怪・その33
「せせらぎを聞きながら」
三年前のちょうど今頃のことです。
娘の高校の初めての三者面談に向かうため、
二人で最寄駅の改札を出ようとしていました。
娘の高校は、駅を出て、大きな川にかかる橋を渡り、
しばらく長い山道を登ったところにあります。
娘は、ママ、あの山道登れる?
と笑いながら聞いてきました。
私は、毎日あれを登ってえらいね、
でも川のせせらぎを聞きながらだから、
風情があっていいね、と答えました。
すると娘が、
あの川で何年か前、溺れた生徒がいるんだって、
うちの学校の。
と話し始めたところで、
自動改札を出るため会話が途切れました。
駅を出る階段を降りながら、
私は、最近の話? 男の子? と聞きました。
その途端、左足首をぐん! と
背後から掴まれる感じがありました。
あ、溺れた子は亡くなったのだな、
と直感しました。
前を歩いていた娘が振り返って
返事をしようとしたのを、
ちがう話しようか、と制しました。
察しのいい娘は、
すぐにちがう話を始めてくれました。
帰宅してから足首を見ると
指の形がはっきりとした赤紫色の手型が
ついていました。
娘によると、数年前、
高校生の男の子が川で水遊びをしていて、
川のカーブの内側の
思いがけない深さと水の流れの速さに抗いきれず、
命を落としたそうです。
さあ、夏休みだ!
という雰囲気を纏った私たち母娘が
軽い気持ちで話題にするべきではなかったのだと
思います。
打ち身のアザとは違って、
その手型は
二日ほどできれいに消えてしまいました。
(ルパンのママ)