怪・その2

「たどり着く川原」

父の不思議な体験を送ります。

これは父が
地元の消防団に所属していたときの話です。

ある春の日、
「お婆さんが山菜を採りに行くといったまま
 昨日から帰らない」と連絡が入り、
父の所属する消防団が
捜索に出ることになりました。

お婆さんが山菜採りに入った山は、
頂上まで上ると反対側の町の明かりが見え、
しかもその町の方へ進むほど
森が深くなっているため、
遭難しやすい山でした。

多分、お婆さんもその町の明かりを頼りに
反対側へ降りてしまったのではないか。
と考えた父たちは、
反対側へ降りてしまった人たちが
必ずたどり着く川原を目指すことにしました。

その川原は自殺の名所であると共に、
遭難して力尽きた方の遺体が発見されるなど、
ちょっとした
いわくつきの場所でもありました。

父たちが川原に着くと、
お婆さんはそこにいました。
特に怪我もなく、
とっても元気な様子にホッとした父が

「お婆ちゃん、大変だったね。
 大丈夫かい?
 寂しくなかったかい?」

と声をかけると

「寂しくなかったんね。
 一晩中、いろいろな人が
 話し相手になってくれたからなぁ」

と笑顔で答えたそうです。

(ひな)

2012-08-01-WED