怪・その9
「二階のベッドには」
私が学生の頃、母はしんどい時に、
近所の小さな診療所に
点滴をうってもらいに行ってました。
古い小さな診療所なので、
一階が診察室で二階はベッドが二台入るだけの、
狭い部屋がふた部屋あるだけでした。
母はいつもその二階のベッドに1人で横になり、
点滴が終わるとナースコールで
一階の看護婦さんにあがってきてもらいます。
その日も1人でいつもの様に点滴をうっていて、
気分が悪いのでウトウトしていると、
どこからかナースコールの音がして、
看護婦さんが2人、
階段をパタパタ上がってくる音がします。
母が
「今日は隣の部屋にも患者さんがいるのかな?」
と思っていると、
看護婦さんは母のいる部屋に来て、
「呼びましたか?」と聞いてくるので
「隣じゃないかな。私まだ終わってないよ」
と答えたそうです。
すると看護婦さん達が顔を見合わせて
「嫌やわ〜またやー」と話しながら、
一階へおりて行きました。
二階はやはり、母だけだったのです。
母は不調だったので、
怖がる余裕もなかったのですが、
暫くすると横にあるベッドになんとなく人の気配を感じ、
寝返ってみると、
何とも言えない表情をした男性がベッドに座っていて、
母の方をじっと見ていたそうです。
不調の上に気味が悪くて
母はまた反対向いて目をつむり、
もう一度振り返ると、
そこには誰もいなかったそうです。
帰ってきた母が話してくれたリアルな話だったので、
今でも「何とも言えない表情」という表現が
焼き付いているのですが、
最近実家で母に、こんな事あったよな〜? と聞くと、
母はすっかり忘れているので、それも怖いです。
私も忘れたい‥‥。
母は幽霊とか、全く興味のないタイプです。
(怖がりの37歳)