同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったいどんなものでできているのでしょうか。
子ども時代から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズ第2弾にご登場くださるのは
グラフィックデザイナーの祖父江慎さんです。
祖父江さんは、どのような子ども時代をすごして、
すごいデザイン作品をうみつづける大人に
なったのでしょうか。
インタビューはほぼ日の菅野がつとめます。
真夏の闘い。
- ──
- そこから、祖父江さんは
カエルの味方になったんですね。
- 祖父江
- そこから、カエルを保護する役回りになりました。
- ──
- 現在、どのような活動を?
- 祖父江
- たとえばですね、
カエルが困ったときに、
ぼくのところに来るようになりました。
- ──
- カエルが?
- 祖父江
- まぁ、一例をご紹介しましょう。
夏の朝、玄関のドアを開けたら、
ギンギラギンになったアスファルトの道を、
一匹のヒキカエルが、
うちをめざして歩いてきたことがあります。
- ──
- 夏のアスファルトって、
フライパンみたいに熱くなりますよね?
- 祖父江
- そう。普通、避けますよね。
よく見たら、お尻から卵をざーっと
ぶらさげながら歩いていました。
つまり、卵を産む場所がなかったんです。
ヒキガエルの卵ってめっちゃ長いんですよ。
- ──
- まわりに卵を産めるような
水辺がなかったんでしょうか。
- 祖父江
- 卵を産む場所を探しながら産んじゃったんだね。
それで、困ってぼくのところに
助けを求めに来たんだろうなということが、
ピンとわかりました。
- ──
- ああ、その部分では「体験」があるから
ピンとわかるんですね!
- 祖父江
- そう。
しかも、なじみのカエルだったんです。
近くの公園とか道ばたでよく会ってた。
- ──
- あ、よく……よく、会ってた?
- 祖父江
- 雨が降ったりすると、家の近くの道によくいました。
まあ正確におんなじ個体かどうか、
わかんないけども。
- ──
- ああ、そうなんですね。
- 祖父江
- よく知ってるカエルだったから、
卵をぶらさげている姿を見たとき、
「あそこの公園で産めばいいのに」と思いました。
その子とよく会う公園には池があったんです。
最初、おしりから長く卵をひきずってる
その姿を見たとき、
ぼくはもう死んでるだろうなと思いました。
でも、近づいたらまだ生きていました。
「よっしゃ!! まかせとけ!
いいところに来たな!
昔、ぼくが悪いことしたあのぜんぶの、
恩を返すべきときがいまこそやってきた!」
- ──
- ああ、すごい。
- 祖父江
- そう言いながら卵を全部手でたぐり寄せて、
「早く行かなきゃ乾燥しちゃうぞ」
と走り出しました。
- ──
- どこに行ったんですか?
- 祖父江
- 公園です。
いつもそのカエルと会ってた公園。
だけど、その公園にある池は、
水が抜かれていたんです。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 祖父江
- だから産む場所がなくて、
「ヘルプ・ミー!」といってうちに来たんです。
たぶん、公園の人たちは、
ボウフラが出るから水を抜いたんでしょう。
- ──
- 夏だし、そうですね。
- 祖父江
- 水のない乾いたコンクリートの池に
あわててそのカエルを置いて
「水を供給しなきゃ」と思いました。
バケツ?
いや、バケツだとたいへんすぎる。
- ──
- 池を埋めるには、きっと
何杯も何杯もかかりますね。
- 祖父江
- そうやって考えてたら、
もうカラスが狙ってるの!
ずーっとこっちを見てる。
- ──
- 目ざといですね。
- 祖父江
- とりあえずそのカエルを草で隠しました。
けど、カラスは頭がいいから、
そこにいたのを覚えたかもしれない。
焦ったぼくはまわりを見渡し、
池からちょっと離れたところに
公園の水道を見つけました。
「カラスに食われないように
そこでちゃんと待ってろ!」
とカエルに言い聞かせて、金物屋さんに走り、
ホースを買ってきました。
- ──
- ホースを!
- 祖父江
- なるべく長いホースを買いました。
それを使って池に水をはりました。
なんとか助かった。
そして翌日、大丈夫かどうか確認しに行くと、
また池の水が抜かれてた。
- ──
- ‥‥それは、いち個人が
勝手に公園の池に水をはっちゃったわけですから、
公園の対策とは真反対のことになりますよね。
- 祖父江
- そうなんです。
昨日水をはったばかりだったから、
まだ池の底はところどころ湿ってて、助かりました。
でも、死んだ卵もいくつかあって、
「これはいけない!」と思い、
毎日ホースを持って、公園に通いました。
- ──
- ちなみに祖父江さんはそのときすでに
デザイナーだったわけですよね。
- 祖父江
- そうです、仕事してました。
- ──
- いったい誰がなんのために
毎日水を溜めるのか、
ものすごく不気味だったことでしょう。
- 祖父江
- そしたら、ある日、
ホースをつないでた水道の
蛇口のひねるとこが、なくなってました。
- ──
- うわぁ。はやく公園の方に相談しましょうよ!
- 祖父江
- あの取っ手がないと、
中のギザギザのネジみたいなのしかなくて、
指がイテテテテとなって蛇口を回せないんです。
- ──
- そうでしょうね。
- 祖父江
- そこで、ぼくはもういちど
ホースを売っていた金物屋さんに行って
「水道の回すところだけ売ってませんか?」
「あるよー」
「ください」
- ──
- この人なにやってんだって話ですね。
- 祖父江
- その取っ手をつけて、水栓をひねって、
池に水を溜めました。
でも、取っ手をつけたままにしておくと
また抜かれちゃうから、
毎日マイ蛇口ひねりとマイホースを手に
公園に通いました。
でも、その闘いは、ある日終わりを迎えました。
- ──
- 公園の管理の方が夏休みをとったから?
- 祖父江
- ブ・ブー。
卵がかえってオタマになったからです。
ヒキガエルの、ちっちゃくて黒い
オタマジャクシになって、
たくさんすいすい泳ぎだした。
そうしたら、水抜きはなくなりました。
- ──
- ああ、公園の方も、なぜだか
理由がわかったんですね。
- 祖父江
- そう。わかったの。
- ──
- わけをはやく説明すればよかったのかもしれませんが、
闘いが終わってよかったです。
(明日につづきます)
2019-03-18-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN