第1回
第3次性徴が来た!?
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糸井 |
いきなりですが、ハゲ、禿頭、光頭、薄毛……、
男性特有の脱毛状態を、どう呼ぶのがいいんでしょう。 |
呉 |
俺は、ゲーハーと言ったほうがいいような気がするんだ
「GH」と書いてゲーハー。(笑) |
糸井 |
ホモをモーホーと言うみたいなもんですね。
ちなみに呉さんは、いつ頃から
「きちゃったな」と悟られました? |
呉 |
若い頃はハゲると思わなかったんだよ。
親戚には白髪とハゲの両系統あって、
子どもの頃から白髪のほうになれと念じてたけど、
30代くらいから反対のほうにいっちゃって……。
40過ぎたらもう諦めがきたね。
今じゃ、82歳の親父のほうが俺より髪があって、
「おまえ、薄くなったなぁ」って言われるんだよ。 |
糸井 |
親子の絵として、おかしい。 |
呉 |
俺ね、女性誌でゲーハーの話するの、
ちょっと抵抗があったんだ。 |
糸井 |
なにゆえに? |
呉 |
学生時代なんか、同じ下宿の連中と銭湯に行って、
男同士、おまえのアレは大きいなぁ、
俺の小っちゃいんだとか言い合うの、楽しかったじゃん。 |
糸井 |
楽しかないよ、別に。 |
呉 |
楽しいって(笑)。
それが男が一人、女湯に入って、
女が大きい小さいとか言いながら
俺のことを見てると思うと、なんかイヤじゃない?
女性の前でゲーハーの話をするのは、
それに近いものがある。 |
糸井 |
ほう……。 |
呉 |
学生時代の仲間が集まると、
40も過ぎりゃ、おまえ頭薄くなったなとか、
おまえは白いなという話は必ず出るけど、
あれは昔、大きいの小さいと言ってたのと同じで、
ほとんど青春に返ったような気持ちなのよ。
男同士だから小さかろうか大きかろうが、
ハゲてようがハゲていまいが関係ない。
ところが、対女性意識が入ると
意味が違ってきちゃうんだよ。 |
糸井 |
そこのところを知りたいんだな。
清水さんは、『禿頭考』という本も出してる
ハゲ研究家です。 |
呉 |
女なのに? |
清水 |
私、ハゲに関してのお仕事があれば、
ノーギャラでも行っちゃいます。 |
呉 |
お父さん、お兄さんがそうだとか。 |
清水 |
父はもうツルッツル。 |
呉 |
それで小さい頃からゲーハーが好きだった。 |
清水 |
というより、すごく関心があるんです。
こんなに顕著に
人生を左右している現状があるにもかかわらず、
なぜ誰もそれを研究していないのか。
そのあたりが興味をもったきっかけですね。 |
糸井 |
呉さんがさっき言ったみたいに、
男同士の親しい関係ではハゲだの何だの言えるけど、
普通だと、当事者の前では
口ごもっちゃうようなところがあるじゃない?
ところが清水さんの著書によれば、
フランスでは口ごもらないんだって。
ハゲ、オッケー。 |
清水 |
もう、まったくオッケー。
面と向かって「ハゲ」と言うことについて、
言うほうも言われるほうもぜんぜん平気。
悪口の材料にならないんです。
欧米って、そうみたいですよ。 |
糸井 |
じゃあ、日本ではなぜ口に出しづらいのか。
僕が思うに、ハゲという言葉自体が、
“欠損"をあらわしているからじゃないか。 |
呉 |
語源的には多分、
「剥ぐ」「剥ぎ取る」からきてると思うんだよね。 |
糸井 |
本来あったものを剥ぎ取ったと。
つまり、「ある」という存在が前提になって、
それに対し、「欠けたるもの」ってことでしょう。
「ある」に対して「ない」。
だから悪いと。
それは「ブス」と言うのと同じように、
すでに言葉からして、
ありうべき姿ではないっていう意味を含んでるのよ。
あるのが普通だという物差しを
最初にもってきているところが、
ハゲという言葉を使っちゃダメだという意識の
ベースになってるんじゃないかなあ。 |
呉 |
それは、なかなか有力な説ですね。 |
糸井 |
それが西洋では、
状態としての「そういうもの」と
「こういうもの」であって、
「ある」「ない」じゃない。 |
呉 |
それから西洋人の場合、見た目的にも
ゲーハーがあまりみっともなくないんだよね。
もともと髪の毛が金髪とかプラチナブロンドだったり、
茶色でも色が薄いから、
髪の毛と肌の色とあまり違わなくて、
ハゲても目立たない。
日本人は地肌の色が白っぽくて、髪の毛が黒いでしょう。
だから滅び行く草原状態が
どんどんハッキリしてくるんだ。 |
糸井 |
研究してますねぇ……。 |
呉 |
俺、アフリカに行って見たけど、黒人にもハゲはいる。
だけど黒と黒で目立たない。
で、東洋人だけなんですよ、ハゲが目立つのは。 |
清水 |
それは私も同感です。
「黒い毛の中の白いハゲ」は、
「金色の中の白いハゲ」「黒い中の黒いハゲ」より
確実に目立ちます。
それに東洋人は毛が太いんですよね。
それもあって、抜けると目立つ。 |
呉 |
結局、目立つというのが不利なんですね。
糸井説でいうところの、“欠損"を強調しちゃうんだ。 |
清水 |
出産したとき、息子が黒々とした頭をしてたんですよ。
それで、毛の寿命がもし決まっているのなら、
赤ちゃんのときにハゲてても
何のストレスもないんだから、
今のこの黒々の分を、子どもが
60何歳かになったときの1年にまわしたいって、
私、真剣に思いましたね。 |
呉 |
息子のことに関しては、ハゲが気になる親心(笑)。
毛の量ということでは、人間の首から上の毛の総量は、
年をとっても変わらないという説がありますね。
俺もそれ、実感したよ。
20何年、同じ床屋だけど、いつ頃からか、
床屋が耳の毛を切ってくれるようになってね。
それで耳毛が生えてきたことに気づいたんだ。
今じゃ床屋だけでは間に合わなくて、
自分でも切ってる。
じゃないと耳がかゆくってさ。
ヒゲだって若い頃は薄かったし、
眉毛もそんなに太くなかったのが、
頭が薄くなるにつれて、眉毛は村山(富市)状態。
ヒゲも濃くなっちゃって。
それで1、2年前からヒゲを生やしてるの。 |
清水 |
中年になって耳毛が生える話はよく聞きますね。
私、頭から毛が抜け始める一方で、
硬い耳毛が生える現象を、
第3次性徴じゃないかと勝手に思ってて。 |
糸井 |
第3次−−、いいねえ。
第4次もあるんじゃないかって気がして。 |
呉 |
“セイチョウ"っていう響きもいい。
(つづく)
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