糸井 |
今回『智慧の実を食べよう』で
講演していただくみなさんは、
どうも「グローバリズム」について
きちんと考えていることが、
共通していると思うんです。
今まで、日本国内だけで通用していた
小さいルールではやっていけなくなってしまう、
という時代に生きている実感が、
とにかく、どの人も強烈で。 |
山岸 |
たぶん、糸井さんが
そういう方々を選んだからかもしれませんが、
今、日本人のほとんどの人が、
そういうことを考えていますよね。
「今までのやり方では、
うまくいかなくなってきたらしい。
そいつはどうも、
グローバライゼーションのせいらしい」と。
ただ、そこまでは一緒だけど、そこからの道は、
「だから、
グローバライゼーションはけしからん!」
「グローバライゼーションに入ってしまえ」
「グローバライゼーションを前に、
どうしたらいいんだろう?」
と、分かれていくんだと思うんです。
まぁ、大半が
「わからない」ということでしょうけど。 |
糸井 |
「結局、今の世の中の動きって
何なんだろう? それを知りたい」
そういう欲望は、すごくあると思います。 |
山岸 |
「知りたい」もあると思いますし、
同時に「不安」もあるんでしょうね。
どうしたらいいかわからないけど、
ともかく英語ぐらいは
知っておかないと大変なことになる、とか。 |
糸井 |
アジアの諸国では、
それこそマレーシアみたいに、
英語がどれだけ使えるかで
給料が何倍も開く国もあるけど、
日本は、なまじ
それをしなくていいだけに、迷うわけで。 |
山岸 |
学者の世界でも、そういうことがあるんです。
論文を、英語で書くか
日本語で書くかという問題が、ありますよね。
これが香港やシンガポールだと、
ほとんど英語で書くわけですよ。
国全体で心理学者が
五〇人ぐらいしかいない所では、
英語で書かないと誰も読んでくれないんです。
しょうがないから英語で書く。
ところが、日本の方々は、
いまは少し変わってきていますけど、
ほとんどが日本語で書くわけですよね。
なぜそうかと言えば、結局、
日本国内のマーケットが
大きすぎるからなんです。
日本の中で有名になれば、それで満足しちゃう。
私が英語で論文を書いたり、
アメリカに行くようになったきっかけは、
本音のところを言いますと、
日本で食い詰めたからなんですよね。
「大学院を出ても職がないから、渡った」
そういうクチですから。
でもそれは、
結果的には、すごくよかったんですよ。
大学院を出ても仕事がないから、
援助を受けて、
アメリカの大学にもう一度入り直すんです。
それは、食いつなぐために
行ったようなもんですからね……。 |
糸井 |
最近、かなり過労だったと聞きまして、
心配なんですけど。 |
山岸 |
二月が、特にひどかったんです。 |
糸井 |
寒いときの過労は、よくないですよねぇ。
ぼくの友だちも、やっぱり、
冬に疲れ過ぎてたら、
調子悪くなっていましたから。 |
山岸 |
一月と二月に、それぞれ
サンタフェ研究所に行っていまして、
途中、別なところに寄って話していましたし、
日本でもその前後に
いろんなことをやってましたから。 |
糸井 |
気をつけてくださいね。
複雑系で有名なあのサンタフェ研究所だから、
おもしろすぎたんでしょうねぇ。
「徹夜で麻雀して倒れてしまった」
みたいなことって、
たのしすぎるから起きることですから。 |
山岸 |
サンタフェ研究所で、行動科学の
新しいプロジェクトを作るということで、
私も呼ばれて行ったんですけど、
ほんとうにおもしろかったんですよ。
二〇人ぐらいの集まりだったんですが、
そういうところでは、
もう現在の学問分野というのは
ほとんど意味がないんですね。
来ているのは、経済学者、脳神経学者、
心理学者、人類学者、と……。 |
糸井 |
サンタフェ研究所は、
特別にそういう場所なんでしょうけども、
そう聞くだけでも、愉快な感じがしますね。 |
山岸 |
サンタフェ研究所には、
これまで四回行っているのですが、
今回がいちばんショックを受けました。
そこで話しあわれたのは、
人間は感情の生き物だという事実を
どうやって経済学の中に
生かすことができるのかということです。
たとえば、他人を信頼すると、通常は
快楽を感じる脳の部分が活性化する、
だとか……刺激的でした。
こういったことを、経済学者たちが
脳神経科学者たちと組んで、
本格的に研究しはじめているんですね。 |
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(明日に、つづきます!) |