怪・その7
「六歩ずつで」
実家は、細長い庭を挟んで
お隣の家と並んでいました。
私の部屋は、庭のすぐ上だったのですが、
そこでたまに、お隣から、
「何の音だろう?」というような
物音が聞こえることがありました。
それは、
ドッドッドッドッドッドッ
ドッドッドッドッドッドッ
と、人が走るような音です。
玄関のほうから奥のほうへ、
奥のほうから玄関がわへ、
まっすぐの道を六歩ずつで
往復しているようでした。
お孫さんが来て、遊んでいるのかな、
と思っていたのですが、
子どもならもっといろんな方向に走ったり、
足音も不規則になりそうなもので、
騒ぐような声が全く聞こえないのも
不思議でした。
足音は淡々と、
正確にリズムを刻みながら、
往復を繰り返しているだけです。
ドッドッドッドッドッドッ
ドッドッドッドッドッドッ
‥‥‥‥
何だろうな、と思っていると、
ドッドッドッドッドッドッ
ドッ
ふいに、足音がやみました。
「気づかれた」となぜか思った私は、
そのまますくんだように動けませんでしたが、
しばらくすると
‥‥ドッドッドッドッドッ
ドッドッドッドッドッドッ
足音は再開するのでした。
あの音が何だったのか、
いまだにわかっていません。
(糸口)