世界をつくってくれたもの。祖父江慎さんの巻 世界をつくってくれたもの。祖父江慎さんの巻
同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったいどんなものでできているのでしょうか。
子ども時代から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズ第2弾にご登場くださるのは
グラフィックデザイナーの祖父江慎さんです。
祖父江さんは、どのような子ども時代をすごして、
すごいデザイン作品をうみつづける大人に
なったのでしょうか。
インタビューはほぼ日の菅野がつとめます。
祖父江慎さんのプロフィール
第3回
これ、よくないことだ。
写真
※注意
この第3回は、
いきものを殺す内容が出てきます。
ご注意ください。
第3回だけを飛ばしてお読みいただいても
インタビューの内容は通じます。
──
祖父江さんが子どもの頃に出会ったなかで、
感謝したいのは、
人ではなくカエルですか。
祖父江
カエルをね、
ぼくは解剖しすぎてしまいました。
──
え‥‥!
祖父江
だよね。そうなの。
おもちゃ的な扱いをしました。
だから、ここからは
すこしがまんして聞いて(読んで)
ほしいんですけどね。



子どもの頃、うちのまわりは田んぼだらで、
カエルがたくさんいました。
道を歩くと、
カエルがピョンピョンピョンピョン
虫のように飛んだし、
雨が降ると、カエルが車にひかれて
道の左右にドドドドーと並んで死んでいました。
──
そんなにカエルが豊富な地域で。
祖父江
もう余って余ってしょうがないぐらい
カエルがいました。
ぼくらはカエル釣りをやったり、
カエルのお尻に爆竹入れて飛ばしたり、
手術ごっこもしました。
むかし、おもちゃ屋さんで
解剖セットというのが売ってましてね。
写真
──
いまはあまり見ないですね。
祖父江
ハサミとかメスとか注射器が入ってました。
たぶん昆虫用ですよね。
──
そのハサミは切れるんですか?
祖父江
すごく切りづらくて、切られたら痛いやつですよ。
保存液という名の赤と青の液体も入ってて、
それを注射器でチューって吸って
虫の体にプシュって入れました。
あとから知ったんだけど、
あれは保存液でもなんでもなくて
ただの色水だったみたいです。
──
ほんとうにおもちゃだったんですね。
祖父江
昆虫採集して、
「これやっとくと、保存きくんだ」と思って
ギュッ(おさえる)、プシュ(注入)、
とやったらね、
胴体がポンと取れちゃって
びっくりしたこともありました。



ぼくはさっき言ったように、
友達はあんまりいなくて、
いつもだいたいおんなじ子とばっかり遊んでました。
最悪な遊びをしていたんですよ。
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──
祖父江さんがカエルから得たものって‥‥。
祖父江
それが、ここからなんですよ。



ある日、カエルのおなかを切ったら、
なかがものすごく
色鮮やかだったことがあったんです。
紫とイエローの、
カドミウム的な蛍光色の内臓でした。
まるであとから絵の具で塗ったような色をしてた。



あ‥‥ちょっと思い出したんだけど、
内臓のイエローといえば、
毛虫踏みゲームってやってませんでした?
──
やってません。
祖父江
ちょっと脱線しますけどもね、
ぼくの通ってた小学校の校庭には木がいっぱいあって、
当番で校庭を掃除しました。
毛虫が多くて多くて、
掃いても掃いてもじゃんじゃん出てくるの。
みんな掃除するのが嫌だったもので、
色の当てっこをして過ごしていました。
毛虫を踏むと、緑とか紫とか赤だとか、
いろんな色が出るんですよ。
「あ、黄色!」「あ、赤!」
「こんどは緑!」「イェーイ」
それは置いといて。
──
置いといて。
祖父江
たいていの場合、カエルはなかをむくと、
刺し身のような
おいしいそうな色をしてるんです。



ぼくの友達で、カエルをむくのが
とてもうまい子がいてね、
またちょっと脱線しますけども、
その子は肛門のところに爪をたててピッてやって、
しゃーっと手開きしたもんですよ。



きれいなお刺身の色をしてるから、
その子は寿司を握るみたいに、
ピュッてやって「へい!」といって出してました。
みんなが「かわいそうだと思わないの?」とか
「最低!」とか言って怒りました。
当時ちょっと好きだった女子にも
「最低」と言われて、
その子はシュンとしちゃってた。
でも、あのテクニックはすごかったなぁ。
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──
それで、そのカドミウム的な蛍光色の
めずらしいカエルはどうなったんですか?
祖父江
そうそう、
内臓鮮やかガエルの話だったよね。
あれはヒキガエルだったのか、
ウシガエルだったのか、わかんないけど、
大きめのカエルでした。



あまりにも色鮮やかだったので、
解剖ごっこしてたふたりともがビビっちゃって
「げっ、やばい!」
と叫びました。



カエルって、おなかを開けても
そんなにすぐは死なないんです。
内臓出したまま元気に生きてたりするので、
「どうしましょう」という気持ちになって、
「逃げろー」
といってふたりで逃げました。
そして、カエルのことはすっかり忘れて
違う遊びをしていました。



夕方になって
「また明日ねー、遊ぼうね」
と、その友達と別れました。
ところがそのカエルの解剖現場は、
うちの家の近くだったのです。
帰り道に思い出して、
怖いけど気になりはじめました。
あの鮮やかなカエルのおなかがどうなったか? 
どうなってたと思います? 
──
灰色や赤に変色してたとか? 
祖父江
おしい! 
ぼくが現場近くを通りかかったとき、
まずはすごく怖かったから、
カエルを遠くから見ることにしました。
すると、カエルのなかが、
もう鮮やかな色じゃなかったんです。
「あ、怖くなくなったんだ」
と思って近づいたら、黒くなってた。
──
亡くなって、黒くなってたんですか。
祖父江
いや‥‥、ちょっとずつ近づいていったら、
その黒色が
すごく動いているんですよ。
──
!!!!!
祖父江
「あれ? まだ生きてるのかな?」と思って、
さらに近づいたら、おなかのなかに、
アリがいっぱい詰まってました。
──
!!!!!!
祖父江
鮮やかな内臓が黒アリで覆われて見えなかったんです。
写真
──
衝撃です。
祖父江
「内臓が鮮やかだったカエル」の次の図が、
「大量のアリが内臓の表面を動いている」図で、
ダブルで怖くなり、
そこから見るのはやめました。
──
そうですね。
祖父江
うちに帰ったら、すぐに母親が
「ごはんだよ」
──
そんな‥‥。
祖父江
そのとき、やっぱり
ごはんが食べられなくなりました。
母親に
「なに。元気ないね」
と言われました。
「なんか、いらない」
って応えました。
悪いことをしたって、ぼくは反省しました。



もともとカエルが好きだったのに、
好きな気持ちが行きすぎて、死体愛まで行っていた。
好きすぎて、命をおもちゃにしてしまっていたのです。
「これ、よくないことだ」とそのときすごく思って、
いままで殺した分をなんとか償わなければ、と。
──
ああ、すごい方向に。
祖父江
そう。そこからぼくは自分を、
カエルの味方に切り替えたのです。
(明日につづきます)
2019-03-17-SUN
世界をつくってくれたもの。ヤマザキマリさんの巻