
そのままでも使える本格地球儀です。
世界にあるさまざまな国と地域。
そんなカラフルで多様な世界を、
もっと旅するようにたのしんでほしい。
そんな想いで「ジャーニー」という名前を付けました。
まずは「ジャーニー」を手に取り、
気ままな想像の旅に出かけてみてください。
そしてもっと冒険がしたくなったら、
スマホやタブレットをかざしてみてください。
地球をとびだして、宇宙を旅することだってできますよ。
詳しくは公式販売ページをご覧ください。
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