怪・その37
「線香を食する」
花屋で働いていた頃の話です。
お盆と言えば、田舎の花屋にとっては、
法事の盛花やお墓参りの花束など、
一年で最もと言っていい程忙しく、
来客数も売上も通常の10倍になる程でした。
私は独身でしたし仕事も忙しかったので、
家族がお墓参りに行くのですが、
家族持ちの上司は、
子供にもお盆の風習をきちんと教えておきたいと、
お盆の喧騒が静まる頃、
自分の仕事の休みに合わせて、
家族でお墓参りに行っていました。
その年も、お墓にお参りする人がいなくなった頃、
上司は家族とお墓参りに行ったそうです。
無事お墓参りを終え、車に向かって皆で歩いていると、
当時、幼稚園の年小さんだった長男くんが、
「ねぇ、
どうしてあのおばぁちゃんは
お線香を食べてるの?」
と質問してきたそうです。
指差す方には、おばぁちゃんどころか誰もおらず。
ひぃっ! と思った上司は
「指をさしてはいけないよ」
と言い、早足で車に乗り込み急いで帰ったそうです。
車内で長男くんに聞いたところ、
着物を着たおばぁちゃんが、
お墓の前でひざまずき、
前かがみになって両手で口の中に押し込む様に
貪り食う様子を説明してくれたそうです。
上司も奥さんも
「子供には見えるって言うからね〜」と、
そんなこともあるかもね、くらいの感じだったそうです。
その話を聞いた私は、数年後に、
亡くなった人はお線香やその煙を好んで食する、
と何かで聞いた時、
あぁ、長男くんは本当に見えてたんだ!
と納得し、ゾワッとなりました。
(黒ニコ)