怪・その9

「布団の下の畳から」

15年ほど前の事です。
布団で夜、休んでいましたら、
周囲の空気が重苦しくなりました。

時々こんな事が起きるので
「眠ってしまえば、明日には忘れてしまう」と、
眠り込もうと思いました。

すると布団と同じサイズの空気の塊が
私を少しずつ押し潰して来ます。

身体中が冷えてきて、
神経は起きているのに
身動きが全くとれなくなりました。

さすがに
「今回ばかりは冗談ではすまないかもしれない」
と、初めて恐怖を感じました。

しばらくすると、
布団の下から腕らしきものが出て来て、
私の手を押さえつけてきました。

ベッドではなく、畳の上に直接布団を敷いてあるので、
人間の入り込む隙間はありません。

そして男性のしわがれた声が耳許で
「何が‥‥、知りたい‥‥」と
繰り返しつぶやき始めました。

これはもう、なんとか逃げなければと、
必死の思いで、「何も教えるな!」と叫びました。

その瞬間、つぶやいていた何者かが
「くっ、おぼえておけ」と言い放ち、
呪縛が解けました。

気が付いたら、朝になっていました。
いつも通りに布団をたたむと、
畳の側の布団の生地が
爪で何回も引っ掻いたように裂けていました。

あれからその様な事は起きていませんが、
私の住んでいるマンションは
お墓を更地にして建てた物だと、人伝てに聴きました。

同居している家族にも他の住人の方にも、
それとなく異変が無いか尋ねましたが、
一様に「特に何もない」とのことでした。

私は何だかとても損をしている、という気がしました。

(こなゆき)

2012-08-10-FRI