怪・その8
「拾ってきた石」
今から30年以上前の話です。
その頃高校生だった私が
ある日家に帰ると、
床の間に石が置いてありました。
その石は漬物石くらいの大きさの丸い石で、
真ん中に「閏」という文字が彫ってありました。
一見して床の間に不似合いな石に、
「あれ何?」と母にたずねると、
母は不思議な話をし始めました。
ずっと昔、母は
家の前の川で石を拾う夢を見たそうです。
それが何度も続くので、
ある日夢で見た場所に行ってみるとその石があり、
持ち帰ってみたものの、
どうしていいか分からず
庭の隅に置いていたのだそうです。
が、ずっと野ざらしにしておいてはよくない気がして、
洗って床の間にその日置いたのだ、ということでした。
不思議な話に、若かった私は面白半分で、
その頃テレビで放送していた、
心霊写真を霊能者が分析してくれるという番組に送ろうと
石の写真を撮りました。
その後、友人4人が泊りがけで私の家に遊びに来たので、
友人達との写真も続けて撮影し、
数日後、思い出し、
父に「あの写真現像してくれた?」とたずねると、
「あの写真、全部だめだったよ」と
父が言うではありませんか。
「お前が石を撮ったところから
フィルムが裂け始めていて、
友達の写真も全部現像できる状態ではなかったよ」と。
その時は残念だけどしょうがないくらいにしか
思いませんでしたが、
その後私は体調を崩して休学することになり、
友人達とはいっしょに卒業できず
離れ離れになってしまったのでした。
後になって思ったのですが、
あれは面白半分に写真を撮った私に対して
石が怒ってのことだったのか、
それとも体調を崩し友人と離れ離れになる
私のその後を予知したものだったのか、
それとも全てが意味を持たないただの偶然だったのか。
今でも分かりません。
住む人がいなくなり、
空き家になった実家のどこかであの石は、
まだ私達を見ているような気がするのです。
(DAN)